第十五話 ヒメキリラジカル
人生を喜びなさい。なぜなら、人生は、愛し、働き、遊び、星を見つめるチャンスを与えてくれたのだから。
~ヘンリー・ファン・ダイク~
「Fac me tecum pie flere」
歩き、歌う私に聞こえるのはかつての同胞の絶命の叫び。
「crucifixo condolere」
血が舞い、赤いヘモグロビンが漢の大地を染める。
「donec ego vixero」
兵達の怒号と叫びがこだまするこの戦場を眺めつつ私は歩く。
「Juxta crucem tecum stare」
炎が、火が人を妖しく狂わせる魅力を放ち、戦場を謳歌する。
「et me tibi sociare」
人が焼ける臭い。余りにもそれは牛や豚のように食欲をそそるものではない。
「in planctu desidero」
ふと目に着いた旗を見るとそこにはいつぞや自分が演説した例の言葉が書かれている。
「Fac me plagis vulnerari」
それはかつての夢の残照。その夢は私の夢でもあり、ここに集った彼らの夢でもあった。
「cruce fac inebriari」
空を舞う火の粉がその旗に火を付けた。ゆっくりと、ゆっくりと灰になっていく。
「Et cruore Filii」
それを私は唄いつつ見つめる。この感情は何だろう?後悔?怒り?悲しみ?喜び?
「Sit laus deo patri,summo christo decus」
そしてやけに人の焼ける臭いが濃いと思いなと見回す、一人の人間が燃えていた。
「spiritui sancto」
見れば生焼けでうっすらと顔が解る。まだ若い。苦悶の表情を浮かべたまま、光のない目は空を見つめている。
私も空を見上げる。
「tribus honor unus, Amen」
どこまでも、どこまでも広がり、星が輝いている。
その美しさに思わず唄うことを忘れ、感嘆の声が溢れる。
本当に綺麗だ。
この空はおそらく現代では見ることが出来ないであろうこの時代の宝だ。
空に手を伸ばす。決して届きはしない星を求め、私の手は宙を彷徨う。
自然と笑みがこぼれる。
これほどの星が空に煌めいて人を魅せる。私は魅せられているのだ、億千万の星空に。
この時代の人間達は宇宙を知らない。ただ、この星空に思いを寄せ、夢を見ていたのだろう。
太古よりこの地球を見守り続け、人を魅せ続けた星空。
もし魔法という定義が世界にあるのならこの星空ほど偉大な魔法はないだろう。
綺麗だ。
本当に綺麗だ。
綺麗だから
「戦う必要ないんじゃないですかね、獰猛な殺気が漏れてますよ?」
「貴方戦場を唄いながら歩くだなんて何を考えているの?」
呆れるような声が聞こえたので振り向くとそこには褐色の美女がいた。
つり目で赤く露出が多い服を纏い、桃色の髪は一つに束ねられている。
手に持つ剣は人を既に何人か切っているのか赤く染まり、だがその輝きは衰えておらず闇夜に鋭い光を放っている。
さぞや名のある名剣だろう。
それに見合うだけの実力も今の立ち姿から感じられる。
そんな彼女の問いに私は眉間に皺を寄せて考える。
考えるのだが・・・うん。
「何を考えているのでしょう?」
「いや、私が尋ねているんだけど」
「そう言われましても困るんですが」
「それ私が言うべき言葉だと思うんだけど・・・」
「え・・・ずるいです」
「ずるいですって・・・貴方ねぇ」
頬を引きつらせ、呆れたような声を私に浴びせてくる。
それでも先ほどから私に向けられている虎のような殺気には微塵も陰りがない。
流石というべきか、さぞや名のある武人なのだろう。
それもこの時代で褐色で赤い服を着ている人間などかなり絞られる。
それにあの剣、よくよく見れば・・・。
ふむ、孫呉の姫君か。
それであの宝剣を持つ資格がある当代ということはあれだ。
私は首を傾げながら尋ねる。
「それで、『孫呉の小覇王』孫策様が何の用でしょうか?生憎お茶の準備はしていないのですが」
「あら?私の事知ってるんだ。でもその小覇王って初めて聞いたけれど」
「おお、記念すべき一号ですね。今晩は赤飯炊きましょう」
「ちょうど火ならそこらかしこにあるもんね~・・・それで」
殺気が濃くなる。
遊びは終わりってことみたいです。
もう少しこのような言葉遊びを楽しみたかったんですけど・・・仕方ないですね。
それにしても英雄はみんな生き急いでいるなぁ。特に孫家は彼女のように前線に出張る癖がある。先代孫堅もそうだった。少し彼女のことが心配になる。
疲れないのだろうか?若い頃からあんな足の出し方したらリウマチにならないだろうか?前掛け持ってきてあげるべきだろうか?
