表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄巾無双  作者: 味の素
自己確立の章
25/62

第十七話 黄天は衰退しました

孤独はこの世で一番恐ろしい苦しみだ。どんなに激しい恐怖も、みんながいっしょなら絶えれるが、孤独は死に等しい。


~ゲオルギウ~


「おやおや?これはこれは・・・ずいぶんと物々しいですねぇ」




ふらふらと泥酔者のように、だが確かな足取りで男は現れた。


ざんばら頭に狐の仮面、どこをどう見たとしても「怪しい」の一言につきない男の出現によりその場にいた者達は目を奪われた。


誰もが計りかねる中彼はただ一人思考の海へと沈む。


数は3人で人質は老人が1人ですか。

・・・ほんとこの馬鹿共はなにをやっているんでしょうね。


そう思って小さく舌打ち。


いやもうこれイライラしすぎて頭が痛くなってきたんですけどね。この世界保険ないんですからとっととその原因を詰んじゃいましょうか。



「お、お前は誰だ!?」



緊張に絶えられなくなったのか、黄巾の残党は声を荒げて叫ぶ。黄巾党だけではなくそれはこの場にいる中で孫策以外の全員が考えている疑問であった。

その言葉に波才は飄々と頭をかきながら首を傾げ、さも当たり前だと言わんばかりに口を開き言った。



「え、通りすがりのおでん屋の主人ですよ?」



本人は心から言ったのだが黄巾の残党達は顔を怒りよって赤くし、剣を持つ手が震えている。

どうやらからかわれたと思っているらしい。


もう一度言う。彼のこの言葉はいたって真剣だ。



「巫山戯たこと抜かすんじゃねぇ!!」



そう言って激昂した黄巾の男は持っている剣を人質である老人に当てる。

老人は「ヒッ」と短く小さい悲鳴を上げるとただでさえ曲がっていた腰を更に曲げて縮こまった。


それを見て思わず眉をしかめる。



「(嘘じゃないんだけどなぁ・・・)」



内心波才はため息をつく。

そろそろ真面目にやらないと人質の命が危ないですね。まったく、なんでこんな馬鹿な事に真面目にならないといけない。余りにも馬鹿らしくてため息が出てくる。


少なくとも、巻き込まれた老人の方が私よりも気の毒だ。こんな馬鹿な事で死なせたくはない。ああ、馬鹿らしい。なんで私がこんな馬鹿らしいことに付き合わねばならない?


自分から言いだしたがこれは余りにも馬鹿らしい、なので付き合わざるを得ない。ああ、馬鹿らしい。見ているだけで虫ずが走る。


がしがしと頭をかく手には薄く血管が浮かんでいる。波才は目の前の黄巾の残党と同様、それ以上にいらいらしていた。


波才は内心この連中に付き合うのも見るのも聞くこともしたくはなかった。だがそれ以上に波才から見て彼らは醜悪で救えなくて惨めで。ようするに彼らが存在することに耐えられなかった。


