番外編 とある過去~夢~㊦
人生における大きな喜びは、君にはできないと世間がいうことをやることである。
~ウォルター・バジョット~
「武将もゼロ~内応者ゼロ~弓矢ゼロ~馬もゼロ~鎧ゼロ~槍もゼロ~剣もゼロ~というか武器もゼロ~兵糧もゼロ~周りはみんな敵だらけ~……これどうやったらいいのですか。ゼロだったらギアス使えるようにしてくださいって」
どうも波才です。山の山道をのんびりと歩いています。良い天気ですね。すいません、現実逃避しました。目を背けちゃいました。
みなさん、これどうしたらいいですか?正直なんとかなるとか甘いこと考えてましたけど、これ戦う前から負けてませんか?
幸いめぼしい人間は集めましたが将がいません。武器や兵糧は集めればなんとかなりますが将は素質が在る者が絶対必要です。
……そんな人はみんな他所に行ってしまいます。そりゃそうだよね、賊同様の黄巾党に「ハイハ~イ、私絶対入る!!」とか手上げて入ってくれる人いませんよね。なんで気が付かなかったんでしょうね。いくらなんでも私一人じゃ無理ですから。
その場に立ち止まり思わずため息をつく。
さっきの村に気功を使える傷だらけのかわいい女の子がいましたがあれは凄かった。思わず日本伝統のDOGEZAをして教えてもらいましたが、習ってみればますます彼女が凄いことが解る。
他にも二人ほど将の素質が在る女の子がいたのですが……どこと無く聞きだした所彼女達は黄巾党嫌いみたいです。
むしろ敵になりそうです。涙目です。
収穫は気功の使い方かぁ……私個人がどれほどがんばろうとそれは個人。軍全体の利益にはとてもじゃないがなりません。せめて私に一騎当千の力でもあればいいのですが……生憎普通の域は出ておりませんしね。
せめて、せめて私に外気功の才能が在れば昇○拳とか○めはめ波とかソニック○ームとか出来るのに。待ちガイル出来るのに。
いけません、過去を悔いるのではなく今を生きなければ。
……って生きられるか!!
無理すぎるわ!!なんですかこのゲームオーバー臭は!?安西先生が「諦めれば?」とかとち狂って言い出しますよこの状況!?天和様達を守るとは言いましたけどさっそく心が挫けそうですよ!?史実だって都の宦官と内応したし名士達を集めたんですよ!?それすら出来ずにどうしろってんですか!?(※思った以上にきつい状況に相当キてます)
「あ~っどこかに孔明とか落ちてたりしないもんですかね……いくらなんでもこれ無理ゲーです」
コーエーのゲームみたいに助言率100%とかの孔明落ちていませんかね?流石にゲームみたいに「倒したんだから仲間になれやぁ!!」とか出来るわけないですから。コンティニューも無いんですよ?
……落ち着くのです。
そんな孔明が落ちているわけが
ガサガサ
その時、波才の近くの草むらで音がしたかと思うと、女性と思わしき影が現れた。
波才は思わず冷や汗を垂らしながら一歩下がる。流石の彼も驚いたらしい。
……WHAT?マジで孔明来ちゃいました?
奇跡とも思える出会いを想像した波才は鳥肌が立つのを感じ、乾いた笑みを浮かべた。
私は……どうすればいいの?
復讐も、守る力も、ただ一人の小娘である私には無い。新しく出来た家族、大切な家族も守ると誓ったはずなのに……お父さん、お父さんの言うとおりだよ。
そんな力ない。私は、私は誰も守れないし助けられない。お父さんは私を生かしてくれた。生かしてくれたけど、なんで生かしたの?なんで私もお父さんやみんながいる所に行かせてくれなかったの?
