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黄巾無双  作者: 味の素
黄巾の章
22/62

番外編 とある過去~夢~㊥

子どもには、すべての最も大きな可能性がある。


~L・N・トルストイ~



「はぁぁぁ!!」



私は槍を薙ぎ払い男の視界を奪う。槍は男の目を捕らえ目玉を抉り、槍の失跡に追随するよう飛散した血が弧を描き私の頬を濡らす。

男は視界を奪われ、姿無き敵目掛けて無様に叫び武器を振り回すがそんなもの当たるわけがない。私は槍をかいくぐると男の首に槍を一突き、男は一瞬痙攣したように体を震わせると地面に倒れて動かなくなる。


次は、そう思い辺りを見合わし探るが挑むものはなく皆血を流して倒れ伏していた。


私は髪をかき上げると額に伝う汗を拭う。切れ味が落ちぬよう槍の先に付着した血を布で拭い一息つく私のもとへ軽い足音が近づいてくのを感じ手に持つ槍を握り込むが。



「おいおい、やっぱ美須々はすげぇな」



聞き慣れた声に私はため息を思わずつく。振り向くとそこには。



「お頭」


「親父って呼べ馬鹿娘。父ちゃんでも可」



無精髭を生やしざんばら頭の男。彼は人好きのいい笑みを浮かべて私に歩み寄る。

苦笑しながら私の頭を小突くこの人はお頭、私達山賊を率いている人であり私を助け出してくれた人。自称親代わりでもある。

お頭は肩を縮こまらせて「う~」っと唸る私を楽しそうに見ながら私の体を見回して大きな息を吐く。

先ほどとは打って変わって真剣な表情になるお頭は周りの倒れ伏した人だった物をどこか達観した目つきで見つめるてさらに大きく息を吐き出した。



「にしてもお前は本当凄いわ。十人に囲まれて傷一つ無いってのは異常だ」


「十三人でしたお頭。先に倒したのを入れれば三十は超えるかも」


「大半お前がやったのかよ……てか親父って呼べ。父ちゃんでも可。いい加減呼べって、意地はんないでよぉ」



にやにやしながらうりうりと私の頭を軽く押し込む。

私は煩わしそうにそれを見るが決して拒絶はせずされるがままだ。この人は死ぬはずだった私を助け出してくれた恩人、そして例え賊という形であっても生きる道を示してくれた人だ。何故か父と呼べと執拗に迫ってくるのだが何故だろう?他の仲間も止めてくれればいいのににやけてこちらを見てくる。恥ずかしいので今まで一度も呼んだことはないけれど……。


こんな仲間達がむずがゆくて温かい。例え万民に死を望まれる忌み嫌われる賊という存在であったとしても私は同じ賊であることが誇りに思える。だからこそ私はみんなに真名を預け、預けられた。


……でもさっきから撫ですぎだと思う。私の自慢の髪がぐちゃぐちゃだ。じと~っとした目でお頭を見るとふてくされるような顔をしてぶつくさ文句を言いながら手をどかしてくれた。

残念そうな顔で今にも「っちぇ」と言い出しそうな顔だ。



「相変わらずつめてぇなぁ美須々はよ。それじゃいくぞ~お前が最後で遅かったんだからよぉ」


「ごめんなさい。思ったよりも数が多くて」


「いいって、むしろお前がいたから今回は楽だったしなぁ」



私が殺したのはここら一体にのさぼっていた違う賊の連中だ。数はあちらの方が多く、手を組むにしてもそれは半ば取り込まれることを意味する。向こうは約七十人、此方は三十一人。下手をすれば元お頭であったこのお人好しは殺される可能性もないわけではない。

それを理解して私達はこいつらを殺しにかかった。私達は家族だ。家族によそ者が混じる必要は無い。私達は黒ではないのだ。白とは言えずとも混ざればぐちゃぐちゃな色になってしまう紫や青ぐらいの色だ。だからこそ私達は守るために戦う。例え賊であったとしても譲れない確かなものが存在する。



