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黄巾無双  作者: 味の素
反董卓連合の章
32/62

第二十四話 この中に1人、お人好しがいる!

オーケストラを先導しようとする者は聴衆に背を向けねばならない。


~ジェームズ・クルーク~

どうも波才です。最近のマイブームは夜の幽州の町を配下と(普通の兵隊さん)一緒に巡る事です。

仕事終わりの濁り酒うめぇ。大人な幽州でうっはうは。えっちぃお店は性病が怖いのでいけません。


……別にいけなくてもいいよ、ほら、私って魔法使い目指しているし。


まぁそれはおいといて、反董卓連合のみなさんが集まる地点にやっとの事で到着しました。

この時代には自動車なんてあるわけもなく、当然馬に乗ってきたんですけど……腰が痛ぇ。

思わず腰に手をやって擦る。まったく、くらがない馬乗りがここまできついものだとは……そりゃ私だって前々世で馬に乗りましたが現代日本で馬乗りするわけもなく、今の私の乗馬技術は無くなったにも等しいです。


そんな私にとって幽州からの長旅はかなり応えた。

本音を言うとこの集合地点に着いた時点でベッドにルパンダイブしたい気分だ。

まぁそんなことしたらけつに蹴り入れられるが。


もう一つ、疲れた理由がある。

今私は狐の仮面を付けてはいない。代わりに付けているのはジェイソンのような目と口の所が空いた麻袋だ。

何となく気分で選んできたが後悔している。蒸れるし暑いし、かといって代えは持ってきていない。

人間勢いでやったことは後悔しかしねぇ、と自分の馬鹿さ加減に呆れていた。


そんな陰鬱な気分を紛らわすべく、周りを蠢くやからを観察する事にした。


いろんな所の兵隊さんがたくさん蠢いている。まだ蟻の群れ見ている方が気分が晴れるな。様々な旗が自らを主張するように風に揺られているのを見ていると、何とも言えない無糞悪さが込み上げてくる。


……にしても、みなさんずいぶん勢力ごとに服装違いますね。

地域の違いか?にしてもここまで露骨にそれが表れているのも珍しい。


特に三国志の主要人物というか有名所が独特だな。

解りやすくて良いですけど、これって下手に奪われて鎧を他所に使われたら大変では?解りやすいののも仇となりますからね。


指定された地点に赴く途中に見えたお堅い感じの青い鎧は曹操さんとこのかな。

まさに戦場で戦う兵士の服装と言ったところか。様々な戦いに臨機応変に対応できる、ようするに標準的な鎧。まぁ色は普通って感じではないが。


さらに奥の方を見れば呉の旗が風に揺れている。


呉の赤い服はずいぶんと機動性重視ですね。急所などの要所のみに鎧を装備しているだけだから極めて動きやすい。

軽いので移動能力や素早い陣形の変化に対応し、船の上でも戦いやすい服装と言ったところかな。ああいうのは初めて見るので想像するだけで面白いですね。

彼らがどんな戦いをするのかとても楽しみです。


そして何気なく本陣と思われる所へ視線を動かすと……。絶句した。


趣味の悪い金ぴかの鎧が行き来している。おいおい、なんだあれは?今日はギルガメッシュの記念日か?あいつ確か並の酒には満足しねぇぞ?

あれだと太陽の下で戦うには味方同士で太陽の光が反射し合い、目くらましになっちまう。

防御力はありそうですけどあれはないだろう。というよりこの時代にメッキを施すなんてどんな成金かっての。

少なくとも関わりたくはないなぁ。



そんな事を考えているうちに横を緑の鎧が通り過ぎる。他と比べる点としては頭に兜がないことがあげられる。つまり視野が広いっつうこった。多少防御面は落ちますがそれを補える。

風の変化も感じ取れるので曹操さんの所とは一長一短かな。


みなさん個性的ですねぇ~。

それに比べて我が軍は公孫賛軍なので普通です。

色も地味、兵士達も地味、君主も地味。

結局は普通が一番~。





「お、おい。あれはどこの軍だ?」


「ありゃ公孫賛軍じゃないのか」


「見て見ろよあの異様な姿と先頭に立つ変なもの被ったやつ…なんかおかしいぞあいつら」



あるぇ~?

みなさん何故か注目浴びちゃってます。

私何か間違っちゃいましたか?


我が軍の兵士の内私の部下、黄巾党時代に私に付き従っていた人達がまた私のもとで戦いたいと来てくれたんですが彼らの服装はちょっと違います。

本当にちょっとですよ?

