第二十一話 其の嘆こそ私の糧也
皆、子供はあまり出来ないようですけど陽気に育てて下さい。
あなたをきらいになったから死ぬのでは無いのです。
小説を書くのがいやになったからです。
みんないやしい欲張りばかり。
井伏さんは悪人です。
~太宰治の遺書より~
『私、この戦いが終わったら天和様達と平和に暮らすんです』
『あれ?靴のひもが切れちゃいました』
『英雄なんかと一緒にいられるか!!私は自分の世界に戻るぞ!!』
『はは、帰れば天和様と地和様と人和様に温かい現代料理を作って上げるんです。早く帰りたいですねぇ』
『なぁに、直ぐに戻りますよ』
『この戦いが終わったら、曹操と仲良くするのも一興かな……』
『別に、三国を統一してもかまわんのだろう?』
『公孫賛様がでるまでもないです、ここは私が……』
『この私の考えがあれば絶対に死なないですよ!!』
『っくそ!!弓が打てやしねぇ……ほらっ!!』
『私の家族ですか?そうですねぇ、妹と姉、そして型破りな両親がいてですね……』
『ん……何やら物音がしたような……ま、気のせいでしょう』
『子供?戦場に不似合いですね』
『大丈夫、必ず帰って来ますよ。私は不死身の波才ですから』
『ねぇ、私達生き残れるでしょうか?』
『ふむ、白蓮。これが終わったら二人で飲みに行きませんか?』
『え?これ?……天和様達へのお土産ですよ。最近合ってないですからね。いつかきっと帰って手渡ししたいなぁと///』
『体が軽い……こんな気持ち初めてです!!もう、何も怖くない!!』
「っよし!!これぐらいでいいですかね……『死亡フラグ全集波才版』」
「……!!」(汗)
ズバンッ!!
波才の頭に特大のハリセンがマッハで飛来した。
当然波才は腰掛けていた椅子から転げ落ちるように吹き飛ぶと、盛大に部屋の壁にぶち当たって制止する。
見れば琉生が自分の上半身ほどのハリセンを構えて、肩で呼吸をしていた。……どこからだしたのだろうか?
「る、琉生。どうしたのですか?なんでそんな『それ以上いけない!!』的な目で私を見るんですか?」
「……!?……!!」
「ふむ……」
「……!!」
「わけがわからないよ」
ズバゴッ!!
やれやれと首と手を振る波才目掛け、ハリセンは後頭部ではなく顔面にクリーンヒット。
机と椅子を吹き飛ばして横転し、波才は沈黙して動かなくなった。……どうでもいいことだが、彼はテンションが上がると周りのことが分からなくなる人種のようだ。
「琉生、主が起き上がらないのですが。後何か法事に使う金属を鳴らしたようないい音が聞こえた気が……」
「……」(チャキ)
「気のせいですね。うん、気のせいです」
冷や汗を流しながら、美須々はぶんぶんと首を何度も縦に振る。
だがそのうち、落ちていた例の書簡……もとい『死亡フラグ全集波才版』に気が付くと、彼女は素早くそれを手に取った。
恐る恐る開いてみる。
「……上から七番目と九番目は私としても賛同したいのですが」
「……イヤ、ナンカコレ選ンダライケナイ気ガスルゾ。『カン』ダガナ」
嬉しそうに目を光らせる美須々に対し、横から覗き込んでいた明埜は呆れ顔で内容を読み取っている。
この場合どちらが正解かは分からないが、題名から察するに明埜が正しいのだろう。
歯ぎしりしながら、明埜は倒れ伏している自らの主目掛けて、手短に落ちていた本を投げつけた。
そして蛙が鳴くような音を聞き取ると、彼女は美須々の手から書簡を奪い取って突きつける。
「デ?俺ノ記憶ダト、旦那ハ脳ミソノ代ワリニ蟹ミソガ詰マッテイル姉妹ヘ向ケテ手紙書イテルハズナンダガ…………ナニコレ?旦那ハ脳ミソノ代ワリニ麻婆デモ詰メタノカ?」
「明埜!!」
すると、ばっと起きた波才が小走りに明埜へと近づき、その肩を両手で掴む。
その目は真剣そのものであった。故に明埜は眉をしかめて考える。
もしやコレはただのしょうもない書簡ではなく、暗号や隠された何かを示す書簡なのか?