この数日間何度も何度も首に剣を押し当てたり、崖から飛び降りようとしたけれど死ねなかった。
怖いよ、死ぬのが怖いよ。
みんなに守られたこの命が、お父さんとお母さんが、お父さんが守ったこの命。失いたくないよ。
ねぇ、死んでも誰も喜べないんだよね。私解るよ、お父さんの思いが。みんなの思いが。でも私は死にたい。死にたいよ。
また家族を死なせてしまった。どれだけ剣を振るっても私は守れない。誰も守れない。
何日も走り続けた美須々は満身創痍であり、怪我の治療すらしてなかったために血を多く失っていた。それでも倒れずに飲まず食わずで走り続けられたのは幼き頃から母親によって鍛え上げられた武人としての素質と身体と強靱な意志のためであったが、彼女の限界は近い。
それでもその手に武器を握りしめているのはもはや武人としての本能であった。
太陽が沈むように何事にも必ず終わりが来る。ガキの喧嘩や女の小言、はては戦争までその法則は変わらない。美須々の体と心は限界を迎えようとしていた。目が暗転し足がまるで宙を浮くような錯覚、木に躓き倒れその意識が闇の中に沈もうとしたその時。
「あ~っどこかに孔明とか落ちてたりしないもんですかね……いくらなんでもこれ無理ゲーです」
声が聞こえた。
それはどこにでもいるような、平凡極まりない日常のそこらかしこで聞く。そんな声が彼女の耳へと吸い込まれた。
彼女は何故かその声に惹き付けられた。
もはや立つことすらままならない体を彼女は木によりかかりつつ何とか立ち上がると、その声に向かって一歩一歩大地を踏みしめるように歩く。
何故自分がここまでして最後の力を振り絞り立ち上がったのか彼女自身ですら理解出来なかった。だが彼女の本能、そして武人としての消えかけていた炎が自然と先の声で激しく燃え上がっり、彼女を突き動かしたのだ。
手で草や木をかき分ける。名も知らない虫が美須々の目の前を横切るが、彼女のその視線はぶれることなくただ声の方向を見つめていた。
茂みを抜けるとそこには一人の男がいた。
頭に黄巾を巻き付け、腰には数打ちであろう剣、顔は平凡的でありその姿はまるで野党のように飾り気が無く実用向け、つまり実戦を意識してる動きやすい服装であった。
彼女は落胆する。
私は、何故この男に惹かれたのだ?こんなどこにでもいるような男に。
男はたいそう驚いた目で私を見ている。そういえば人前に出る姿ではないと私は思い出した。体はお父さんの血と自分の血が混ざり合い赤に染まり、何日も森を走りさ迷ったせいで相当汚らしい姿なのだろう。顔もここ数日間何も口にしていないため窶れているのは間違いない。
それ以前にこの姿では逃げ延びた賊だと丸わかりだ。この男も賊のような姿だが私には解る。この男の匂いは我らの同胞ではない。
自然と口が僅かに弧を描くのを感じた。そうか、私はこの者に討たれるために来たのですね。最後は安らかな死など私達にはあり得ない。泥の棺桶で死んでいくのだ。みんなと同じで。
やっと、やっと死ねるんだ。殺されちゃうのなら、しょうがないよね?みんな……許してくれるよね?
全てを諦めたように薄く笑う私を前に男は。
「まさか孔明ですか!?」
と体を全て使って驚きを表す。
だが私はもはや答える気力は残っていない。亡霊のような足取りで静かに男に近づく。
男は私をしばらく観察してどうやら人違いだと解ったらしい。
肩を落としてあからさまに残念そうに息を吐く。
「違うみたいですねぇ。でも」
男は私を見て笑った。いや、嗤った。
「その人身の奥に宿る狂気は目を見張りますね。貴方はどこのどなたさんですか?」
その瞬間私はまるで雷に打たれたようにその場から動けなくなる。なんだ?なんなんだこれは?