波才はかぶり続けた仮面に手をかける。


この仮面は外したくはないが、この中にいる一人の残党は見覚えがあった。正直こんな連中に素顔を見せるのなら死んだ方がマシだが孫策と約束してしまった。

そうでもしなければ彼らは生き延びる恐れがある。そんな事、こんな連中が生き残り、孫策の物語に傷をつけるなど私には耐えられない。




そしてゆっくりと仮面を外す。


徐々に現れた顔はどこにでもいるような普通の顔。

対して特徴があるわけでもない。

綺麗だ、醜いと言うわけでもない。

隣を通り過ぎたとしても気になることはない普通の顔。


周りにいた群衆も、黄蓋もその顔を見て特に感じ入ることはなかった。



だが黄巾の残党の一人は違った。

その顔を見た瞬間、その顔に目を奪われて固まる。彼は一度陣中で見かけたことがあった。それ以来忘れたことはない。忘れたことはない。


呆然とたたずむ一人に他の二人は何が起こったのか理解できない。

やがてその一人の黄巾党の残党は絞り出すようにその名を呼ぶ。



「は・・・」



黄巾の最強の将の名を。



「波才・・・将軍」



その絞り出された声の名前を誰もが理解した瞬間、その場にいた全員が固まり、動けなくなる。

先ほどまで「なんだ」とばかりに睨み付けていた二人の残党も今では驚きの余り、開いた口がふさがらず空気が肺と行き来する音だけがその口から溢れる。

それはその場にいた群衆も、黄蓋ですらも同様であった。


やがて群衆の一人が耐えきれずに声を上げる。



「波才・・・ってあの黄巾党の波才か?」



その声を皮切りに他の群衆も次々に声を上げる。



「何度も官軍を撃退したあの・・・」


「し、死んだはずじゃ」


「な、なんで波才がここに」


誰もが死んだと聞いていた名を持つ男が現れたことに困惑し、理解出来ない。


黄蓋もその名に驚いたが納得の表情を浮かべた。


孫策から黄巾の軍を滅ぼした後に追った一人の黄巾の男の話を聞いていたからだ。孫策を打ち破る武、そして全てを知るような言動。彼は天の者だと孫策は言っていた。彼女のかんがそう告げているとも。

その者の名は波才。

あそこに立っている、いつも話していた店主がそうだとは思いもしなかった。


だが納得した。

そうじゃなければ彼が語る話は、料理は、言葉について説明が出来ない。

彼の故郷というのがおそらく天の国なのだろう。


だとしたら自分はずいぶんといい思いをしたことになるが・・・それよりこの現状が問題だ。



「(じゃが何をしにここへ来た?孫策殿が退いたということは害はないじゃろうが・・・)」



だが彼女もまた波才の行動に戸惑い、決めかねていた。聞けば追われておりこの場で目立つ必要はないはずだ。

あの残党達の味方をするのだろうかと考えたがそれならば策殿が退くはずはない。


ならば何故?


黄蓋は油断無くどこに転ぶのかまるで分からない場を注意深く観察しながら考える。


だが、そんな戸惑いを見せる者達とは違い歓喜にその声を上げる者達もいた。



「は、波才将軍が来てくれたぞ!!」


「やった・・・やったぞ!!」


「これでもう怖いものは何もねぇ!!」



それは黄巾の残党達であった。

彼らは絶望の表情から一転、勝ち誇った勝者の顔へと変わっていた。彼らは周りを囲まれ、人質を取ったものの生き延びられるか分からなかった。

だがそんな時に駆け付けるように現れたのは黄巾の英雄だ。故に彼らは笑い、喜びに体を震わせたのだ。


それ故に黄巾党の残党は気が付かなかった。

冷たく、侮蔑の表情で彼らを見つめる波才の姿に。



「波才様我らをお助けください!!」



一人の残党の男が声を上げる。

彼らは信じていたのだ。波才が助けてくれると。


だがその声に波才は動かない。ただ頭をかきながら退屈そうに足で土を弄ぶ。

そんな波才の姿に戸惑民衆と黄巾の残党達。



「は、波才さ」



聞こえなかったのだろうかともう一度その名を呼ぼうとした、その時。



「貴方達は十分いい思いをしたじゃないですか」



声を遮って発せられた声はあまりにも冷たく、氷のような声。

その言葉は確かに波才から発せられていた。

そして波才自身の体から周りを圧倒する重く、どす黒い重圧が周りを黙らせる。


黄巾党の残党は喜びの顔から一転、唖然とした表情を浮かべた。

救世主を見つけた彼らから見て、救いの神は一瞬で死神へと姿を変えたように見えたからだ。さらに先ほど対峙した女の武人とでは比較にならないような死を波才から感じ取り、顔を青くする。