そう思い明埜は若干考えを改め
「それは私のデスノーげふんげふん、もといやったらいけない死亡フラグ集です!!これがあれば例えどんな絶望的な状況であろうと主人公である私は」
「琉生、ヤレ」
「……」(ビリビリビリビリ)
「NOooooooooooooooooooo!?」
何故か琉生は執拗に細かくそれをちぎりまくると、側にあった蝋燭に火を付けて完全にそれを消しにかかった。
途中波才はそんな彼女を止めるべく涙目で駆け出そうとしたが、美須々と明埜に腕を掴まれる。
残念ながら明埜はともかく美須々に勝てる腕力は無かった波才は、燃え逝く自分の死亡フラグ集を呆然と見送ることになった。
「ひ、酷い。貴方達に情はないのですか!?」
「情は無いですが忠誠心はあります」
「情ッテ食エンノカ?」
「……」(じと目)
「(駄目だこいつら。人として終わってやがる)っく!!ならば何故こんな所に来たのです!?皆さんだって仕事があるでしょう!?」
「そうですね、主が私達に重大な用事があるからって押しつけた仕事が山ほどありましたよ。ええ、山ほど」
「アア、何故カ疲レキッテ帰宅直後ノ俺マデコイツラニ巻キ添エニサレタワ。……ッデ?何?旦那ノ重要ナ用事ッテソレ?ア?ナメテンノ?……ツウカサ、手紙ハ?」
「……」
「いや、漢文で手紙書くのがめんどくさくなったので。だったら慣れるためにもなんか別のもの書こうかなぁとおも」
瞬間、波才の服の袖に大きな切り傷が刻まれた。
見れば、琉生が異常なほど冷たい目で剣を抜いていた。
見れば、美須々の頭に怒りの四つ角がでまくってバキっぽくなっていた。
見れば、明埜が袖から手裏剣を出してそれを『封』と書かれた壺の液体につけていた。
慣れるためにあれを何故書くのかという疑問よりも、あれのために私達は地獄を見たのかと彼らは鬼気を発散する。
流石に身の危険を感じざるをえなくなった波才は慌てて胸から紙を取り出す。
そして汗をかきながらもぎこちない笑顔を作る。
「う、嘘ですよほら!!出来てます、出来てますから。遊び心がちょっと出ただけで」
「だったら直ぐに仕事やれやぁぁぁぁぁ!!」
「旦那、反抗期ッテ親ヘノ愛情ノ裏返シナンダトヨ。ツウワケデ死ネ」
「……」(ッチャキ)
「え、みなさん?落ちついてまずは話し合いを……アーーーーー!!??」
今日も幽州の空は青かった。
そして。
『天和様へ。
波才です、いろいろあって公孫賛軍で働くことになりました。
あ、大丈夫です。もちろん客将なので何かあればすぐにでも駆け付ける所存です。
最初は働きたくなゲフンゲフン、戦いたくは無かったのですが、天和様が無事過ごせるようにと平和な時代を築くために少し公孫賛様のお手伝いをすることにしました。
決して見ていていじりがいがゲフンゲフン、嫌がらせをゲフンゲフン、とにかく私は望んでここにいます。
私は少し暴れすぎて知られているので多少落ち着くまではここにいるつもりです。
ご心配をおかけしていると思いますが、私を信じてください。
きっとあなた方の元へと戻ってまたみなさんのお手伝いをさせて頂きますから。
この手紙と一緒に送らせていただいたお菓子は私の手作りです。紅茶と大変合うのでお召し上がりください。
それでは、また会いましょう』
「みんな!!波才さんからの手紙が来たよ!!」
「え、本当なの天和姉さん!?どれど……なんだか墨で所々汚れているわね。もう、もっとしっかり書きなさいよね!!」
「本当だぁ~波才さんたらうっかりしすぎだよ!!」
「……天和姉さん、地和姉さん、これ多分血だと思う」
「「え?」」
後にこの手紙によって一波乱あったのはまた別の話である。
■ ■ ■
「なぁ、なんでお前らそんなに衣服が乱れてるんだ?あと、なんで波才は頭と腕に包帯巻いてるんだ?」
「「「……」」」