馬にまたがり全身真っ黒な甲冑に身を包んでそれぞれがハルバート持っているだけですよ?

ちなみに馬も装甲済みです。


しかもその全てが私の鉱石の知識と氣の特殊な精錬たる製造法、波才のアトリエ方式により、独自の金属の生成に成功。

軽く、堅く、鋭く。

秦の始皇帝時代に作られた製法の一つにオーパーツがあった。それはなんとメッキ。

この時作られた特殊な製法により生成されて研磨された剣は、現代においても錆びず、曲がらず、輝きを失わずに光り続けている。漢の時代に作られた剣は錆びつき、朽ちているのにだ。

何らかの過程で失われて歴史の影に消え去ったオーパーツ。


それを応用、発展!!

日本刀で一番切れる刀って何?それは車のスプリングで作った刀さ!!氣とかまったくない世界で五十人切ってもまだ切れるとか異常過ぎる。

こっちに持ち込めばさらなる異常!!オーパーツと現代で混ぜ合わせてチューニングしてシンクロしてアクセルシンクロ!!


これぞ公孫軍の突撃部隊たる鎧連隊!!

幽州の時代の先取りは世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!なんて……。















……ってあれ?

なんで彼らがここにいるんですか?

お留守番でしたよね?

鎧達はお留守番のはずですよね?

なんで秘蔵の兵がここにいるんですか?


おい、テンション上がってよく考えなかったけれどこれおかしいぞ。



「おお!!やっぱり目立っているなぁ!!」



うん。

凄い楽しそうな声が聞こえますね。

振り向けば白蓮が満円の笑みを浮かべていた。



「白蓮?もしかしなくても彼らって」


「ああ、私が連れてきた!!」



そういって指をッグと親指を突き出す形にした白蓮。



「そうですかぁ。白蓮が彼らを」


「ああ、単経の名前を出したらすぐに了承してくれたよ」


「「はははははははははははははははははははははははは」」



互いに楽しそうに笑う二人。

ただし、波才の目は蛇のように無機質で、狐のように細められていたが。

波才は白蓮の顔面を掴みそのまま地面に叩きつける。

骨がひしゃげるような音がしたけど気にしない。

ああ、いい天気ですね。



「死ぬがよい」


「ちょっと待て!?今割と本気でやっただろ!?下手すりゃ死んでたぞ!?」



いや、逆に聞きますけど何で貴方普通に生きてるんですか?感覚的には「殺った」って感じが確かにしたんだけどな~。



「すいません、次は確実に仕留めます。琉生」


「謝るとこはそこじゃってうおぁぁぁぁ!?」



後ろから琉生が斬りつけるも、すんでで転がって避けた白蓮。泣き別れた髪が風にながれて消えて行く。

惜しい。あと少しで首を刈れましたね。



「琉生……?お、お前は私を本当に殺そうとしないよな?な?」



いましがた殺気増し増しで斬りつけた相手に向かってそんな言葉言えるなんて、ある意味凄い。

関心するなぁ~憧れちゃうな~。

と、ここで白蓮が目を見開く。あ、ようやく解ったようですね。顔が土気色になっています。

口の片方だけつり上がって乾いた笑いをこぼす白蓮。ついでに機械仕掛けの人形のようにぎぎぎと私を見つめる。こっちみんな。


そこで私はここ一年で天和様達にも見せたことのないような、すばらしい笑顔で見つめ返す。


白蓮さんも全てを超越したような笑いを見せてくれます。

良い主従関係でしたね。



「主、なぜ幽州にいるはずの鎧連隊がここにいるのです?って何をしているんですか?」



そこに姿を現す美須々。

白蓮の顔には希望の女神を見つけたような表情。



「ええ、実は」



かくかくしかじか四角いムーブ。



「全員での顔合わせがあるので殺すなら死なない程度に殺してくださいね。それでは」



美須々、もの凄い「どうでもいいからとっとと働け」っていうその顔止めてくれません?

その笑顔で何人のメンタルがランゴスタな新社会人が潰れたと思っているんですか。


あ、見捨てられた白蓮がブルーハワイ並みに真っ青だ。

青蓮に改名したらどうですか?なんかそっちの方がかっこいい。


残念ですが白蓮、その救いの女神は私の部下です。というより貴方の武将全員が私の部下です。

ついでに貴方が連れてきた鎧連隊の面々も今白蓮の周りを囲んでいる。ええと、こんな時なんて言うんだっけ?あ、思い出した。


まさに四面楚歌。


礎歌の代わりに明埜のヘビメタでも聞かせて上げましょうか。この状況にはピッタリデス。



「さて、言い訳があるのなら死ぬ前に聞いて上げますよ」



やっぱり良い笑いで話しかける私。

琉生は今か今かと私の指示を待っています。あ、目が白蓮の首と胴体を交互に見ていますね。私としては首がオススメですよ?