そんなどうでもいいことを考えている私をよそにますます殺気が濃くなるのを感じる。
肌がぴりぴりしますね。おお、怖い怖い。
「頭にそれ巻いてるけれど」
それとは黄巾だ。
あ、まだ被ってたんだ。
取るの忘れてた。
「黄巾党で間違いないわよね?」
「ええ、そうでしたよ」
「そう、なら死になさい」
気が付けば振り抜かれ突き出される孫家の宝剣。
何人の血をこの戦いで吸ったのかは知れないけれどまだまだ吸い足りないらしい。
孫策さん自身の目も爛々と輝いてかつて殺し合った漢の将軍を思い出させる。
あの戦いと違うのは私がそれを平坦な目で平然と見ていることだろうか?
私を殺さんと迫る剣に一切の迷いはなく的確に人体の急所である首に向けられている。
よっぽど人を殺し慣れているのだろう。
速い。
並の将や兵なら何故死んだのかも解らずに逝ってしまうだろう。
殺すことに慣れ、幾多の戦場を駆け巡った彼女の生き様が愚直なまでに現れている。
というか現れすぎてあれだ、対処できる。
突き出される剣を受け流し、側面を手の甲で叩きはじく。
折るつもりだったのだがその剣は折れない。
よほどの名剣なのだろうなぁ。
驚き目を見開く孫策へそのまま掌底を素早く彼女の腹に繰り出す。
「グハッ!!」
孫策はその掌底をもろに受け吹き飛んだ。
多分油断してたんだろうなぁ。
そうじゃないとこうはいかないだろう。
孫策さんとは反対に全く殺気を出していなかったし、彼女が先手を切って剣を振るっても動かなかったし。
この時代の武将ってみんな孫策さんみたいに先手を行きたがる。
そりゃまぁ攻めなくちゃ死ぬからしょうがないのだけれど、合気などの『後』の技には見覚えがないのだろうか。
それとも自分が少しこの世界で武人としての格が上がったのだろうか。
どっちにしろ油断大敵。
その首に剣を突き立て敵の命が尽きるのを見るまで彼女は油断をすべきでは・・・まぁこんな所で説教たれるのもなんだしべつに良いか。
説教とか疲れるから。するほうもされるほうも。
そう思い苦しげに肩で呼吸をする孫策に歩み寄る。
普通なら吹き飛ばされて終わりだろうけれどこの世界にはおかしな力があるから孫策さんはああなっている。
それは氣と呼ばれるもの、気功ともいう。
存在を知ったときにはどこの格闘漫画だろうと思ったがよくよく考えれば武術にもそれと思わしきものも多いし、この世界ではより一層氣という概念が強いのかもしれない。
まぁともかくそれを私は村のある傷だらけの少女から学んだのだ。
彼女はリアル○動拳を平然と打っていた。
それを見た瞬間土下座して教えて欲しいと頼み込んだ。
あの子供のころ一度は夢見たであろう、○めはめ波か波○拳を出来るチャンスなのだ。
私はどちらかといえばソニック○ーム派だった。待ちガイル使いだったからな。近所の大会でガイルが禁止されたときは初めてマジ泣きしたのを覚えている。
それで習ったがどうやら凡人たる私には使えないようだった。
二十歳になって初めて二度目のマジ泣きした。
主人公補正だと思ったのが現実補正だったショックに涙が溢れた。まったく波動拳の性能を持ち合わせていないようなのだ。ならば、ならばせめてソニック○ームだけでもと思ったがそれすらも出来なかった。
私の春は終わりを告げた。同時に夢も終わりを告げた。
だが、私は『内気功』については目を見張るものがあったようだ。
テレビで武道家がバットで打たれてもバットが折れたり、瓦割りをしていたりする姿を見たことはあるだろうか。
長年体を磨き上げ、一種の呼吸法などにより気功によって体を強化しているからこそ出来る芸当だ。
この世界だとそれが化け物級になる。
身体の限界と実力を底上げし、体の内に作用させる。
それが『内気功』だ。
『外気功』?