「……美須々・明埜・琉生、何で三人とも目を逸らす?」
「あれですよ、白蓮。若さ故の過ちというやつです」
「……?まぁお前が言うなら良いんだけどさ。それで?重大な事って何だ?」
軍議室、その名の通り軍の方針を定め、行動するための議論を交わす場所。
急な呼び出しで白蓮が来てみれば……語るに及ばない。本来ならば無表情な兵達もこの時ばかりは冷や汗を流している。
最初は呆れ顔で尋ねた白蓮だったが、波才が周りを覗う素振りを見せると眼を細めた。
波才の意図を読み取った彼女は兵達に向き直る。
「……お前達、ご苦労だった。後は下がっていい」
「「「っは!」」」
よく訓練されているのだろう。
白蓮の一声によって彼らは背筋を伸ばして応え、一糸乱れぬ動きで続々と扉から出て行く。
私は彼らを驚きを持って見送り、白蓮は誇らしげに微笑む。
「ほえ~、凄いもんですね。よく訓練されている」
「だろ?美須々と琉生のおかげだ。……これで大丈夫か?なんか言いたいことがあるんだろ?」
「ええ、ちょっとした事があったようで。それでは明埜、お願いします」
先の兵の動きを見るに、公孫賛軍の兵達は着実に精強な兵へと変貌している。
軍に問題は無い、ならば後必要なのは。
「了解~、ソレジャ報告スルゼ」
白蓮自体の覚悟ぐらいか。
明埜の一言で空気が変わる。
美須々は誇らしげな顔を武人として固める。琉生も目を細めて明埜に向き直り、一言一句聞き逃さないという構えだ。
明埜の顔も余裕があまり見えない。……こりゃ当たり引いちまったかな。
「……?」
ただ一人を除いてみんな真剣な顔をしている……一人を除いて。
白蓮……エアーブレイカーとか名乗ったらどうですか?残念キャラになっていますよ?貴方の普通キャラという唯一の個性が失われ始めてますよ?
白蓮を白い目で見ていた明埜だったが私へ向き直る。
さぁて、楽しい楽しい話し合いの始まりだ。楽しすぎて涙が出ないことを祈りたいね、いやほんとに。
「後数ヶ月後、反董卓連合ガ結成サレルダロウ」
「なっ!?」
「「「……」」」
身を乗り出す白蓮。その顔は驚きに満ち溢れていて、見ている分には大変気持ちが良い。
どうやら彼女にとって、この件は全くの予想外だったようだ。
黄巾の乱が終わったのだから、平和な世が来るとでも思ったのだろうか。まぁそれで平和が来るんだったら人間の世界じゃないわな。
人がいる限り争いなんざ無くなんないさ。
一方、私を含めて美須々・琉生の三人はついに来たかっていう感じ。
美須々は目を輝かせている、やはり武人としての血が騒ぐのか?同じ武人である琉生はのんびりとお茶を飲んでいるが……まぁ人それぞれかね。
私は内心ひやひやです。うひゃ~イヤだなぁ。
あのチート連中とやりあうのですか。まぁ徐栄や高順の名を聞かない分ましかな
?もし特別側に彼らの名があったなら……ああ、想像もしたくない。
あれ?なんか川が見えますね。向こう岸に孫策に似たグラマスな女性と、なんか酒飲んで騒いでいる盗賊っぽい人達がいます。
うわ~……まだそっちに逝きたくはないんですけど。
「元ハ涼州ノ田舎者。ソレガ今デハ漢ノ中心人物ダ。帝モ董卓ヲ支持シテイルシ、サゾヤオ都ノ偉イサン方ハ面白クナイダロウナァ」
そう言って愉快そうに笑う。
この子は本当に楽しんでいるのが見て取れる。これから起こる沢山の争いがたまらなく面白いのだろう。
白蓮はそんな明埜に引き気味だ。うん、言っちゃ悪いが私だってひく。
……にしても董卓の奴。もうちょっと上手くやれなかったのかね。
宦官程度飴をちらつかせれば、立場的にも良い具合に立ち回れただろうに。
そう思い余裕ぶっていたのですが、次の一言には私も思わず惚けてしまった。
「アイツラ、ツイニ袁紹ヲ言イクルメテ董卓ノ座ヲ奪オウト思ッタミタイダ」
……はい?