そう目で話すと彼女の目線が首に固定しました。

めでたしめでたし。





「パイパイちゃん!!」




ん?

聞き慣れない声ですね。

どなたでしょうか?

そう思って私が振り向くと……そこには桃色の髪をなびかせて走り寄る少女がいた。


追記、彼女の胸が……OH,揺れてやがる。


















~劉備 side~



洛陽の民が酷い目に遭っている。


そう聞いた私はいてもたってもいられずこの董卓連合に参加した。

まだ兵は少ないけれどとっても頼りになる愛紗ちゃんに鈴々ちゃんに星ちゃん。

それに軍師の朱里ちゃんに雛里ちゃん。

みんながいればきっとどんなことでも乗り越えられる!!


そう思ってここに来たんだけど。



「うわぁ。すごいね、あの人達」



私が見たのは全身を鎧に包んで見たこともない槍のような物を持った部隊。

よくわからないけどすごい感じがするよ。

それにかっこいいなぁ…。



「……よく訓練もされていますね。それに彼らが纏っている空気が他とは違います」


「うん、曹操さんの所もすごいけどそれと同じ……それ以上かも知れませんそれにあの鎧は……」



そう言って考え込むのは朱里ちゃんに雛里ちゃん。


へぇ!!すごいすごい!!

曹操さんと同じぐらい強いなんて。

これで洛陽の人達もきっと助けられるよ!!



「すごいのだ!!かっこいいのだ!!」



鈴々ちゃんも目を輝かせて見てる。



「だよねだよね!!かっこいいなぁ……」


「桃香様!!もう少し落ち着きを持って冷静に彼らを見てください」



そう呆れて言う愛紗ちゃん。

えと……冷静に見るんだね。

冷静に………。

冷静に……。




「え、うん。…かっこいいよね?」



がくっと体が崩れた愛紗ちゃん。

うん、やっぱり何度見てもかっこいいよ!!



「………」



あれ?星ちゃんが何故か真剣にあの人達を見てる。



「桃香殿。彼らは伯珪殿の兵のようですぞ」



その言葉に私と愛紗ちゃんと鈴々ちゃんが驚く。

え?確か私が黄巾討伐の時にいたときはあんな人達いなかったよね?



「白蓮殿の兵ですか…彼らのような者達は見たことがありませんね」


「鈴々も見たことないのだ!!」



一緒に白蓮ちゃんの所で黄巾退治をしたことがある二人も私と同じみたい。



「話によれば公孫賛さんのもとに黄巾の乱が終わった後、有能な方々が入ったとは聞いています。その人達なのではないでしょうか」


「話によれば農政改革に軍の改革、町の開発を行って公孫賛さんの町は以前よりもはるかに良くなったと聞きます。これはその彼らの軍なのかも知れません。それにしてもこんな兵隊さん達……初めて見ます」


「ふむ…だが白蓮殿に付き従い、なおかつ有能とは。どのような者達なのでしょうか」



心底驚いたと笑うをする星さんに白蓮さんのことを知る人達は乾いた笑いを漏らす。

星ちゃんや私達が去るときの白蓮ちゃんは……なんていうか、うん、よかったね白蓮ちゃん!!心強い仲間ができたんだね!!

……そうだ!!久しぶりだし白蓮ちゃんに会ってみたい。それに白蓮ちゃんの新しい仲間の人達も紹介してもらおう!!



「あいさつしてこよう!!お~いパイパイちゃん!!」



そう言って私は走り出す。



「と、桃香様!?白蓮殿は無害でしょうが彼らが危険であることも……って聞いてください!!」












~波才 side~



突然現れた少女。

桃色の髪、どことなく女子高生の服(イメクラっぽい感じはするが)、間違いなく特別側の人間だ。


この状況に目を可愛らしくパチクリさせている。

というかパイパイちゃん!!って誰ですか?白蓮のことですか?


ジ~っと私は白蓮の胸を眺める。



「な、なんだよ」


「……はぁ」


「なんでため息!?」



彼女はパイパイっていうほど大きくありませんよ。

並です並。

普通です。

決っっっっっっっしてそんな大層なものは持ってません。



「というか桃香じゃないか!?」



今度こそ救いの女神が現れたと喜ぶ白蓮。いや、その救いの女神貴方の名前間違えていませんでした?