霞がかった頭が一瞬で正常な武人としての私へと戻る。思わず手握りしめた武具を構えようとするが力が入らず持ち上がらない。だがそれでも諦めるなと本能が告げる。危険だ、この男は危険だ。この男から感じ取ったこの得体の知れない威圧感はなんだ?いえ、これはそもそも何?威圧感とは違うこれはなんだ?
私は体温が急激に下がっていくのを感じつつ一歩下がる。
今まで決して少なくはない命をかけた戦いの日々を生き抜いてきた。幾多もの血を浴び、流してきた。
だがそんな自分の経験をもってしてもこの男が放つ得体の知れない毒々しさは殺意以上におぞましく生臭い。まるで爬虫類のような冷たい笑みと瞳の奥に隠れたその「何か」に私は動けない。
動くことを許されない。理解出来ない、したいとも思わない。
この、この男に関わってはいけない。そう思う一方いや、関わるべきだと心の中で叫ぶ自分がいる。
私は葛藤したのを覚えている。
だが、私はこの時ふと思い出した。
私は死ぬのだ。この男に殺されるなりのたれ死ぬなりして死ぬのだ。
なら、何も怯える必要など無いではないか。
思い出せばなんと滑稽なのか。自分は武器を構えて未だに生きようとしている。
私は槍を手放した。乾いた音が辺りに響く。
心が穏やかになる。
もう、どうでもいいです。早く楽になりたい。殺してください。
「……私は、誰なのでしょうね。お願いがあるのですが」
「はて?何でしょう?」
「殺してくれませんか?もう生きたくないのです」
もう疲れました。一刻も楽になりたい。
そう思い目を静かに閉じる。
ですが、中々その時が訪れない。
暗闇の世界の中に聞こえてきたのは……目の前の男の不思議そうな声だった。
「貴方は夢を見ないのですか?」
私はその言葉に思わず目を開けて男の顔を見る。相も変わらず平凡な顔がそこにあるがその目は先ほどとは違いまた別な鈍い光を放っている。その目に圧倒されつつも私は先ほど男が言った言葉を心の中で何度も自身に問う。
夢とは……何?
「……夢?」
「ええ、私はそんな望みが霞んでしまうほどの夢が貴方にはあると思いますよ。貴方の目は死んではいない、死んでいるのなら貴方は今ここで生きてはいない。きっとここに来るまでに貴方は死んでいるでしょう。何が貴方を突き動かしたのかは知りませんが、貴方はやり遂げたいことがある。違いますか?」
私のやりたいこと?
そう思った瞬間私の頭に衝撃が走り、過去の出来事が次々と浮かび、消えて行く。
それは今まで自分という物を、美須々という物を構成してきた記憶のかけら。
まるで走馬燈のように頭を駆け巡る。
「聞きなさい、生きたいから殺すの。生きたいから戦うの。その生かすものは生命であれ誇りであれ思想であれ夢であれ、人によっていろいろなのよ」
私は生きたい?生きたいから戦う?何に?何を求めて戦うの?私を生かすものは……私の夢は。
「過去の者達の事を過去の事柄を忘れ、今を生きなさい」
今を生きる?過去を忘れて?
「やめとけ。お前の考えているようなことにはなんねぇよ」
………。
「変わらないぞ?」
………うるさい。
「……それでも言う。虚しくなっからやめとけ。変わるもんはなく、あるとしたら己が醜く歪んじまうだけだ」
………五月蠅い!!
「お前に……お前に何が解る!?」
気が付けば私は咆えていた。
死を受け入れ枯れかけていた体に活力が戻り虚ろな目に光が宿る。
怒りの衝動に身を任せ落ちた槍を拾い接近、男の首に槍先を突きつける。あと数尺という死に男は微動だにしない。視線すら動かさずにただ私を見る。それがますます私の精神を逆なでする。
何故だ!?何故そんな目でいられる!?死ぬのですよ!?この手を動かせば貴方は死ぬのですよ!?