「でも私がいなくてもみんながいれば大丈夫だったんじゃ」


「まぁなぁ。でも確実にお前がいたから俺ら全員一人も死なずに済んだ」


「……そうですか。誰も死ななくて済んだのですか」



私はほっと胸をなで下ろす。実際私がいなくともみんなは経験も豊富だし負けることはないだろう。だけれど誰も死なないというわけでは決してない。実際に私がここに来てから死んだ仲間の数は少なくはない。だからこそ私は強くなる。今度こそ、今度こそ家族を守るために。私はお頭にこの命、全てを捧げている。あの助けられ、泣いて母に許しを請う私を抱きしめてもらったあの時から。


胸に手を当て新たな決意をする私。だが私はそれを厳しい目で見つめるお頭に気が付かなかった。



「ま、とにかく戻ろうや。あいつら酒と金貯め込んでやがったし今日は宴会だ」


「はい!!お頭!!」


「お頭じゃねぇ親父と呼べ、父ちゃんでも可」



笑いながらお頭に頭を小突かれた。うぅちょっと力強いですよ。

思わずじんじんと響く頭を抱えながら私はお頭を睨む。

だが涙目で見る私をお頭は楽しそうに笑った。


















「ひゃっはー酒だ!!」


「おいおい、いいのかい?そんなにほいほい飲んじまって。俺はうわばみだろうが酔い倒してしまう酒飲み男なんだぜ?」


「いいぜ、お前が俺を酔い殺すというのなら、まずはその幻想をぶち壊してやんよ!!」


「こ、この酒乱め」


「酒乱で……いいぜ。酒飲みらしいやり方で話し聞かせてもらからよ」


「ご覧の通り、貴様が挑むのは山ほどの酒。酒池肉林の極地! 恐れずしてかかってこい!! 」


「せっかくだから、俺はこの赤の酒をえらぶぜ!!」


「約束しよう。おまえは生きたまま、少しずつ、高熱で熔かすように酔っていくと」


「イッペン飲ンデミル? 」



空には無数の星が煌めく夜空に皆が酔い、騒ぎ、唄う。中には脱ぎ出したりするお調子者もいるが酔いが一同体の底まで回っているのか止めずにそれを笑い、むしろ「もっとやれ」と手を子供のように叩いて喜ぶ。


いいねぇ、こんな星が綺麗な日は飲んで騒ぐに限る。


そう思いお頭と呼ばれる男は一人誰と飲むわけではなくちびりと器をあおる。

咽を刺激が通りすぎた後にぐわっと押し寄せる熱に男はなんともいえない甘美な熱さに身を任せて安らぐ。更にあおろうと口につければ空だということに彼は気が付いて酒をつごうと手を伸ばす。

何気なく辺りを見回した男だが、ふと誰もが酔い騒ぐ中に娘の姿が無いことに気が付く。酒のせいかと頭を振って再度視線を動かせどもその姿は無い。

男は首を傾げながら近くにいた部下の肩を叩いて振り向かせた。



「おい、美須々どこへ行ったか知ってる奴いるか?」


「ん?美須々ならさっき頭冷やすとかいって向こうに行きやしたぜ」



一人の部下が手を上げてそのまま美須々が消えていった方角へと指を差す。だが男はその方角へと行かずにその部下に歩み寄ると思いっきり頭をぶん殴る。あわれ男は「何故!?」と言わんばかりの顔で大地に側にあった酒の器を巻き込んで派手に倒れ伏した。


誰もが驚きの表情で男を見るとそこには一人の修羅がいた。



「人の娘を真名で呼ぶなどアホ」


「いや、美須々が呼んで良いってうわば!?」


「だから呼ぶなって言ってんだろうがぁ!!ひっく」



そう言って再度殴りつける。地面で目を回す部下を後目に男は千鳥足になりがらふらふらと美須々が消えていった方角へと歩き消えて行った。

部下達はそれを楽しげに笑い見つめていた。

男の姿が見えなくなった後、大きな笑い声を全員で発する。顔が真っ赤になっている彼らは口々に修羅になった父親を話の種に酒をあおる。



「ほんとお頭は美須々に執着してんなぁ」


「無くなった娘さん重ねてんじゃねぇか?まぁ美須々は良い奴だけれどよ。馬鹿だが」


「馬鹿ほどかわいいっていう奴じゃねぇか?まぁ美須々がいなけりゃこの中にはとっくに死んでる奴も少なくないだろ?」



一人の部下の言葉にほどよく酔いが回った男達は頬を赤くしながら頷く。

その様子から先ほど出た言葉に嘘が無く、一人や二人では済まされない数であることが分かる。彼らもまた美須々を信頼し、家族と認識していた。確かな絆が彼らの間で結ばれているのだ。