そんな彼らを波才は鼻で笑う。

彼の再度開いた口から飛び出すのは夥しい呪詛の嵐。



「村を襲って、金品を強奪し、女を奪い、いったい何人の血をすすってきたので?」



笑った波才をみて男達はゾッとした。


笑う波才の顔には『無』。


彼らを嘲笑うこともなく、哀れむこともなく、侮蔑することも、怒りを向けることもない。

なんの感情も浮かんでいない人形のような冷たい顔。

黄巾党の残党のみならず、周りから様子を見る民衆すらも怯え、一歩足を下げた事によって波才達の周囲にはより大きな円が出来上がる。


波才は一切それを気にせずにただ残党達を見続ける。呪詛をはき続ける。



「何人の罪もない人間を殺してきた?どれぐらいの罪もない人間を殺してきましたか?楽しかったでしょうね~自分よりも弱者を踏みにじるのは。貴方達みたいな馬鹿は強くなると調子に乗って自分の事しか考えないですからね。踏みにじられる弱者なんか気にも止めないでしょう」



誰も動けない。

彼の言葉には不思議な力が宿っていた。だがその力はとても禍々しく、触れれば全てを飲み込むほどの負の濁流。

自然と波才の周りからは音は聞こえなくなり、ただ波才の声のみが場を支配する。


そして「でもね」と波才はその言葉に付け加える。











































「弱者はそのままでいいなんて思ってはいませんよ?」



そう波才は笑う、否、嗤った。

その笑みは言いようのない恐ろしさと醜さ、その声は余りにも重く、聞くだけで精神がすり減る。

もはやこの場の全てを波才はその手に握りしめていた。


周囲の波才を見る目には怯えと恐怖が浮かんでいる。



「私達が起こした反乱のように与えられた怨は必ず返ってきます。それが世界の法則ってものですよ。ちょっと歴史を調べればそれが嫌でも解ります。この漢でさえ生まれる前には振りまかれた怨により陳勝・呉広の乱が在ったのですから。貴方達は張角様を盾にしてその怨をたくさんの民に振りまきました。でもその分いい思いをしましたよね~?」



そう問いかける波才の顔は怒りに満ちていた。

その顔を向けられて三人の残党達はヒッと短い悲鳴を上げる。



「貴方達にはその怨が返ってきただけですよ。それをそんな被害者ぶって罪もない人質を取り、巻き込み、甘ちゃんなことを言うとはいただけないですね~馬鹿ですか貴方達?」



クスクスと笑うその子供のような仕草が、かえって黄巾党に不安と絶望を与える。

やがて笑い声に絶えられなくなったのか、それを振り払うように彼らの一人が叫ぶ。



「お、お前だって俺らと同じ黄巾党じゃねぇか!!何を偉そうに!!」


「そうですね、私も黄巾党でしたよ?」



だが波才はそれを受け止めた。

受け止めた上で彼は言う。



「だけど貴方達と同じというのは納得が出来ない。なんの罪も無い民を人質に取るなんて考えることすら馬鹿らしい。ああ気に入らない、貴方達が気に入らない」



殺気にその場にいた全員が恐怖の表情を浮かべる。

それ程までにすさまじく、『死』を強制的に感じさせる。

それは黄蓋も例外ではなかった。



「(な、なんという殺気。儂が恐怖に震えているじゃと!?)」



歴戦の将さえも震えさせる殺気。

それを目の前の青年は出している。

背後にいる黄蓋でさえその殺気に震えるのだから、正面からその殺気で射貫かれている黄巾の残党達は気が気でなかった。



「私達はもともと腐った人間と腐った国を変えるために立ち上がった。重税をかけられ、税が払えずどんどん生活が苦しくなっていく者達のために私達は戦った。まぁ、大半はそういう理由じゃなかった気もしますがそれでも同じ弱者を襲うことはしなかった。なのに、いつのまにか他の黄巾党の連中はその腐ったやつらと同じになった。私の部下達のような苦痛に泣く民にも牙を向けた。失ってはいけない人として大切な物を失ってしまった。だから私達は消えなくてはならない。そんな者達はいてはならないのだから」