見れば私だけでなく、全員が同じように今の言葉を自分の脳内で反復し、再確認している。
……どうやら結論が出たようです。出たようなんですけど……みなさんもの凄い苦い顔をしてらっしゃる。
そりゃねぇ、理解したくもなかったろうに。
「……なぁ明埜、波才。私はどうも都の奴らが馬鹿としか思えないんだが」
白蓮さん呆れてます。
美須々も私も呆れています。
琉生は私が作ったクッキー食べています。
いや……だっていくら名門とはいえ、袁紹を唆すとか正気ですか?
例え董卓を倒したとしても、その御旗が袁紹では余りにもたよりがありません。
それとも下手におだてて傀儡にでもしようと?
それは甘いですよ、だって顔良さんがいますから。
あの頭が年中春の人達を支え続けた人間をなめてはいけません。きっと彼女が傀儡などにはさせないでしょう。
仮に傀儡になったとしても、袁紹では勝手に国ごと巻き込んで自爆しかねません。
何が悲しくて地熱発電でがんばれるのに原発を国のど真ん中で作り始めるんですか?
……取り合えず、一言言わせてください。
うわぁなんかすごいことになっちゃったぞ。
「マ、イクラ袁紹デモ1人ジャ勝テナイコトグライ理解シテイル、ダカラ巨大ナ連合ヲ作ルダロウナ。タブン口上ハ
『今洛陽の民は悪名高き董卓の暴政により苦しめられていますわ。帝も同様、帝を救い!民を救うの
ですわ!!おーっほっほっほ!!』
ミタイナ感ジカネ。……ナンカ疲レタ」
「はぁ……ため息が出てきますね。所で質問を一つ」
「何ダ?美須々」
「本当に董卓は暴政を強いているのですか?」
真剣な表情で美須々は明埜に問う。
あ、私も気になる。ここの董卓はどんな人間なんでしょう?
やっぱり豚みたいに肥えていて、ワンピースで例えるなら初期版アルビダの姉御みたいな感じなんでしょうか?