「あいつが来てから女攫ったことねぇよなぁ。なんか美須々がいると別にいらねぇんだよなぁ」


「美須々がいるから俺らはまだ人として踏み外してねぇんだよ。小さじ一杯ぐらい」


「違いねぇ」



夜の空に男達の笑い声が響く。だが一人の部下がぽつりと呟く。



「あいつにゃぁ賊は似合わん。しかるべきとこに送りだしゃぁ今頃いい身分についただろうに」



その言葉に一瞬で男達の酔いは冷める。しばらく沈黙が続き、絞り出したようにまた一人の男が声を漏らす。



「あいつは俺らに懐くっつうか依存してる。あいつは俺らがどうなるか心配なんだよ。こんな賊しか脳がない連中を心から気にかけてんだ」


「あほ、俺らだってあいつのこと心配で心配で気にかけまくってるだろ。こんなかに今日あいつが一人で敵に突っ込んでいってはらはらしなかった奴がいるかよ」


「それをしなかったら俺らじゃねぇよ。なんだ、お頭ばかり親面してと馬鹿にしてる俺らも親馬鹿じゃねぇか」


「こいつは痛いこと言いやがる!!」


「「「「「がははははははははははは」」」」」

















「ん?あいつら性懲りもなく美須々の名前呼んでやがるな。許せん。殺しちゃる」



男は何かを感じ取りそう言い放つ。別に声が聞こえたわけでもなく生物の感でそれを理解する男は確かに親馬鹿と言っても過言ではないかもしれない。

当初の目的を忘れて剣を抜いて戻ろうかと思った、が。


目当ての人物を見つけて思いとどまる。


そこには夜空を眺めながら長い髪を靡かせ佇む美須々。

どこか愁いを帯びた表情で空を眺めて口をきつく結んでいる。

それは彼女の美しさも相まって幻想的な空間をかもし出していた。


男はにやりと笑うとそろ~りと後ろから近づいていき頭に手を伸ばす。



「美須々なにいっちょまうおらばぁ!?」



だが美須々それを屈んで避けると両手地に着き低空の蹴りを鋭い速さで繰り出す。哀れ男はそれをしっかりと身に受けて昏倒する。



「ってお頭!?」


「……お、親父と呼べ。父ちゃんでも可だ。てかお前は殺す気か?」


「すいません!!お頭だと気が付かずに!!」


「なぁ、泣いて良い?お父ちゃん泣いて良い?」



転倒させられた痛みとは違う、心の痛みに男はさめざめと泣きながら立ち上がる。目をぐしぐしと大の男が擦る様はどうにもまぬけなものだが美須々はあえて見ないようにした。どうにも大の男がするのには嫌すぎる動作だ。