波才が彼らを見つめる目はいつの間にか殺気から憎悪へと変貌していた。



「なのに貴方達は何を、何をやっているのですか?張角様が新たな時代への犠牲になった。もうそんなことする必要はない、くわを持って畑を耕したり、店で働いたりしなくちゃならないってのになんで剣を持って罪のない民を傷つけ続ける?貴方達はもう戻れないんですよ。人の金を奪い、生活を脅かすことに慣れた獣は殺されなくてはならない。獣になった者は退治されなくてはならない。死神がいずれその首を取りに来るのを待つしかないんですよ」




誰も話す事が出来ない。

彼の言葉はとても悲しい響きを持ち、聞く者全ての心を握った。黄巾党の残党ももはや何も話さない。ただただ、絶望の表情を浮かべていた。


そんな黄巾党達を見つめて、波才はため息をつくと髪を手で乱雑にかいた。



「まぁ・・・案外その死神は近くかも知れないですけどね」



彼がそうつぶやいた瞬間、黄巾の残党達の背後に影が舞い降りる。

それに気がついた残党達が呆然と後ろを振り向いた。


彼らはこの時初めてこんなにも影は黒いことに気が付く。


それを確認した波才はまるで役者のように優雅に微笑む。

もっともその笑みは仮面の下に隠れているために誰も見えはしないはずなのだ。なのに周りの人間は笑ったと解る。


そして波才は手を伸ばす。


その影へ向けてか、はたまた黄巾党の残党達へ向けたのか。それは波才しか知らない、波才しか語れず波才のみが理解出来る。


この時、黄巾党は影に怯え周りの人間達は波才を無心に見つめていた。

この光景がまるで劇の一幕のように彼らの脳裏に焼き付けられる。


だがここに在る光景の真相は英雄とその他がただいるだけに過ぎない。ただ、それだけ。

































「死神さん、その人達を救ってあげてくれませんかね」



「誰が死神よ」



そう、一人の英雄とその他の人間だけしかここにはいない。


影は口を開いた。

影、孫策は人質を取っていた男の首をはね飛ばした。

首から溢れる返り血が孫策を彩る。



瞬く間に静寂の時が壊れた。


劇は悲劇に、悲劇は血によってのみ彩られる。



「な、いつの間に!?」



その瞬間鋭利な刃が戦を描いて宙を薙ぐ。その軌道には驚きの声を上げた男の首があった。

結論、男は死んだ。気のせいだろうか、はね飛ばされた彼の目は孫策を見ていた気がする。サッカーボールのように地面にバウンドしてしまったからもう知らないけれど。



驚きの声を上げる黄巾の残党がまた一人切り捨てられた。


既に辺りには酷い血の臭い。生臭い匂いが辺りに充満し、どろどろの液体がそこらかしこで広がっていく。

それを皮切りに野次馬であった群衆も叫び声を上げその場から離れようとする。


最後の一人である残党の男は何とか生き延びようとふと目を周りに向けると、一人の男の子が呆然とその光景を見ているのを見つけた。その男の子にとってこの光景は何を思わせたのであろう?少なくともこれが彼に影響を及ぼさないことはまずない。