……あ、やべぇ。もの凄い吐き気が。
せめてドラゴンシスターズの董卓を……あのスレンダーな姉御肌ならば。
「ゼーンゼン。洛陽ハ平和ダッタシ民ハ善政ニ喜ンデルゼ」
「はぁ……本当にため息が尽きませんね」
「……明埜、質問があります」
「ン?何ダヨ旦那?」
「董卓ってあれです。豚でしたか?」
「……少ナクトモ人間ダッタゾ?」
いや、そうなんですけどそうじゃなくて。
若干頬が引きつり気味の明埜に、更に詳細な董卓像を聞き出そうとする。
だが。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!てことは何の罪も無い董卓を打倒するために私らは踊らされるって言うのか!?」
「待ってください白蓮!!それよりも詳細な董卓像を聞くべきなので」
「……主、ちょっと黙っていてください」
「イエス、マム」
思わず敬礼してしまった。
最近なんだろう、主である威厳とかそこら辺が無くなってると思う。
まぁそんな物はとうの昔に廃品回収に出しましたけどね。威厳とか誇りとかは強い人間が持てばいい、弱者はそんなもの背負って生きられなどしない。
……そして誇りを背負った白蓮にはどうやらこの件は耐えられないらしい。
彼女は衝動的に席を立って美須々を問い詰めていた。その目は怒りに染まっている。
白蓮は正義感が強く優しいですからね……この話は納得できないのでしょうか。まぁ、納得できないなら出来ないでいいですけども。
「そう言うことになりますね。白蓮さん、彼女は奪われる事になった。時代の生贄に選ばれた。たったそれだけなんですよ」
「そんな……そんな巫山戯たことが有って良いのか!?」
拳を握りしめて机を叩く。
だが、義憤に燃える彼女には冷めた自身を見つめる八つの目に気が付かないようだ。
私は静かに目を瞑ると、ため息をついて口を開く。
あ~あ、董卓はつまんないや。こっちに来て本当に良かった。
「董卓さんも私達と同じで時代への糧として選ばれてしまった。美須々の言うようにそれだけのこと。たったそれだけ。……なんともつまらない話だ。まったく、神様はなんだってこんなどうしようもない結末を望むんだか」
私がそう言うとこの場にいる全員の目が集まった。
「まったく、悲劇にも喜劇にもなりゃしない」
ああ、つまんないったらマジつまらん。
奇跡も因果もあったけれど、結局ここも波才として生きた自分としての世界と代わりはないんだ。日本とも代わりがないんじゃないかな?
その代表格たる董卓は……つまらないの一言につきちゃうよね。
だからさぁ白蓮。
……私をさぁ、親の敵を見るような目で見ないでくださいよ。
というか、なんで私がそんな目向けられなくちゃならないんですか?
「波才……お前は何も思わないのか!?」
いや、何も思わないって……ねぇ。なんで逆に貴方はそこまで想えるんですかね?
というか白蓮、もしかして貴方。
「白蓮は反董卓連合には参加なさらないので?董卓ブッ殺さないんですか?」
「当たり前だ!!お前は何を言っているのか分かっているのか!?」
どっちが分かってないんだか……。
白蓮、貴方何言ってるのか分かっているのかい?はぁ、なんて夢物語何だか。現実と空想の区別がついていないのかな……?
まぁ白蓮は本当に、実にお優しいね。チョコレートを口一杯に詰められたような気分だよ。
うん、つまり何が言いたいのかってね。
胸くそが悪ぃ。
この人はそれだけだ。感情だけで今話している。
……やっぱりこの人は英雄の器ではない。
世の中は正しい事だけでは回らない。正しい事が最も必要とされるのに、最もバカにされるのが正しい事なんてね。もうこの世界は矛盾で出来ていると言っても過言じゃないんじゃないかな?
それが理解出来ているか、理解出来ていないか、それが大人と子供の境目だと思う。
『どこまでも可能性が広がっている』そんな夢物語を子供は抱くけれど、彼女はまだそう思っているのかな?
私は深くため息を付いて頭を手でぐちゃぐちゃにかき回す。
白蓮、キミは道化ではいけないんだよ?道化でいても良いけれど、芯から道化に身を委ねるのは見ていて辛い。
正しい事は悪いことではない。
正しい事は正しいのだから。
でもね、正しい事を出来る時と、出来ない時がある。今はその時だ。いかんせんこの世界の人間は良くも悪くも人がよすぎる。
私を睨み付ける白蓮。ああ、早く目ぇ覚ましてくださいな。
「では董卓さんの元について曹操、劉備、孫策、袁紹、袁術と戦うと?おお、愉快愉快」
その言葉に白蓮さんが止まりました。
そして焦ったように口を開く。……おいおい、マジで道化になっているのですか。
笑えないですよ、おい。
「な、なんでそんなことに「なるんですよ。まさか傍観者としてこの件が済むと?何とも愉快な頭をお持ちのようで。頭を一回冷やしなさいな、白蓮」……」
済むわけ無いんですよ。
愛と勇気と希望と正義?