「つうかお前何こんな所で何黄昏れてんだ?中二病か?」


「よく分かりませんが馬鹿にされていることは分かります」


「いやぁよくわかんねぇけど今の言葉がぱっと頭に浮かんだんだわ」



美須々は脱力したようにその場に座り込む。男も笑いながら美須々の隣に「よっこらせ」と腰を下ろした。先ほどの明るい会話が嘘のように二人は黙り込み、ただ星を見つめる。



「っで?何悩んでたんだ?」



男が言った言葉に美須々はびくっと反応する。

美須々はどこか視線を泳がせて声の高低がおかしい。本人は隠しているつもりだが周りから見れば丸わかりだ。



「何のことですか?私は何も悩んでませんよ?」


「お前嘘付くと左眉が動く癖があるぞ?」



美須々は思わず手で左眉を確認する。それをにやぁっと男は笑いながら見ていることに気が付いた美須々。見事にはめられたと深いため息をついて頬を膨らませる。



「お頭には隠し事出来ませんね」


「だから……まぁいいか。言ってみろ?聞くだけ聞くぞ?」


「一緒に答えを探してくれるのではないのですね」


「あほ、それは俺達の答えであってお前の答えじゃない。そんなもんお前自身も望んでいねぇだろうが」


「……本当にお頭には勝てません」



美須々は視線を落としてそう呟いた。もっともその言葉はしんとした辺りにまる聞こえのために再び男は心の中で泣いたのは内緒だ。

男は内心でそれをやっとこさ押さえ込むと空を見ながら美須々が話し始めるのを待つ。美須々は馬鹿だが正直だ。きっとこいつなら自分からいいだすさと男は考えていたからだ。


だが美須々は一向に口を開く気配が無い。

それだけ今のこいつは闇を背負ってるのかと改めて実感する。拾ったばかりの頃、美須々は自ら死のうとばかりしていた。男は何度も死のうとするたびに頭を盛大にぶったたき、喧嘩し、抱きしめた。自分を親だと豪語する彼は決して間違っているものではない。親とは何も血の繋がりだけでは無い、もっとそれよりも強い繋がりで結ばれたものこそが家族なのだ。


美須々は内心男を親だと認めている。ただ、恥ずかしいだけ。


そんな美須々が何も言わない。ならば俺が口開けるわけ無いだろうと男は待った。

一刻、また一刻と過ぎていったように男は感じた。一体どれぐらいの時が経ったのだろうか。そういえば俺酔ってたと眠りそうになってきたその時。



「お頭は復讐をどう思います?」



そう美須々はどこか力のない声で言った。

男は閉じる意識を無理矢理開かせてゆっくりと答える。



「存在しねぇもんだな」



言うやいなや空を見ていた美須々はばっと頭を動かし男を厳しい目で見ると睨み付け、顔を歪ませる。それは怒っているようで泣いているようで。人間らしい、人間しか出来ないような表情。

男はそれを正面から受け止めて笑った。



「お前、誰か復讐したいやつがいんのか?」


「ええ、この国の帝です」


「それはまた」



「ひゅ~」と口笛を吹き出しそうな口の形に美須々は内心男を憎々しく思った。だが男はそれに気づいてかどうかは解らないがそんな視線をかわすようにごろんとその場に仰向けになり空を見る。



「やめとけ。お前の考えているようなことにはなんねぇよ。帝なんてな」


「……私には出来ないと?」


「無理だな」



男はいつのまにか美須々と同様に真剣な顔になっていた。だが美須々はその言葉に激昂し男の胸ぐらを掴むと強引に持ち上げる。歯を噛み締め射殺さんばかりの鋭い目で見つめる美須々を男は冷めた目で見つめる。



「確かにお前は強いぞ?でもお前以上に強い奴なんて帝のお膝元にはいくらでもいる」


「それでも!!成功する可能性は無くはない!!」


「かもなぁ……時の運なんざ気まぐれだ。だがな、美須々。よく聞け。てめぇの考えを辿って成功した男の言葉だ」



自重するように笑う男だが目は笑ってはいない。逆に険呑な光を秘めていく。



「変わらないぞ?」



その一言に美須々は固まり、動けなくなる。男の言葉に打たれたのではない。男の持つ気迫とその雰囲気に男以上の武を持つのにもかかわらず動けなくなった。



「変わらない。むしろ悪くなる。俺らみてぇなならず者は復讐なんて大それた事をやっても満たされることはねえ。むしろ逆だ、既に殺しているのに殺していないと思っちまう」



男は哀れむような目で美須々を見つめる。その目はかつて虚空を眺めて人としての一面を見せた母の目に似ていることを美須々は気が付く。痛い、胸が苦しい。

美須々は突如胸の内で荒れ狂い始めた感情に戸惑い、男を掴んでいた手を放す。

男はただ諭し続ける。



「要するに飢えちまうんだ。食い足りなくて食い足りなくて堪らなくなる。その結果が俺らだ。いつのまにか同じ立場だった連中すら食いつぶしてやがる、抑えらんなくなんだよ。お前はまだ戻れる、戻れんなら戻っとけ」



何を……何を……。


美須々は手に爪がくいこみ皮を破るほど強く、強く握りしめる。

辺りは風が吹き荒れ森の木の葉を荒らし、数多の獣が潜んでいるような錯覚を覚える。

どこまでも静かで、張り詰めている。そんな空間に二人は佇む。

一人は迷い、一人は迷い人を救うために。



「納得……出来るわけ無いじゃないですか」


「だろうな」



男はさもその答えを予想していたように言ったが、それによってますます美須々の眉はつり上がっていく。

もとより男は言っても彼女には理解出来ないだろうと分かっていた。実際に経験し、行き着くとこまで行った自分の過去の姿と美須々の姿はよく似ている。過去の自分に今のような問答をしても納得できるわけがないのだ。