残党の最後の男はしめたとばかりにその場に呆然としている一人の男の子へと走り寄る。

だが彼はその場で彼らと相対していたのが孫策だけではないことを忘れていた。


仮面をつけていた男が。元凶である彼らの希望であったはずの男が。


その男の名は。



「おいおい、あれだけ言ったのにまだ罪もない民を盾にしようとしますか。ああ、気に入らない。やっぱり貴方達は気に入らない」



波才。

彼はやれやれと男の進行経路へと躍り出ると肩をすくめる。



「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



残党の男はもはや何も考えられなかった。

ただ、目の前のこの男、波才を殺すと獣のように叫んで彼に剣を振り上げた。


振り下ろす。


波才は動かなかった。


男は笑った。

殺したと。


だが男は波才に傷が無いことに気がつく。

そして今振り下ろしたはずの自分の剣を持った腕が無いことにも。



「え?」



疑問に彼は声を漏らすが誰もその疑問に答えない。

いや、例え答えていても男にその声は届いたかは解らない。


男は自分の目線が落ちていくのを感じた。

目の前には地面。


衝撃が男を襲う。

最後に男が見たもの、それは崩れゆく己の体と憎々しげに自分を見下ろす波才の姿。


男は首を切り落とされ絶命した。

その死に方すら知らずに。








































~裏通り~


数十分後。


私は裏通りに来ています。


何故って?

そりゃあんなことしたからには目をつけられちゃいますからね。

それに元黄巾党将軍だし?

孫策さんに恨みがあるかもしれないし?

すぐにすたこらさっさと逃げてきましたよ。

仮面も装着し、準備万端。


・・・。


やっぱり人を殺すってのは嫌なもんだなぁ。

彼らも農民であり民だったが、暴政により賊になり、血に飢えた獣になってしまった人達。

そもそも国がしっかりとしていればこんな事起こらなかったんですよね。

それに偉そうに言っていても私も元は黄巾党の一人。

そんな彼らが強奪した食料も頂いていたかもしれません。

本当に私には彼らにあんなことを言う資格は在ったのでしょうか?



「無かっただろうなぁ・・・」



でも気に入らない。

気に入らない。ああ気に入らない。そんな資格は無いだろうが無かろうが、人を殺すのは嫌であろうがどうだろうが気に入らない。


終わった物語にしがみつき、惨めに足掻くその醜悪さたるや吐き気が込み上げてくる。

確かに終わろうがその物語に殉じるしかない人間がいることは確かだ。だが彼らにはその選択をする必要が無かった。無かったがそれを諦めきれずにしがみつき、あのように馬鹿な姿をさらしている。


あまつさえ、英雄の肩書きに傷をつけるなどもう耐えられない。

最高の美酒に醤油を垂らしてどうするつもりなのだあいつらは。


とてもじゃないが我慢などできやしない。




まぁ、もうこれはよそう。今更死んでいる人間に対しうだうだ考えるのはもったいない。その時間が無駄だ。



「人は鬼にはなれるが、鬼は人にはなれない」



彼らは結局鬼になってその鬼から抜け出せなかった。既に心の底まで獣に、鬼になっていた。

私は人に情をかけれど鬼や獣にかけるものは持ち合わせてはいない。



だが、私は既に人を殺している。

違いなどほんの僅かだ。ただその僅かな違いこそが私と彼らを分けた。その違いは僅かなれど大きいという矛盾を秘めているが、何よりも大切な物だ。



「まぁ、結局はあの人達と落ちるところは同じかな」



いろいろ考えたが死んだなら落ちるところはあいつらと同じだろう。ただ私は後悔はしない。それを信じ、生きる覚悟があるからだ。

覚悟があるのだから後悔などしない。

落ちるならば笑って死んで落ちてやる。



「人は物語を紡ぐ、ただ紡げるのは生者だけ。死者が物語を紡ぐなどあまりにも馬鹿らしい」



死んだ人間が物語を紡ぐ、そんな事は無い。結局どんなに自分という存在を残そうとも物語は終わりを死んだ瞬間に遂げるのだ。

では死んで生き返った人間はどうだろうか?少なくとも自分はその部類。

だがそれは死すらも自分の物語を彩るために必要なアクションだ。

そのようなパフォーマンスはさらに物語を加速させる。



でもそれってまどろっこしいと思いません?


私はそう思いますよ。私は華々しく生き、死んでいく方がよっぽどいい。その華々しくをどうとるかはその人次第だが・・・。

ま、それも一興というもの。



「そう思いませんか?」



私はくるりと笑って振り向き、いるであろう人物の名を呼ぶ。


この人はどう思うんだろうか?