にしても桃香……真名なのだろうが、どこかで聞いたことがあるような名前ですねぇ。

誰だっけか?

そう思いまじまじと少女を見つめます。



「………」



うん、解りません。

髪は桃色。『とうか』の『とう』はもしかしたら『桃』と書くのかもしれない。

相も変わらずここの人達は変わった髪の色ですね。

服はイメク……変わった学生服みたいなのを着ています。あと胸が大きいですね。

彼女がパイパイちゃんと呼ばれるべきなのでは?



って何を考えているんだ私。

……妹よ。兄はもう駄目です。セクハラ親父になってしまいました。


軽く自己嫌悪に陥っていると。



「あ、もしかして貴方が白蓮ちゃんの最近仲間になったって言うお友達ですか?」



こちらを伺うように顔を覗き込んできた。その時彼女から香る匂いは何とも言えない良いものであった。

……にしてもこの少女、この状況でよくそんな事言えますね。

そして私のこの麻袋マスクはスルーですか。そうですか。

え?別にへこんでなんていませんよ。本当です。


でも彼女、脳天気というかのほほんとしすぎといいますか……。普通はこんな麻袋警戒するだろうに。

私はため息をついて右腕上げます。

それを見た連環馬の皆さんが粛々とその場を離れる。よく訓練されているなぁ、我ながら感心する。

その光景を見て彼女も感動したのか「うわぁ~」と目を輝かせる。


……やっぱりこの子場違いなのでは?

というより私の麻袋には突っ込まないのですか?いいかげん泣くぞボケ殺し。


全員が退いたことを確認すると彼女へと向き直る。



「はい、白蓮とはとても仲良し、みんなの友達の単経です」



そういうと「やっぱり」と笑いながら言う少女。反対に恨みがましく見つめる白蓮。

あ?私の予定をさんざんめちゃくちゃにしてくれて、あげく目立ちまくって何睨んでやがるんですか白蓮。

殺気ましましで睨みます。


ギロ


ッサ


目を逸らしてももう遅いです。

まぁ連れてきちゃったのはしょうがないし、舐められないようにある程度の牽制になると思えばいいかなぁ。

役にたつのかもしれないし。前向き考えよう!!ほら、過負荷……じゃなくて可符香ちゃんもポジティブに生きろっつてるし。なんか嫌な文字に変換されたけど気にしない!!



「あ、あの~どうかしたんですか?」


「へぁ?あ、いえいえ」



この子、桃色リボ……天和様とかぶるなぁ。

桃色脳天気さんが……春先にいる愉快な人みたいな感じになってしまいます。

いや、あながち間違ってもいない気がしないでもないなぁ。

この子のほほんとしすぎですよ。というか桃色の髪とか……この世界の髪の色素はどうもおかしい。


あ、そうだ。これで行こうかな。



「白蓮が私の困ることをするのです」



よよよと泣き崩れるまねをします。

うん、きまい。

麻袋男が泣き崩れてても普通は同情なんてわかないもんですが……。



「駄目だよ白蓮ちゃん!!」



うん、人が良すぎ!!



「い、いやその…」


ギロリ


「何でもないです。ごめんなさい」



否定しようとする白蓮を、私は少女から解らぬように睨み付け黙らせる。

しょうがないなぁ……いい加減かわいそうになってきたので条件付きで手を打ちましょう。



「仕方ありません、連合の皆さんに一発芸を披露して回るか、この連合の間は語尾ににゃんとつけるかのどちらかで手を打ちましょう」


「いや、それ手を打ってないよな!?」



何を言うんです。

良心ポッキリ価格の手打ちです。

……ってそういえばノリで言いましたけど一発ギャグってこの世界にもあるんですか?


あ~気にしたら負けですね。常識に囚われてはいけないってルイージが言っていたし。



「私、白蓮ちゃんの一発芸見たい!!」


「と、桃香!?嫌、嫌だって絶対!!」



お。



「う~ん、じゃぁ語尾『にゃ』を付けて!!白蓮ちゃんなら絶対にかわいいと思う!!」


「だぁぁぁぁぁ私に味方はいないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



……。

私と少女の目が合う。

お互いに笑顔かつ無言で手でがっちりと握手。

今、私達の心は一つ。


白蓮っていじると楽しいよね♪


お互いの心が通じ合う。ああ、これぞグローバル化。



「いや!?なんで私よりも単経と仲良くなっているの!?」



無粋ですなぁ今私達は友情を確かめ合っているのですよ。

そう思い私は改めて少女を見つめる。


あれ?