それ、どこのアンパンマンだっつうに。
この世界は甘くはない、甘いのは英雄に対してだけ。ただの特別な人間に温情を与えるなんてほどお人好しじゃないんです。
この世界は三つの花があったとすれば、その全てに等しい水を与えることはない。一つの花にだけ水を与え続け、二つの花を枯らすのがこの世界なんだから。
「ハッキリいいます。これは先の黄巾の乱のように力在る者が飛翔する良い機会です。これに乗り遅れること、それはすなわち自国が滅びます。このいくら董卓さんに罪は無かろうと死人に口なし、勝って殺してしまえば私達はどうとでも言えるのですよ」
あまりにも厳しく、非道な言葉に唖然とする白蓮。
一方、私の配下である三人は当たり前としてそれを受け止めている。
……ってこの三人と比較することはおかしいかぁ。
どうしようと結局、私が決めた事に彼女たちは従うでしょうからねぇ。
「それで民の名声を得て勝者はさらなる高みへと昇ります。おそらくこの連合の後はそれぞれの者達が争う乱世へと突入する。その際に有能な人間や、名声はいくらあっても困りません。ですからこの反董卓連合には何らかの形で関わらないといけないんですよ。もしそうしなかったら、とてもじゃありませんが私達生き残ることはできませんよ?」
「……そんなの解らないじゃないか」
「解りますよ」
ずばっと言わなければ、この人は納得できないだろうなぁ。
例えそれが辛いことであったとしても言うしかないのです。
貴方は私の主君なんですよ?臣下がはっきり言わなければ何を言えってんですか。
「これから乱世で戦う者の実力を見極める事が出来ることと、もしかしたら乱世になるさい同盟を組むべき相手を見つけられるかも知れません。それは乱世においてかけがえのない財産になります。それにこの軍には将がまるでいないのを忘れていませんか?私達は客将ですよ?私は反董卓に入るべきだと思いますね。崩れ行く敵軍からは将を得ることはできますが、連合という形態からは得にくいですよ。それに曹操や貴方のお友達の劉備と戦うのは我が軍にとってもきついです。というか死ぬ」
どう考えても負ける。
そもそもこの幽州から洛陽を支援するなど、距離的にも時期的にもあまりにも馬鹿げた考えだ。
仮にやるとしても一体どれほどの優秀な人材がいることか……。私は凡人ですよ?
白蓮がまるで塩をかけられたナメクジのように元気がなくなっていく。この世界では塩は割と貴重品なのでナメクジにかけること自体が間違っているのだが。
彼女は決して馬鹿ではありません。
おそらく私が言っていることを理解しているでしょう。……でもそれを認めたくはないんだろうなぁ。
別にいいんですよ認めなくて。認めるんじゃ無くて割り切る事が必要なんだから。
「まぁ最後に決めるのは貴方です。私はその答えに何も言いませんよ」
さぁって。言うこと言ったら疲れたから昼寝でもしようかなぁ。
そう思って私は席を立つと、話はこれで終わりとばかりに背を向けて扉へと歩く。あ~咽が痛い。少し熱を入れすぎたかな。悪い癖だわ。
……ああ、そうだ。
もう一つ言っておかなければ。
私が向き直ると、白蓮は肩を僅かに揺らして覗うように見る。
「でもね、貴方がもし董卓に味方する場合は出て行きます。静観するというのも手ですが、滅びる国の民は何を思うのでしょうね」
その瞬間、なんとも形容しがたい表情に白蓮は変わった。
この顔。見ているだけで自分が気落ちしてきますよ。
「それでは、そろそろ仕事に戻ります」
そう言って私は振り返らずに部屋を後にする。