彼女の物語は紡がれ続ける。

私とは違い多くの人間に好かれ、愛される物語がだ。


今はその物語が汚れなかったことでよしとしよう。
































































「ねぇ・・・孫策さん」



貴方はどんな物語を見せてくれるのですか?

恐ろしいことが起こりました。


何故か小説三本分(この話の続き)が朝起きたら消えていた。


必死になって昨日の夜を思い出す。

・昨日疲れて眠気に襲われつつも無事帰宅

・取り合えずパソコンを起動

・いろいろと整理を開始


……いろいろと整理したあたりで多分本編も整理しちゃったんでしょう。リアルで「うわぁぁぁぁ!!!」って叫びました。


というわけで次回は多分二週間ぐらいは遅くなります。

このついでに書きだめの董卓連合編を完結させたいなぁと思ったり。


そういえばこの前の「戦場のボーカロイド」の人気に吹きました。そうですか、みんな歌が好きですか。作者も大好きです。


今回は本当にマニアックな武将?紹介です。


□□□□□□□□□


「働きたくねぇ……」


呆然と寝転がりつつ司馬懿はため息をついた。


「いやぁな、わざわざ中央出向かんでも俺ここら一体取り締まってるから普通に生活できるからね。あんなどろどろの中心に身を投げるとかしたくもねぇよ」


司馬懿は中央に出向けと言う報告を無視していた。

そもそも自分は名誉欲など無く、お金だってここら一体を取り仕切っているために苦労していない。出向く理由がない。


「……あなた」


「お?張春華?どないしたの?」


気が付けば妻の張春華が扉を開けて立っている。その手には自分がうんざりしている例の書類が。


「……曹操様からの要請。都に来て欲しいって」


「……、あ~なんか風邪っぽい。おまけに体の節々が痛い。これは中風だな。っつうことで出向けないって事で」


そう口笛を吹きそうな様子で言い放った司馬懿だったが何かが落ちる音が聞こえたので視線を動かす。張春華が手に持つ書類を盛大に地面にばらまきがくがくと震えている。


「……医者、お医者さん呼ぶ。あ、薬、薬は……どこ?そ、そう。華佗呼ばないといけない、あ、でもお薬が先」


あわあわとその場で右往左往する彼女に司馬懿はため息をつく。


「だから、仮病使うからっていってんの」


その言葉に彼女はきょとんと固まった後満円の笑みを浮かべた。


「……っほ。良かった司馬懿、健康」


呆れる夫を後目に彼女はひとり胸をなで下ろした。その姿は周りから見れば本当に微笑ましいばかりだろう。


   △


そう言って仮病を使っていた司馬懿だが当然偽る必要があるので寝床から動けない。


「とはいうものの暇だわなぁ。そうだ、確かとっておきの書が……ってこりゃ日干ししないとだめだな。匂いその他諸々がやばい。お~い、誰かいる?」


「はい。司馬懿様」


「ちょっとこれ外で干してきて」


   △


「ん?やべぇ。ちょっと寝ちまった。そう言えばあの書物は」


そう思い外を見て彼は驚愕する。

空が曇り雨が降り出していた。まだ小雨だがこのままでは。


「っちょそれやばい!?誰か!!誰かいるか!?」


だが返事は一向に帰ってこず、雨はますます本降りに。

司馬懿は舌打ちして寝所から身を乗り出すとその書物を自ら回収してしまった。

ほっと一息ついた彼であったがその姿を見る者が一人。その家の女中が見てしまっていた。


だがその場にいたのは二人だけではなかった。


その日の夜。

昼間の事で頭を悩ませる彼女の部屋に扉を叩く音が。


「はい、どなた様で……奥様?」


そこには司馬懿の妻である張春華の姿があった。