どれほどの殺意を浴びようとも男は動かない。思わず槍の先端を男の首へと押し出した。皮が敗れ肉に達し血が流れ出る。
「私は貴方のことは解らない。人は他人には理解されず、真に理解出来るのは己一人のみ。人は結局一人で生まれて一人で死ぬ。貴方を理解することは絶対に無い、出来ない」
男は目をつぶる。そして再び開いたその目には……嫉妬。私が羨ましくてたまらない、そんな意志を彼は私へと放っている。
私は困惑した。なんで、なんで光を宿す貴方が私を羨むのです?
貴方を私が羨むことはあれど貴方が私を羨む必要は!!
そう思いその首をたたき落とそうかと手に力を込めた瞬間、私は違和感を覚えた。
この目、この目だ。
私は男の目が誰かに似ていることに気が付く。
一番身近で、私がよく知っている。知りすぎているこれを私は心の底から知ってしまっている。
嫉妬?羨ましい?そんな、そんな目ではないでしょう。
何故ならその目は私と同じだった。
そう気が付いたら分からなくなった。この男はなんで私と同じ目をしているのに死んでいないのか。全てを奪われ、絶望をしっている。私が死を何度も望んだ時に水たまりに映った目なのだから。
なのにこの人は何故?何故こんな光がある?前へ進もうとする光があるのだ?
「その目はね、かつて私がしていた目そのものなのですよ。誰にも理解されず、この世を憎み、人を憎み、全てを拒み拒まれて。私達は頑張り続けた。どこまでも戦い続けた。地獄を見てさ迷い、希望を見つけ、堕とされて。自分の道を否定されても信じて進み続けた。それでも、それでも世界は残酷だ。例え努力しようと信念を貫こうともこの世界は受け入れない。救われることも報われることはない。そしていつしか自ら死を望む」
そう語る男は苦痛に顔を歪めている。それは傷から来る痛みなどではない、それ以上の痛みをこの人は今思い出しているのだろう。
「私と貴方の違いはね。そこで死んでしまったかどうかです。私は死に、貴方は生きている」
この男が言っていることが私には痛いほど理解出来る。
私は、私は生きている。死にたいと何度も何度も思ったけれど、私は生きている。
それは大切な、大切な……家族がいたから。
守ってくれる人達がいたから。
だから私は今ここで生きている。
「心から貴方のことを愛してくれた家族がいたのですね。貴方を止めてくれる、死の道から戻してくれた人達が」
大切なお父さんが、お母さんが、お父さん。
だからこそ私は苦しんでいる。彼らの大切な人の願いに縛られて。
その願いが、生があるからこそ私は苦しみをに喘いでいる。
「私は牙を折られて、貴方は今も牙を研ぎ続けている」
そうですね。
牙はあります。
ずっと、ずっと前から研いでいます。
ですがどんなに研ごうと、どんなに望もうとも。
知らぬうちに私の手は槍を手放し強く握りしめられていた。
「研ぎ続けても、届かないのですよ。私の牙は」
「それは何故?」
「何故……なのでしょうね。届かなくなったのか、それとも最初から届かなかったのか」
「ここでも違いがあるのですね」
男は笑った。
どこまでも清んでいるこの空のような笑顔。どこまでも続く天を思わせる笑顔。
綺麗……ですね。人はこんな笑顔を浮かべることが出来るのですか。
「貴方は牙を研いでいる。だがその牙は使われることはない」
そう、私の牙は使えない。私が私で在る限り、私が使う限りこの牙は輝こうとも全てを貫こうとも使われることはない。
使えない。
でもそれはこの人も同じ。
私にはこの人が解る。どれほどの苦境を歩んできたのだろう?どれほどの地獄を見てきたのだろう?