あんな顔見たんじゃ昼寝する気も無くなってくる。少しばかり残っている仕事を終わらせよう。
■ ■ ■
廊下を歩いていると、時節文官が私に向かって頭を下げてくる。彼らに軽く礼をとりながら私は部屋に向けて歩を進めた。
廊下に降りそそぐ日差し、空を飛ぶ鳥の声、青々と輝く木々。
どれもこれもが煩わしく感じる。
「生きていると、悲しい。生きていることは、悲しくない……か。自分が自分で無ければぶっ殺している」
こぼれるように出た言葉は自分でも理解が出来なかった。
一体なんて意味で言ったのか、そもそも意味が有るのか無いのか。
……ま、いっか。柄でもないことを考えるよりは、何も考えない馬鹿の方が救われる。
「悩め、笑え、楽しめ。それでこそこの世は謳歌出来る」
立ち止まり、空を見ればどこまでも蒼き空。
ああ、無情だ。
空には蒼天が輝いているか。
黄天は未だ空に昇ったことが無いというのに。
夏ばてで書きだめを消化し続ける日々…………昇華し続ける日々だったらどんなに有意義だったか。まったく新しい物が書けません。死ぬ。
そう言えば実家帰った日のこと。
「母さんや、飯は?」
「お茶漬けの素あるよ~あと鮭ほぐし」
「お、いいねぇ。(準備ステンバイ)……っよし!!後はお湯を沸かしてお茶を」
「何言ってるの?これ入れればいいじゃない」
(冷蔵庫からよく冷えた十六茶をじょぼじょぼ投入)
「な、何するだーーーーー!?」
「え?冷えておいしいよ?」
……うん、ご飯のほかほか感とお茶の冷たさが合わさってなんて言うか。その、取り合えずみなさんも作者の気分を味わってはいかがでしょう?
今回の武将紹介は……なぁにこれ?
■ ■ ■
「「「ゴッドベイドー!!」」」
「違う!!ゴットヴェイドーよ!!もう一回!!」
「「「ゴッドヴェイドー!!」」」
「違うわぁ!!ゴットヴェイドーよ!!もう一度!!」
漢中の城にて行われている訓練……なのだろうか。
訓練生と思わしき男女が額に汗を浮かべながらポーズを決めている。
「甘い!!甘いわぁ!!蜜の夜の新婚さん並に甘い!!」
「教祖様!!私独身なんで分かりません!!」
「俺もです!!いい人が見つかりません!!」
「うわー教祖様!!俺だ!!結婚してくれ!!」
「まだ若いから積極的にアプローチをかけなさい!!若さで攻めるのよ!!そして最後の奴は千回腕立て伏せ!!もっと男らしくなったら考えてあげるわ!!」
「「「はい!!分かりました!!」
その彼らの前で指導する女性。
彼女こそかの名高い五斗米道 「違うわぁ!!ゴットヴェイドーよ!!」……ナレーションに入ってこないでください。彼女こそが教祖である張魯であった。
無事指導を終えたのか、腕立てする一人を残して解散する。
「教祖様……何も貴方様が直々にやることは」
「あるのよ。多くの人を救うためには多くの力ある者が必要なの。私が動くことで将来多くの人が救われるのなら……この程度どうということはないわ」
「「「おお……」」」
思わず彼女の周りにいたお付きの者達が感激して涙を流す。
温かい雰囲気に包まれるが、そこへ何やら騒ぎが聞こえて来る。
「お願いします!!この子を、この子を助けてください!!張魯様にお目通りを!!」
「ええい、張魯様は忙しいのだ!!多くの者があの方を待っている!!お前如きに付き合う暇など」
「あるわ」
「っな!?張魯様!?」
思わず憲兵が膝をついて頭を垂れる。残されたお付きの者達は唖然とした。彼女はここから離れた騒ぎの場へと一瞬で移動したのだ。
「何があったの?」
「っは、実はこの女が」
「張魯様!!どうか、どうかこの子を助けてください!!」