そう思い再びこの子を見る。

明らかに特別側、そもそも白蓮と仲が良いだけでそれは確定事項。何よりこの子自体何か言いようのないものが溢れ出ている。オーラみたいなものが。


……この子の目、おかしいですね。


純粋、一切の曇り無き眼。綺麗過ぎる、あまりにも汚れがなさ過ぎるのだ。

様々な英雄と武将を見てきましたがその誰もが心の奥に黒く渦巻く何かがあった。


孫策。

一見優しげに見える奥に潜む業火。自らを飲み込む狂気と炎。


曹操。

剛毅なる覇者の目の奥に潜む悲しみ。王故に背負う業の重さに嘆き叫ぶ心。


この世界の誰もが目の奥に何かがある。深く、深い何かが。



だがこの少女はそれがない。天和様達と同じだ。一切の闇がない。

だからこそ戸惑う。もしや彼女は巻き込まれたのだろうか?いや、その割りには戸惑いがない。ならば天和様と同じく消え行く者なのか。

言っちゃ悪いですが彼女には孫策や曹操みたいな王としてのモノは無く、武将・知将の持つ剛気も無い。

いや、魅力は異常なほど溢れている気がする。溢れすぎて気分的にラフレシア見ている気分だ。


……魅力チートか。やっぱり天和様とかぶっている。

アイドルとして似たような連中は後からどんどん湧いてくるが、それをどう捌ききり個別化を図って昇華させるかがPの重要な役目だ。

うむむ、閣下みたく黒さを天和様に持たせるべきか?純粋かつ悪の乙女キャラはこの時代にあうのだろうか……いや、いける!!


この波才Pの腕の見せ所か!?



「えと?その、大丈夫ですか?」


「黒い衣装に赤いリボン……いける」


「へ?」


「あ、いえなんでもありません」


「……?あ、そういえばちゃんとした自己紹介していなかったね!!」



なんか脱線しすぎてた気がします。多分気のせいです。

それしてもやっぱりこの子……。


優しすぎる。


優しすぎるからこそ人を引きつける魅力。

だがそれはこの時代にはもっとも人が持つべき大切なモノであり、もっとも必要がないモノだ。


……彼女と関わっても利益は無いでしょう。

この先、足手まといのようなそんな人間はいらないです。

ですがそれだけで拒むのは人として駄目ですよね。

純粋なお友達としてならいいかもしれません。というか是非ともなりたいタイプです。

間違っても味方にはしたくはないタイプですが。


……ほら、男の正義キャラだと上条さんみたく熱くて許せるけれど、女だと何故かラスククラインっぽくてなんか……その。

すんげぇ腹になんか抱え込んでる気がして胃が痛くなる。


あれ?そういえばラスクだっけ?ラクスだっけ?



「そうですね、私は性は単、名は経。公孫賛軍の客将をしております」



そう言って軽い礼を一つ。



「貴方は?」



さて、この少女は誰なのでしょう。

この場に相応しくない人間。彼女はどこのお人好しさんですか?

少女はにこりと笑うと私の手を取った。


目を光らせていた私だったが……次の言葉でその余裕はどこかへと吹っ飛んだ。

それほどまでに予想外すぎた。



「私は性は劉、名は備、字は玄徳!!よろしくね!!」
























( ゜д゜)


( ゜д゜ )


……え?マジ?



 □ □ □ □



「はぁ……主と白蓮さんのまんざいに付き合ってたのでは私の胃が持ちません」



痴話げんかよりもたちの悪い何か、と美須々は内心評している。

言い得て妙なのかもしれない。実際に一軍師が発言するにしてもあの子供のような口論もどきは、少し常識がある者なら眉をしかめる。

美須々はかろうじて常識人の枠に収まっている分、内心ひやひやしながら彼らをいつも見ていた。



「主も分かっておられるのに何故あのような……ん?あれは」



ふと目を動かせば、自身と同じく黄巾時代からのつきあいがある同胞の姿がそこにあった。

蒼い髪のショートカット、龍の装飾を施した双剣。



「琉生ではありませんか?何を見ているのです?」



声をかけるが琉生は視線を動かさない。

何があるのかと見れば何も無い……いや、彼女が見ているのは連合の最初の難関である汜水関の方角。



「汜水関に何かあるのですか?」


「………」


「それとも虎牢関?」


「………」


「もしや本拠地である洛陽ですか?」



ここで初めて反応があった。反応と言っても目が僅かに細るという些細な動きであったが。

ふと、ここで美須々は考える。

よくよく考えれば自分は琉生の素性を知らない。彼女自身がそれを話すような人間ではないという事もあるが、そもそも話す必要などまるで無かったからだ。自分とて主以外には話した事がない。