この人は死んだのだ。嘘ではない、嘘ならばここまで私の心を動かすことは出来ない。人の心を奮わすことなど出来ない。
彼の持つ折れた牙。使いようもない牙。
違いなんてどこにも無い。
はずなのに。
「ですが私はぼろぼろの、錆びれて折れて、つかいようもないようなどうしようもない牙を今相手の首に突き立てようとしている」
驚きに目を見開く。咽が渇いて仕方がない。なんですか、何なんですかこの人は!?
何故、この人はこんなに獰猛に笑うのですか?
折れているでしょう?貴方は私を超えた地獄を見たのでしょう?なんで、なんでそんな顔で笑えるのですか!?
私は突き動かされるように彼に問う。
「貴方の敵は!!その折れた牙で何を殺すのです!?」
男は笑う。
まるで子供のように無邪気に、その身に覇気を込めて。
彼は天に向かって腕を広げ、天を飲み干さんばかりの大きな口を開けて咆える。
「この400年続いた漢王朝!!そしてこの大陸の英雄達!!」
私はその言葉に愕然とした。
私ですら帝という一人の人間だけを狙っていた。そして出来ないと、不可能だと諦めて絶望している。
それをこの男はなんて言った?
漢王朝?英雄達!?
「貴方は……正気なのですか!?」
「正気ではないのでしょうね。どうしようもなく狂っているかと」
「勝算があるのですか!?」
「そんなものはない。なさ過ぎてさっきまで絶望してたぐらいです」
なんで、なんで貴方は笑っていられるのですか!?
国ですよ!?この大陸に逆らえるものなどいないのですよ!?私達以上に頭も良く強い者達などいくらでもいるのですよ!?
この男は何なの!?大馬鹿者?頭がイカレているの!?
だが今この男の目は爛々と輝き不敵な笑みを浮かべている。
その目に宿る理性、敗北すると解っているのにも関わらずその体から溢れる闘気。勝利への渇望。
誰もが愚かだと笑うことをこの男は正気で言っているのだ。
「なんで、なんで負けると解っているのに戦うの!?」
なんで負けるのに戦うの!?勝つんでしょ!?貴方は勝てることが出来るでしょ!?なのに貴方はなんで今戦えば負けると解っているのにそんな顔で笑えるの!?
男は私の問いに「っえ?」と言わんばかりの顔をして、次ぎに腹に手を当てて笑い始めた。愉快、愉快と手を叩いて目から涙を流すほど笑って口を開く。
「勝てないから……戦わないんですか?」
「え?」
「違うでしょう?人は何かをしたいから、何かを守りたいから、成し遂げたいから戦うんでしょう?勝利というのはその結果。どちらかかが勝ったなんて後の人々に好きに言わせておけばいいのですよ。人が何を生き、何を信じたか。それを見失ってまで手に入れる勝利に、求める勝利に何の意味があると。ただ勝利のために戦うのですか?」
「それは……」
違う、私は守りたかった。でもそれは、私のやりたいとは。守るとは余りにもかけ離れてしまっている。正反対、真逆の位置に存在している。
「貴方は、復讐をどう思うのですか?」
「復讐?」
「いけないのですか!?この世で、この世で血の繋がりがある家族とやっと解りあえた家族を奪われて。それでも一切恨んではいけないと!?復讐心を抱くなと!?」
「そんなこと無い」
え?
その時のこの方の目。今でも忘れることはない。
まっすぐで、迷いが無くて。心の底から言ってくれているのだと理解した。
「貴方の大事な者を奪われたのでしょう?夢を奪われたのでしょう?魂を奪われたのでしょう?それで恨んだら悪だ?愚かだ?巫山戯た事ぬかすんじゃない」
私は彼に魅入ってしまった。
多くの人に出会った。多くの世界を母に言われたように見てきた。だが彼の持つ世界は違うのだ。まるで遠くに在るが如く此処に在り、その姿は見えるようで見えず、自分という器では触れることすら出来ない。だが触れずともそれを感じることは出来、その温かさと鮮烈さ、威圧感に自分の世界が塗り替えられるかのように錯覚させられる。自分の思い描く理想以上の世界、まるで桃源郷のような夢の世界を私はこの人にこの瞬間見いだしたのだ。
それはなんと、なんとすばらしく心震えることか。この気持ちを表現しようにも言葉では表せない。言葉という枠に収まるものではないのだ。この漢の空のように雄大でどこまでも広がっている。いや、この漢の空ではなく夜に光り輝く星空!?いや、そんなちんけなものでは断じてない!!ああ、私の言葉で言い表せぬこのもどかしさはなんと屈辱であり喜びなのか!!