一目見た張魯は目を見開く。彼女の抱きかかえる赤子は頬が痩せこけて死にたいであった。浮かぶ発疹から重い病で有ることが分かる。
……だが、それ以上に彼女はその母の姿に目を奪われた。足はすり切れて服は汚れ、彼女自身もやせ衰えていた。
張魯は手を握りしめた。そして懐から針を取り出す。
彼女は決めた。この赤子を救うだけでなく、この母親も救おうと。いや、それだけではない。この力で大陸中の苦しむ人々を救おうと。
「私の……この手が真っ赤に燃える!!苦しむ人々を救えと轟き叫ぶ!!」
手に集約される光、その光に誰もが目を奪われた。
温かくて、まるで包み込むような光。目をかっと見開く。
「元気に、なぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
△ △ △
「こうして俺はあの方に救われてな。この話を何度も聞かされながら大きくなり、やがて俺自身もゴットヴェイドーと共に苦しむ人々を救おうと夢を抱いたんだ。あの方は自身の領土の貧しい人々にもお米を分け与えてな、私達の中であの方はまさに神様だった」
「ふ、ふーん。そうなのか」
誇らしげに笑う華陀とは反対に心なしか北郷は顔が引き攣っているように見える。
「……なぁ、それってさ。黄金に輝くライオンから力もらったってその張魯さん言ってなかった?」
「おお、何故その秘密を知っている?身近な人間でさえあまりあの方はその話をしないというのに」
「(あ、やべ。俺どんな顔したらいいんだ?取り合えず、勇者王乙とか言えばいいのか?)」
「ちなみにあの方は先の話の腕立てをしていた男と結婚してな……」
「それ伏線だったのかよ!?」
■ ■ ■
張魯、字は公祺。
必殺技はゴットフィ……いえ、何でもないです。
祖父は道教教団の教主(五斗米道)の創始者であり、道術で人々を惑わし、道術を学ぼうとする者から五斗の米を受け取ったことから「米賊」とも呼ばれた。この五斗が名前の由来なのだろう。その死後は父の張衡が継いだ。張魯は父の張衡が亡くなると、その後を継いだが、しかし張衡死後の巴蜀では、張脩の鬼道教団が活発になっていった。
張魯の母は巫術に長けた美貌の持ち主で、益州での独立の野心を持つ益州牧の劉焉の家に出入りし、盛んに取り入った。恐らく母がいなければゴットヴェイドーは生まれなかっただろう。この母のおかげで彼は劉焉に信用されて張脩を殺害する命をうけ、教団を一つにまとめ上げた。
蜀で太守が劉焉から劉障に代わると、独立したためにこの母親を親族共々殺害された。これにより劉障との確執が生まれる。こののち、彼は街道を敷くなど公共事業に力を注いだ。このため民衆の支持を受けた五斗米道は繁栄し、漢中は一大勢力となった。 この他にも、流民に対し無償で食料を提供する食堂を設けたり、悪事を行ったものは罪人とせず3度まで許し、4度目になると罪人と評して道路工事等の軽い労働を課すなど、張魯は独特の支配方法で信者を増加させていった
張魯は曹操に攻められた際に、弟が出陣するが戦死(曹操の軍を何度か退けた事から彼の国がどれほどの精強=富んでいたのかがここで分かる)。配下の進言を取り入れて「国家のものだから」と財宝を焼き払わずに蔵に封をして手をつけずに置いたために曹操を感心させ、降伏後も一定の地位と五斗米道の存続を許される。これにより現在も民間宗教として五斗米道は信仰され続けている。すげぇ。
別名お米の人である。日本が米食なのも彼の影響のおかげである(嘘)
みんな、ご飯を食べるとき一度でいいからこの人を思い出して欲しい。
……特に意味はない(おい