必要が無いことを知ることも分かる事もないのだ。

それに来るものは拒まず、去る者は追わずが波才のスローガンな事。

個人に対する過度な深入りは禁止されている。


自身は農民あがりの賊であるが、琉生はお嬢様とだったいう過去を持ち得ても全くおかしくはないのだ。

いわれ無き罪で身分を落とされたり、財産を奪われたりするなどあの腐った漢王朝では珍しくもない話し。


主の場合、琉生は山で拾ったなどと公言している。それもどうかと思うのだが、肝心の琉生がそれを肯定するのだからしょうがない。



「……作戦に支障が無い程度ならば何も言いません。貴方は私よりも頭が良いですからね」



やがて美須々は考えるのを止めた。

頭脳担当は専門外である。自分は槍を振るっていればいい。後は知らん。つうか自分のことで精一杯なのに他人に深入りしてどうするのだ。という結論に達したらしい。

大きく背伸びをしてその場を立ち去った。


彼女が去った後も琉生はしばらく先を眺めていた。
























最も、先ほどとは表情は一変していたが。



「……ふぅ」



苛立たしげに息を吐き出す。その顔は今や険しく、普段の彼女を知るものならばこれがあの琉生なのかと驚愕していただろう。

穏やかな水面は今や湖畔の主である龍が荒れ狂い、晴天であった天は裂かれ、生命の大地は震えている。

彼女は今にも舌打ちと唾を飛ばしそうな勢いで荒々しく立ち上がると、再度視線を洛陽へと動かした。



「……貂蝉、何故貴方がこの外史にいるのです。もしや邪魔する気ですか?かつての私の意趣返しのつもりか?」



殴り捨てるように言葉を吐き出した彼女は、再び能面のように『無』を顔に張り付けて歩き出す。

それは彼女がいつもと変わらない『顔』ではあったが、どこか憤りを、怒りを感じている。

横を通り過ぎた兵士は思わずそう思い、礼をとりつつ身を震わせた。


琉生はただ先を見て歩き続ける。

まるで過去を、現在を、未来さえも振り切るように。



「もし、そうならば……殺さざるを得ないでしょうね。矮小な存在に身を堕としたとしても、あの時の私達のようにやすやすと止められるとは思わないことです。かつての貴方が私達を止めたように、私は貴方を止めましょう。この外史の、我が主のためにも」



密かな決意は風に乗り、蒼天の空へと飛翔する。

黄天は、未だ空には昇らず。



Q。琉生がなんかミステリアス&なんか波才が自由になってきた。これ収集つくの?

A。大丈夫、両方直ぐにいつも通りに戻る。


久しぶりの原作組、やっとだ……やっと原作キャラを出せる。

次回から毎回原作キャラが出るんだ、作者は嬉しくてたまらない。


さて、秦のオーパーツの所ですがマジもんの話です。ダマスカス鋼みたいに神秘的な、伝説的な剣として中国の博物館にその剣の現物が飾られているとか。製造法が分からない剣……神秘の剣が現実に存在するという事実。

……これぞロマン。


それと今まで武将紹介ですが、紙芝居以外の武将紹介部分はマジもんです。

でも流石に前回みたいに「晋にはエヴァンジェリンがいたんだよ!!」みたいな事いったら次の日からチーム内で孤立するんで止めましょう。


う~ん、美的考察は結構マジもんで本当なんだけどなぁ。流石にエヴァとは言いませんが可能性は大です。紳士達は喜ぶべき。


今回の武将紹介は……強く生きろ。


□ □ □ □


「やべぇ……やっぱ項羽×范増だわ。范増×項羽とか誰得やっちゅう話し」

「何やら楽しそうね、陳登」

「あ、曹操さん。曹操さんもそう思いますよね?やっぱ項羽×范増っすよね」

「……仕事よ」

「スルーっすか。泣けるっす」


自らの主が呼び出さすにわざわざ訪ねて来たというのに、彼女は未だ床の上に寝そべり、本を眺めていた。

短く束ねられたツインテール、ソバカスにぐるぐる眼鏡という何とも言えない姿で服を着崩してる彼女に、曹操は盛大なため息をつく。


「貴方を見てると本当にあの呂布を討った人間なのか、未だに疑問に思えてくるわね」

「討ったって……私は影からいろいろやっただけっす」

「呂布と袁術の同盟を妨害して両者を破滅に追い込み、なおかつ自らの親族三人を人質に囚われていたのに、依然呂布を包囲して圧力をかけ続けるのは貴方ぐらいよ。さぞ呂布は貴方を不気味に思ったでしょうね」