そうですか……この目、この気迫。この光!!
私は、やっと見つけたのだとこの時気が付いた。。
「それを我慢できたら人間じゃないんですよ。人間の道理から外れている」
この人は。
「復讐心は持つ者によって変わるのですよ、英雄か、それとも愚か者にね。復讐しか考えられない愚か者は『何かのために』なんて高尚なことは考えられない。少なくとも、先ほどまでの貴方はそんな愚か者でしたけど……」
そう言って含み笑いをした彼は余りにも……魅力があって。
「今の貴方はどうでしょうね」
この人こそが私にとっての英雄なのだと私は理解した。
惚れている。美須々という武人はこの人に惚れている。
「やりたいならやった方が良い。それで地獄に堕ちるのなら地獄の底で笑えばいい。悔いがないのならやりなさい。そうしたのなら」
だからこそ私は最後の力を振り絞ってここまで歩いてきたのだ。
この人に会うために。この英雄に会うために。
「気分ぐらいなら晴れるでしょう……貴方、そんな良い笑顔で笑えるのですね。その笑顔、好きですよ」
「っえ」と思い口に手を添えるて初めて私は自分が笑っている事に気が付く。
驚く私を見て男は笑う。その笑顔を見る私はいつしかその笑みを受け入れていて、見ていて嬉しくて、楽しくて。
涙が、涙が溢れる。
やっとやっと見つけたのだ。
自分の英雄を、理解してくれる、私の……私の!!
「例え死のうとも、信念をとぼされようとも、他人から全てを否定されたとしても、あるのですよ。やりたいことが、成し遂げたいことがね」
この人の夢は、この英雄の道は!!
「貴方の……成し遂げたいこととは?」
「守りたい……ですかね」
男は天を見上げる。
「守りたい、どうしようもなく守りたい。それこそこの命失っても良いくらいにね」
その目は嘘を言っていない。剣のように鈍く、鋭い輝きを放つその目は何かを捕らえている。
この人は死んでも良いのだ。守るべき人のためならその命を散らせてもいいと。
いいのですか?
この人を殺させて。
この人は私を初めて理解し、認めてくれた。きっといないだろう、こんなお方はこの先出会わない。
そんな人が私の知らないところで死ぬのですか?為す術もなく死ぬのですか?
は、はは。
それはありえないでしょう?
「私が……」
「ん?」
男は不思議そうな顔で空から私へと目を向ける。
私はそれが嬉しくてたまらない、この方は今私を見てくれている。私の言葉を聞こうとしている。嬉しくて、嬉しくてたまらない。こんな感情は初めてです。
「いずれ貴方の事を理解し、導いてくれる人が現れるはず。きっと貴方はどうしようもなくその人が好きでその人のために貴方の力を使いたいと思う日が来るはずよ。それはね、恋愛とか恋とかと違うの。ぐ~っと心の底から沸き上がる衝動って感じかな」
ああ、お母さん。貴方の言うとおりです。この心の底から湧き出る衝動、感動、歓喜、ああまるで世界の中心にたったかのように錯覚させられる。
私ではない、この方が世界の中心にいるのだ。私という世界の中心に彼は存在するのだ。彼の守る道、その道を私も進みたい。共に生きたい。
だから
「私がもし、貴方と共に戦っても負けるのでしょうか?」
私は決めた。
「負けるでしょうね」
男は真剣な目で、見定めるように私を見つめる。
見てください!!見定めてください!!私という存在が貴方に相応しいかを!!