だがその顔は幾分か柔らかく彼女にしては珍しい笑みを浮かべている。


「……あのね」


「はい?何でございましょう」


いったいなんだ。そう思った女中だがその次の言葉で固まる。


「死んで」


   △


翌日、司馬懿は朝一番の報告に慌てる。


「はぁ!?この家で殺人!?」


「は、はい」


「なんで直ぐに俺を呼ばねぇ!?」


「奥様が大事にする必要は無いと……」


「張春華が?……ちょっと呼んできてくれ」


しばらくして彼の部屋に張春華が現れる。

その顔は普段と変わりないものであり、彼は首を捻らせる。


「おい、お前が口止め頼んだのは本当か?張春華」


「……うん」


「お前それは「私が殺したから」……え?」


「私が殺した。だってあの子司馬懿が外に走ってたの見てた。だから殺した。司馬懿、中央行きたくない。この話、曹操にされる、召し抱えられる。司馬懿、かわいそう」


司馬懿は頬が引きつった。目の前の妻はいつもと変わらない笑みで笑っており、その目には何とも言えない険呑さを秘めていたからだ。


「司馬懿、大丈夫?震えてる」


□□□□□□□□□


張春華


司馬懿の正室であり、妻になる前、若い頃から道徳にかなった行動をし、人並み以上の知識を備えていた。

ある時、司馬懿が俊桀との噂を聞いた曹操は、使者を出し配下に迎えようとした。だが、司馬懿には仕官する気が無かった為、中風(仮病)と称して引きこもり、断っていた。そんな時、書物の虫干しをしている所に突然の雨が降り、慌てた司馬懿が外に飛び出し、書物を抱えて家の中に放り込むという出来事が有った。ところが、悪い事に家から飛び出した所を家の下女に目撃されてしまうのである。


病で引きこもっているはずの男が元気に外に飛び出してきた。これを曹操に知られれば、偽りを語ったとして一族郎党皆殺しもあり得る。そう考えた彼女は、目撃した下女を殺害し口封じをしたのである。

流石の司馬懿もこれにはドン引きし、以後彼女を警戒するようになる。


なおこの話は疑惑があるが……あまりにも凄すぎる。下手すれば1800年前にヤンデレが完成されていてそれが彼女かもしれない。

歴史に残るヤンデレ疑惑である。


司馬懿は伏夫人、張夫人、柏夫人と側室を娶り、寵愛した。それゆえ次第に彼女は司馬懿と疎遠になってしまった。


司馬懿が病を得て寝込んだ時、彼女が見舞いに訪れると、「小憎らしい女だ。普段はまともに話もせぬのに、こんな時にだけ顔を出す。一体何の用だ?」と皮肉った。思うところが有ったのだろう、彼女は怒りと恥ずかしさのあまり「断食」して自殺を図ったのである。しかも、息子二人を巻き添えにするというおまけ付きで。


息子達も断食していると聞いた司馬懿が、彼女の元を訪れて謝罪した為断食を止め、事なきを得た。


この息子達は司馬師・司馬昭・司馬幹であり、魏、晋を支えた大木に他ならない。彼女の息子達はすべからく有能だったようだ。


何気に妻めとりまくりの司馬懿さん。もうこれ北郷くん認定受けても良いと思うのだが。そんな彼にこんな対応する彼女もクール、まさにヤンデレ。

さらに謝りに来た司馬懿は「お、お前が心配じゃない!!息子達が心配だったんだからな!!べ、別に他に意図はない!!」と言い放ったといわれる。


ツンデレとヤンデレで意外と夫婦仲は面白かったようだ。1800年前にツンデレとヤンデレが結婚という非常に面白い出来事が起きた可能性があるとか胸熱。


もうこれ作者がキャラ作らなくても十分だよ!!1800年前からのヤンデレ文化とか胸熱ですね!!

ちなみに三国志大戦で使われる軍師SR張春華カードの絵柄は必見です。さぁみんな!!ググるんだ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