「ひどいっすね~私はただの文系、眼鏡っ子っす」


そうからから笑う陳登に曹操は笑みを深める。

陳登。姿からは判断し難いが性格は誠実、物事に対し沈着であり思慮深く、また文学的才能に溢れている。内政、軍事面も任せられる。


「貴方が劉備から私に乗り換えたときは何をやらかす気かと内心ひやひやしたものだけど」

「いや~長いものには巻かれろっていうのがうちの家訓っす」

「まぁ良いんだけれど。はい、これ」

「なんすか?」

「次の相手よ?」


そう言って渡された紙に書かれた内容に陳登の眼鏡はずり落ちた。


「……あの、持病のドライアイが」

「もう少しまともな理由思い付きなさいよ。それに貴方は常々彼女について言っていたじゃない、速く何とかするべきって。あと貴方が負けたら背後から襲われた曹操軍は終わりだから」

「何それ怖い」


そこには「孫策躍進」の四文字が踊っていた。



 △ △ △



「あ~鬱陶しいっす」


陳登はもどかしさを覚えながら自らの眼鏡をかけ直す。

二度だ、既に孫家から二度も大軍が送られていた。しかもそのうち一回は自軍の十倍。

もうね、死ねと言うのかと。


だが、恐るべき事にその全てを彼女は撃破した。

もっとも撃破したという結果に彼女が満足するというわけではなかったが。


「……あ、もうやっちゃえばいいや。誰かいるっすか~」

「っは!!ここに」

「劉表に目を向けさせた上で……場所は……」

「しかしそう上手くいくのでしょうか?」

「いくっすよ~先代だって猪、孫策だって今まで見た限りは同じっす。それよりうまくやれっす」


その数日後、孫策没すの声が大陸中に響き渡る。暗殺により息絶えたと。

何よりもそれに喜んだのは他でもない、陳登だった。やっとこれで休める。おきに入りの本を読める!!

そう思った矢先……。


「姉様の後を継ぎ、私がお前達を倒す!!」


妹の孫権が進軍してきたわけである。もう彼女は泣いた、枕を涙で濡らしまくった。


「……もぉやだ。お家帰る」

「ちょ陳登様!?貴方の今の家はここですからね!?というか敵前逃亡したら首はねられますから!?」

「絶望した!!戦乱の世に絶望した!!クソッタレなんて時代だ!!曹操さんに援軍要請!!」

「私達は!?」

「伏兵で迎え撃て!!こうなったらあいつら親子三代に渡って顔に泥付けてやるっすぅぅぅ!!」


実は親の時代から彼女の一族は土地的に呉とやりあっていた。因果なものである。

無事追い返した陳登。悲しみを背負った彼女にとって孫権は敵ではなかった。というか先代孫策に自ら剣を持って切り込んで二度勝利している彼女に、何故孫権が勝てると思ったのか疑問である。

何はともあれ彼女は今度こそ安心した。これでようやく本当に本が読める。ビバ!!平穏!!

そう思っていた矢先。


「うぉぇぇぇぇぇぇぇ(びちゃびちゃびちゃ)」


彼女は口から大量の虫を吐き出していた。祝いで食べた大好物の刺身に当たった。なんかもう女として終わっているような図であった。彼女はまたも涙で床を濡らした。

呼び出されて治療した華佗は、何とも言いにくそうに言い放つ。


「……三年後、再発するかもしれない」

「……ねぇ、私になんか恨みあるっすか?」


陳登、彼女は大変優秀ではあったが不幸パラメータは上条さんすら超えていたとか。生きろ。


□ □ □ □



陳登、字を元龍。


誠実であったが思慮深く、文学的才能にも秀でていたため、25歳で孝廉に推挙され、東陽の県長となる。老人をいたわり、孤児を養育するなど、民衆のための統治を行った。


その後、飢饉が勃発すると、徐州の刺史であった陶謙に推挙されて典農校尉となったが、どのような作物がその土地に合うか調べ、堀を造り灌漑を整備したので、稲が豊かに実り貯えられた。さらには海賊一万余戸を帰順させるなど、武の面でも活躍を見せた文武両道な人物である。


後に徐州が呂布によって奪取されると呂布に仕えた。呂布に嫌々ながら仕えた彼は暗躍、曹操と内通し袁術との仲を不仲に追い込み、父と共謀して袁術を大敗させた。さらに呂布を孤立無援に追い込むことに成功させる。