「では、私が共に戦えば貴方は生き残ることが出来ますか?」
私は、貴方に仕えたい。
男は困ったように笑う。予想もしていなくてただ笑うしかないといった所か。
しばらく苦笑いを浮かべていたが私が真剣だ、諦めないと分かるととたんに目を厳しく尖らせる。
「解りませんね、貴方が来ずとも私は生きるかもしれない。死ぬかもしれない。運命という歯車は神でさえも扱えるものではないのですから」
そう、運命の歯車は誰にも扱えない。だからこそ解らない。
「貴方は運命の歯車は扱えずとも、私を扱えるのでは?」
その言葉にこの方は驚いたように私を見る。
私は笑う、ありのままの自分の姿で笑う。
人が見ればまるで狂っているかのような笑み。自分の命すらも殴り捨ててこの方に全てを委ねる。私という存在を、正義を、信念を、道を、全てをこの方に捧げる。
過去も、現在も、未来も全て!!
「貴方は……正気ですか?」
「ええ、私も貴方と同じように相当壊れているようです」
「死にますよ」
「構いません」
「誇りもなく、義もない、ただ私の願いのために戦うのですよ」
「是非にも」
「泥の棺桶で死ぬのですよ」
「喜んで」
「私が死ねといったら死ねますか?」
その問いに私は口の端をあらん限り持ち上げる。きっと私は人がして良い笑みを浮かべてはいないだろうなぁ。
「それこそが我が誉れ」
男は私を見て笑う。
私も笑う。
「貴方は本当に、私と似て壊れているのですね」
「それは、最高の褒め言葉です、主」
我らは笑い会った。
私は誓う、この方のために全てを、私の全てを委ねて歩む。
私は誓う、この方が死ぬときは私が死ぬとき。この方の道が潰えるときは私の夢も潰える。
私は誓う、この方こそが、この方こそが我が生涯をかけるべきお方であると。
「私の名は程遠志、真名は美須々」
「私の名は波才、真名なんて高尚なもんは持ち合わせていませんよ。さて、これから貴方は地獄の道を歩むことになりますが……その笑みを共に浮かべて進みましょう」
私は歓喜に震える。この方の道を歩めるのだと。共に進めるのだと!!
背を向け歩き始めた主に私は続く。
この時。私は黄天が頭上に輝いていたように感じた事を今も忘れない。
これが主と私の出会い、共に戦い、黄巾の時を生き抜いた我らの出会い。
今目の前で旅立とうとしているこの方との出会い。
全てを背負い主は私と歩むことを許してくれた。私の過去、現在、未来。復讐までもこの人は背負っている。この人の幕切れがこれならば私は復讐という存在を捨てる。決して父や母のためではない。お父さんのためでもない。美須々が美須々であるために捨てる。美須々というものが主と歩むのに復讐が必要ではないからだ。ただそれだけ。
主を見る。
この人は生きている。もしかしたら私がいなくてもこの人は生き残ったかもしれない。今こうして旅立とうとしているのかもしれない。
それでもここにいる主は美須々という存在と共に歩んできた人間に変わりがない。
それがたまらなく嬉しい。
主が私を知っている、見てくださる、話してくださる、共に戦ってくださる。
これ以上の幸福を私は知らない。これからも知ることはないだろう。
「旦那、多分マダ旦那ノ舞台ハ終ワッテナイゼ」
「……明埜?それってどう考えてもフラグですよね。いや、楽しそうなんですけど流石にそういう立て方はちょっといやなんですけど」
「ケケケ……何ノ事ヤラ」
明埜は笑っていますが嘘は基本つきません。彼女なりの信条か何かか解りませんが軽い嘘でさえも主からの命令でない限りつかないのです。
主の命令では無いみたいですから間違いなく本心でしょう。
さらには明埜、もの凄く『かん』がいいんです。
雨降るかもといったら大抵降りますし、物を無くしたときに明埜に何となく聞くと「○○ジャネェノ?イヤ、カンツウカナントナクダナ」で高確率発見です。
ほら、主がもの凄い冷や汗を流しています。本当にいやだったようです。
でも、もし明埜の言うとおりまだ主の舞台が終わっていないのだとしら、それは私が望む未来でしょう。配下の将や兵達は皆それを心待ちにしているのが解ります。
私は静かに目を瞑り、自分の決意を新たにする。
この思いだけは、この願いだけは誰にも譲らない。
真っ暗な世界の中光り輝くものを感じる。
それは……。
主の将星が空で永久に輝かんことを。
我が将星は生涯主の星の下にあり。
オリキャラって凄い大変だね!!どこまでやっていいのかわからないですね!!でもオリキャラのために三回も使うのはやり過ぎだと思うんだ!!