目は濁り、何も見えなくなっている。


だが、彼にとって美須々は『娘』だ。それこそ目に入れても痛くないような男の娘。どこまでも愚直でまっすぐで、だからこそこの生き方をしないで欲しいと彼は心の底から思っている。

それをまた美須々も理解しているのだ。理解しているからこそ彼女はより一層苦しむ。かつて母親が自分に見せた顔と男の顔は美須々から見て変わらない。

そんな顔をしてほしくは無い。


だが、それで納得できるほど、受け入れられるほど自分は素直な人間ではないのだ。


黙り込んでその場に立つ美須々を男は先ほどとは打って変わった優しい声で労るようにゆっくりと、だが力強い声で彼女に語りかける。



「……それでも言う。虚しくなっからやめとけ。変わるもんはなく、あるとしたら己が醜く歪んじまうだけだ」


「っ!!」



美須々はその言葉を皮切りに男を睨み付けると走り去った。


男はそれを引き留めることはなく、ただ見送る。何を言っても無駄だ。結局は他人は他人でしかない。彼女自身でこれは例えどんな結末であれけりをつけるしかないのだから。

ただ一人、自分の最後の家族が去った場で男は一人呟く。



「美須々、その領域は……行ったら戻れねぇんだよ」



いつしか男の目には涙が浮かび、伝い、落ちていく。



「この世界はどうしようもなく理不尽だ。なんであいつがあんな顔しなくちゃいけねぇ。あいつはな、笑顔が似合うんだよ、まだ子供だ。まっすぐとした女の子なんだよ」



拳を握りしめ、男は天に向かって咆えた。



「その道を見んじゃねぇ!!来るんじゃねぇ!!知るんじゃねぇ!!渡るんじゃねぇ!!それ以上こっちに来るんじゃねぇよ!!歩みを進めるな!!聞くな!!寄るな!!解るな!!探るな!!お前の道はこんなすれたどうしようもない道じゃないだろう!?手に入れる価値などまるでねぇ!!変わりきってからしか気づけねぇんだよ後戻りなど出来ないって事はな!!」



夜が漢の大地を覆い隠す。まるで見てはいけない、のぞき見てはいけないと警告するが如く。獣に堕ちてしまった男は口を開く。掠れた力ない声がしんとした森に消えて行く。



「お前には俺のような抜け殻になっては欲しくねぇんだよ。お前はまだ、戻れるんだ」





























森の中、二人の男女が歩みを進める。

一人は長い髪を一つに結んだ女、艶がある髪はいまや汚れて痛み、凜としてぎらぎらと輝く瞳とは裏腹に体中は傷つき、汚れ、体に弓矢が二本突き刺さっている。

残りの一人の男は更に酷い。背中には槍で貫かれたであろう深い傷、大量の血が溢れて彼の服を真っ赤に染めている。もはや自分の力で歩くことも立つことも出来ないのか彼女に体を預け、引きずられる形で歩みを進めている。


男の顔色は悪く、死相が浮かんでいる。



「あ~駄目だね。これお父さん死ぬね。ちょっと血流しすぎたわ。あ。やべ~目が霞む」


「馬鹿な事言わないでくださいお頭!!殺しますよ!?」


「……まぁ言いたいことはいろいろあるが父ちゃんと呼べ」



男は笑うがその笑みは今にも消えそうに感じ、女は泣きそうな顔で、声で叫ぶ。



「治療できる所へ……医者の所へ!!」


「いや、無理だろ。どう考えてもこの姿じゃ治療なんざ受けられないし金は無いし。それ以前にここどこだかわからんし」


「そんな……事……言わないでください!!」


「それにしても今回の官軍マジだったなぁ。あれ軽く二百人はいたぞ?」



彼らは賊であった。人の命が弓矢一本で軽く失われ、ゴミのように骸がそこらかしこで晒されているこの世界で彼らの命は余りにも軽すぎる。彼らとていずれはこうなることは解っていた。碌な死に方をしないことも承知の上で彼らは賊になった。