曹操が呂布を攻めて下邳まで進軍してきた時、陳登は曹操に帰順して呂布討伐の先駆けを務めた。呂布が籠る下邳城には陳登の弟3人がおり、呂布は彼等を人質として利用し陳登に圧力をかけたが、陳登は屈することなく、呂布への包囲を次第に狭めていきついには呂布軍は瓦解した。

この功績により伏波将軍に任命される。


布討伐後、陳登は長江・淮水流域で非常に人望が厚かったので、江南を併合する野望を抱くようになったという。彼は対孫呉の武将として曹操に呉の方面へと配置された。


孫策が侵攻してきた際、陳登は城門を閉ざし、兵士たちの喚声を静まらせてわざと弱々しい防備であることを強調した。そして孫策の軍隊に緩みが見えたことを望楼から確認すると、一気に城門を開いて軽騎兵を突き進ませ、敵の背後を攪乱させた。

孫策軍は慌てふためき、陣容を整える間もなく、陳登みずから陣太鼓を叩いて突撃する兵にさんざんに打ち破られた。陳登はこれを追撃し、万単位の首級を挙げた。


思わぬ敗北に激怒した孫策はすぐさま大軍を編成しなおし、再び広陵に迫ったが、陳登は冷静であった。功曹の陳矯を曹操の元に送り援軍を要請すると、すぐさま薪を積み上げ各所にそれを配置し、孫策が迫ると一気に火を付けた。火勢は強く山々に燃えうつり孫策軍は恐慌をきたし、また城中で兵士たちに万歳を唱えさせあたかも援軍が到着したかのように見せかけると、孫策軍はまた壊乱状態となって退却した。陳登はこれを伏兵を多数配置して追撃し、またも一万余の首級を得たという。


もうこれ呉ハンターって言っても良いよね?つか波に乗った孫策を受け止めきる所か惨敗させるとかこの人マジアリエナイ。


また、孫策の暗殺の真犯人は彼ではないかと言われている。

孫策に撃破された厳白虎の残党を扇動して暗殺させたとあるが、その時期があまりにも彼にとって利が多く、彼が動いた場所や時期から言えば疑わしいものであったからだ。

煙のないところに噂は立たない。もしかしたら、孫策の真の暗殺者は彼だったのかもしれない。今は歴史の闇の中であるが。


孫策の二度の進撃を防ぎきる。さらに208年には侵攻した孫権も撃破。やっぱり呉キラーである。

呉の孫策が二度目の進撃をした際の彼の兵力はなんと十分の一だった。大軍をものともせずに打ち破った彼はチートだ、間違いない、チートだ。


さらに彼は一度劉備に仕えてが地元領主の関係もあり、曹操へと帰順。にもかかわらず劉備は彼を


「文武両道で、勇気と志を持っている。彼のような人間は古の英雄を見直してもそうそういない」


とべた褒め状態であった。あるいみ劉備の人たらし度が伺える話でもある。

内政チート、軍事チート、陰謀チートな彼であるが、意外にもその死に方はあれな死に方である。


好物の刺身食って胃に寄生虫湧いて死にました。


一度は華佗に治療されたが、その際に記述に寄れば三升の虫を吐き出したとある。漢の三升は現代に換算すると約480グラム。妙に生々しくリアルな数値なのがなお恐ろしい。


その三年後に再発するかもという嫌なフラグを残して華佗は去っていった。華佗先生の病気予言とか死亡フラグも良いとこである。

三年後にもう皆さん予想通り再発、なんとか彼はフラグブレイカーというかフラグの張本人である華佗に治してもらおうとしたらしいが、彼はすでに曹操にデストロイされていた。


結果享年39才、なんとも残念な死に方である。

彼が亡くなった後に孫権は勢いを盛り返し、一大勢力を築き上げた。曹操は彼がいたならばこうはならなかったであろうと悲観したという。微妙にブーメランで曹操に帰って来たようだ。

恐らくあと十年彼が生きていれば、呉は追い詰められ、動けなくなっていただろう。逆に言えばここで彼が死んだからこそ呉は三国の一員になれたと言える。

……というか、呉が躍進しないと蜀も生まれなかったから、彼が死ななかったら蜀も生まれなかった?


そう考えると、恐ろしいことに彼が生きていたならば蜀も呉も生まれなかった可能性がある。ある意味彼が死んだからこそ三国時代が訪れたのかもしれない。


あ、やっぱコイツチートだ。


呉の天敵の武将と問われたときに張遼ではなく、陳登と応えたら結構コアな三国志ファンではないのだろうか。と、味の素は味の素なりに愚考してみたり。

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