次回作も恋姫書くならオリキャラ無し、北郷君主役の性格改変物で書いてみようかなぁ……。
~北郷君を書いたら編~
「お前らなんで寄ってたかって俺のアンチ系小説書きやがる。いくら寛容な一刀くんといえ怒っていいよな?」
青空の下執務室で仕事をしていた一刀は突然呟いた。
「アニメにも出られずに三期過ごしてんだぞ?しかも孔明はなんとか動画でレギュラー獲得してはしゃいでいてうざい。というか主人公無しのアニメ三期もやるとか俺に対する嫌がらせか?」
大きなため息をついて筆を置くと机に肘をついて目の前に積まれた書類を鬱陶しそうに退かす。
「第一俺のこと嫌いっつうけどしょうがねぇだろうが。俺がでてんのは鬼畜系じゃなくて友情系だぞ?うざくなるのはしょうがないだろう。しかもエロゲ主人公だから好きなキャラのルート進んでくと最終的にやるはめになるしよ。プレイヤーが好きなキャラに進むと最終的に俺が出てくるという血も涙もないジレンマに陥ることになりやがる!!」
「先程から何を一刀殿は言っているのですか?」
いろいろと我慢できなくなったのか、正面に座って同じく仕事をしていた稟が訝しげな様子で口を開く。
一刀はやれやれと首を振ると憂いをおびた顔で切なげに呟く。
「稟、君はなんでサーヴァントである俺を召喚したんだ」
「は?」
オーバーに頭を抱えて一刀は歎く。
「なんで俺以外の全員がバーサーカーなんだ。どいつもこいつも理性失いやがって。特にうちの君主様はその代表格だ。色狂いだしまともな理性持ってたらこの仕事の量は有り得ないだろう」
彼の言うとおり目の前には 山ほどの書類がたまっている。
「っくそ!!この聖杯戦争での願いは俺のいる四期だ!!」
「一刀殿……取り合えず仕事してください」
~終了~
駄目だ!!軽く四分で書いたけれど作者は駄文しか書けないこと忘れてたよ!!もうどうしようもないね!!そして一刀君、仮に四期があってもキミの出番はないよ!!
次回からは本編です。字数が減ります。文面がおかしくなります。原作キャラとのからみです。つまり作者には力量不足です。
この小説は恋姫なので本編には当然ながら原作キャラがでます。つまり次回でます。胃が痛いです。
本編キャラは基本そのままなのがこの小説。華雄の姉さんは猪だし曹操は百合だし張遼はふんどしから脱せません。最後までそのままなのがこの小説の原作キャラ。
いろいろ文章がおかしく、頭が
ξξ*゜⊿゜)ξξ←
しか回らない作者ですがどうぞよろしくお願いします。
それにしてもξξ*゜⊿゜)ξξ。
最近の金髪ドリルは頭良いんですがここまで馬鹿だと愛せてくるのは何故だろう?真の前に一番好きだったのがこの人でした。多分同族意識でしょう。