だからこそ彼は今の自分を受け止めていた。


本当はこんな所を彷徨わずにあそこで仲間と共にあっさりと死ぬはずだったが優しくて馬鹿な娘のせいで生き残ってしまった。だがその命の灯火も今消えようとしている。



「ったくよ~俺を助けなければお前今頃無傷で逃げられただろうが。そんな有様になって俺背負って追われるとかお前やっぱり馬鹿だなぁ……美須々」


「自分の……自分の親を見捨てるものですか!!死なせません!!死なせません!!」


「……だから、父ちゃんって呼べっつうに。本当に素直じゃねぇなぁ」



男は例え死の淵にあったとしても笑っていた。


こんな馬鹿な自分にもったいないぐらいの娘を俺は得たんだ。馬鹿で意地っ張りで優しくてかわいくて。一度は全て失った俺達にくそったれた神様がほんの一つの詫びのつもりなのか出会った娘。倒れ、傷つきながら気を失い、親を求めた娘。


俺の部下はみんな死んじまった。酒が大好きでどうしようもなく臆病者で、人に戻れなかった馬鹿共はみんな死んじまった。

そして俺も今からそっちに行くだろう。







だがな、あいつらは俺を歓迎してもその隣に美須々がいたらあいつらから袋だたきにされちまう。というか例え俺だったとしても殴るね。もう泣いたってそいつを許さねぇ。もう一回殺してやっても良いぐらいだ。問題なのはその人間が俺だっつうことだな。だめだ、流石に自分を自分で殴るとか気持ち悪すぎる。


既に色を失いつつある目で男は自分を必死に引きずる娘を見る。


嫁にも出せば引っ張りだこ間違いない娘だ。でも出しません。娘さんをくださいとか行ってくる奴がいたらそいつぶっ殺す。それぐらい愛しくてかわいい娘だ。弓の雨の中に飛び込んでまで俺を助け、こんな有様になってまで自分を生かそうとする娘だ。

















こいつだけは、こいつだけは死なせねぇ。



「……おい」



男は聞こえるか聞こえないかぐらいの掠れた声で娘に呼びかける。



「喋らないでください!!本当に……本当に死んでしまいます!!」



だが男はそんな娘の声を無視して話し続ける。



「美須々、俺置いてけや。言っちゃなんだがもう助からねぇよ。このままだとお前も追っ手に殺されちまう」


「嫌です!!」


「いや、嫌ですってお前」



男は子供のような娘の言葉に思わず頬が引きつるのを感じた。



「もう、もう死んでほしくは無いのです!!これ以上家族を失いたくはないのです!!」


















「っぷ」


「何がおかしいのですか!?いや、話さなくて良いです!!直ぐにここを抜けますから静かにしていてください!!」


「いや、お前ってやっぱ馬鹿だわ」


「何を……」



馬鹿な事をと美須々は声に出そうとしたがそれ以上は声が出てこない。自分の体に異常を感じた美須々は体を動かそうとするもその意志に反して体が後ろへゆっくりと倒れて行く。

その原因が自分の父親であると理解した彼女は消えゆく意識の中で何を思ったか。



「……お父……さん……なん……で?」



そう絞り出すように声を出すと気絶した。

それを見届けた男はやっとこさ立ち上がった男は口からこぼれる血を拭い、まるで何事もなく眠りについた娘に語りかけるように。













「子のお前が思う以上にお父ちゃんはお前が大事なんだよ。もう死んでほしくねぇ、家族を失いたくねぇは俺の台詞だ馬鹿娘。てか最後の最後にやっとお父さんかぁ」



美須々の体を大樹の根元に隠す。自分とは違いこの怪我なら問題は無いだろう。

そう思って重い腰を上げた男の表情は幸福に溢れていて、今にも歌い出しそうな程上機嫌だった。



「死んでも悔いはないな。どれ、美須々。お父さん、ちょっと死んでくるわ」



































「……!?」



美須々が目を覚ますと辺りは暗くなっており、自分がどれほどの時を眠っていたのを示していた。自分が一瞬どのような状況に置かれていたのか忘れた彼女はその身を焼くような痛みに我を取り戻す。

苦痛に顔を歪めた彼女は今自分が一番守りたい人を思い出し、身を乗り出して辺りを見回すがその姿は無い。


彼女は体に刻まれた生々しい傷跡を顧みずに彼女は走り出す。


ただ、生きていて欲しいと。ただ、私の真名を再び呼んで欲しいと。あの皮肉ったような笑みを見せて欲しいと。


森を駆け抜ける彼女の目からは涙が溢れ、口からはひたすら自分の義理の父の名を呼ぶ声が漏れ続ける。



「お父さん……お父さん……お父さん!!」



どれぐらいの時を彼女は走り続けたのだろうか、夜の帳はますます下りていき、既に肉眼では先が見えない。星の光を頼りに彼女はひたすら走り続けた。

どこからか獰猛な獣の声が響く。


美須々はその声に立ち止まり惹き付けられるようにその声へと歩を進めた。


見えたのは毛皮の固まり。いや、違う。獰猛な夜の森の獣達が何かに群がっているのだ。……何に?


固まりから僅かに見えた服の切れ端。それは自分がよく知っている、知りすぎている。

美須々は自分の願いが踏みにじられ、無残に消え去った事を理解し、呆然と目を見開いてそれを見る。




「あ、あ、あああ」



彼女が踏み抜いた木の音で獣達が美須々に振り返る。その口は不気味なほど真っ赤な血で汚されていた。

彼らは新たに現れた獲物に警戒し、うなり声を上げる。



「あああああああああああああああ!!!!!」



美須々はその手に握りしめた血が乾ききったもはや切れ味が無い己の得物を砕けんばかりに握りしめて叫び、獣のように獣達へと襲いかかった。
































獣は首がない死体を抱きしめる。

獣は首がないのは人の手によってなされたからだと理解する。

獣はかつて笑いかけてくれた顔が無い死体を抱きしめ夜の森で叫ぶ。

獣は自らの殺意に身を任せようとするがそれは許されないと理解し呆然と朝日が昇るまで佇む。

獣はその死体を呆然と『無』の表情で埋めてその場を走り去る。

獣はただ走る。

獣はそれしかできない。

獣は心に何も残ってはいない。

獣はただ貪ることしかできない獣になった。

獣は何日も何日も何も食さず、飲まずに駆け抜けた。



自分はなにも出来ない。あの人達は私が一番したいことを許さない。きっと最後の最後までそれを望んでいた。私は何をすればいい?私はどうすればいい?死ねない、かといって生きる事は出来ない。私は何を……何を求めたらいいの。どうすればいいの?教えて、誰か教えて……。








































「あ~っどこかに孔明とか落ちてたりしないもんですかね……いくらなんでもこれ無理ゲーです」




彼女は出会った。



頭に黄巾を巻き付けた、一人の男に。



英雄達と戦い、後の世の人々に語られることも、知られることもなくただ英雄だけが知り、語ることができる男に。



(◕‿‿◕)<僕と契約して黄巾党になろうよ!!



一回間違って0時以外に投降したので再投稿。ついでに字間違いを修正して再投稿。でも結局いろいろおかしいし間違っている再投稿。


というより投稿して直ぐ消したはずなのにだいたい三十人ぐらい見ている形跡が……こいつら忍者だ、絶対忍者だ。



というわけでまさかの三話構成。

多分誰もが次で終わりだろ?ぜってぇ次の次は董卓連合編だなと思っただろう。


董卓連合編だなと思った?残念、美須々ちゃんでした!!


大丈夫です、次で終わります。というかなんか最近文章が長くなる傾向にある。この回はうっかり消してしまって泣く泣く書き直したのですがなんだろう?一万超えるとか最近デフォになりつつある。そしてシリアス増し増し。


でも大丈夫!!本編に戻ったらはっちゃけるから!!シリアスなんてどっかに置いてきてるから!!(おい



そう言えばfate/zeroが十月ぐらいから始まりますね。もうね、テンション上がるね。

何故かこういう書き方したら波才さん聖杯戦争に参加するとかの前振りみたいに思われるけどそれは無い。作者の脳みそじゃfateの設定は扱いきれないですからね。


……それ以前にそもそも文章を扱いきれてないことに私は気が付いたんだが。どうしよう、全然作筆能力が最底辺から上がらないorz



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