あれはさっき言った通り波動拳みたいなものと思ってくれれば結構。どうせ身につかないのだったらどうでもいい。
才能があるやつが身につけて「波動拳!!」とか言っていればいいんだ。
才能がない私は地味に『内気功』で生きていくよ。
ちくしょう。
まぁともかくそれにより底上げした岩を貫く鋭さに全身全霊をただ一点のみに絞った弓のような一撃。
さらにお得感を出したいがために自分の内気功を手に集中させ、逆に相手の体内の気功を乱すという事に成功。
さも俺TUREEEEみたいな感じで言ってるように聞こえるかも知れないが、恐ろしいことに割とこのぐらいはこの世界常識の範囲内だったりするのだ。
というか聞けば10才ぐらいの女の子が自分の何倍もの大きさの鉄球を扱って黄巾党をぶっ飛ばしていたらしいが、そんな人間がいる世界でこんな小細工してやっとのこさやってる事考えるとちょっとへこんでくる。
いろいろと落ち込んでいるうちに気が付けば私は孫策さんを見下ろしていた。
とりあえず、首でも貰っておくかと剣を抜く。
そんな私を孫策さんは憎々しげに眺める。だがその目は穏やかなものに変わり、閉じられた。
私はその意味が理解出来ず、ただ彼女を見つめる。
やがて孫策はただ一言、言葉少なく言った。
「・・・私の負けよ。殺しなさい」
私はその言葉を深く噛み締め、感嘆の吐息を漏らした。自分の目が子供のように輝いているのを感じる。
・・・格好いい。
朱儁もそうだが死を前にしていったいどれほどの人間が彼女のようにそれを認められるのだろうか。
今、自分の死を受け止め、生を受け止め、全てを受け入れる。これがこの時代の英雄、孫策なのだろうか。だとしたら私は彼女に魅せられている。
この輝きがあるからこそ人の物語は紡がれ、語られていくんだろうなぁ。
そう思いこの英雄を見つめる。
なんと、なんと美しいのか。
というか私は首を貰ってどうしたいのだろう?
ここに来て私はその事に気が付いた。とんだうっかりさんだ。
お土産に持って帰るにしても物騒すぎるし、腐るし、そもそも持って行くところないし。
黄巾党は絶賛崩壊中だし、天和様にこれプレゼントって送ったら卒倒しかねない。
黄巾党の首級みたいに首を洛陽に送って賞金もらえないし・・・むしろ贈っちゃったら血眼で私を殺しに来るだろうし。
それ以前にここで殺したら何やら嫌な予感がする。それに面白くないのだ。私は英雄が紡ぐ物語が見たいのであって終わらせたいわけではないのだから。
・・・どうしよう。
失礼かも知れないけれどいらない。
まさか信長みたいに髑髏酒するつもりも毛頭無いのだ。
ため息をついて剣を引く。
「・・・殺しませんよ」
私の声に殺気がないのを感じたのか顔をしかめる。
「すでに張角様、その弟達も死にました。貴方の首をもらう意味がありません」
そう言って私は剣を納める。
それでも納得がいかないのか孫策は更に問う。
「・・・復讐とかは考えないのかしら」
「これは必然だったのかもしれません」
そう言って私は頭に巻いた黄巾を取り、空へ放り投げた。
もうこんな物私にはいらないですからね。
「時代は変わります、張角様はその為の礎になる天命であった。彼ら自身もそれは解っていたのかもしれません」
黄巾を目で追い続ける。あれにどれだけの意味があったのだろう?少なくとも今の自分には必要が無い。既にあの黄巾は私が身につけているからだ。
「なんの為に私がここにいるのか、日本にいたのか、全ては解りません。でも一つだけ解ったことがあります。張角様は死ぬ、これはもはやどうしようもないみたいです。ほんとくそったれた天命ですよ。正直ぶっ飛ばしたくなります」
そう言って自嘲気味に笑う。本当におかしな世界だ、だからこそ面白く、楽しい。
「・・・」
孫策は黙って私の言葉に耳を傾けている。
「それでも、自分が守りたかった者は守れました。私の心残りがおかげさまで無くなりましたよ。張角様の命と引き替えにね。その分は自分のくそったれた天命にも感謝しても良いかもしれませんね」
黄巾が近くで燃えていた火の上に落ち、燃える。
「黄巾党の波才はここで死にました。前と同じでね」
巻き続けた黄巾。
この世界に降り立ちつけ続けていた黄巾が今、燃え尽きた。でもそれは無くなったわけではない、私が私で在る限りあの黄巾は私の下にあるのだから。
「これからは一人の人間、一人の波才として生きていきましょう」
今の自分はさぞや爽快な顔で笑っているだろう。よくわからないがすごく今の自分は良い気持ちだ。こうやってもう一人英雄見られたしね。
この一人の英雄。孫策の物語、こんな時代の贄と共に滅びるのはあまりにも惜しい。
孫策の顔は驚きと戸惑い。口を開けて唖然としていた。
「時代の英雄よ、私達が成し遂げられぬ時代の足音を聞き、進め。これからは貴方のような英雄の時代なのだから」
そして私を楽しませて欲しい、貴方の物語はとても面白そうだ。
そう言って私は歩き出す。
ふと、空を見る。
私はここにいる。ここで生きている。
それにしてもいい気分だ。自分というちっぽけな存在を見つめ直して構築してみればなんと無駄のない清んだ美酒になることか。
世俗に囚われ汚濁を啜っていた過去の自分にこの至上の美酒を飲ませていれば・・・いや、過去に汚濁を啜っていたからこそこの美酒は生まれたのか。
更に浮かぶ月のなんと美しきこと。この美しさに気が付かず地ばかりを見つめ、今を見て先を見ない己のなんと愚かなことか。だがだからこそ物語を愛し、今ここでこの月を見上げることが出来る。
今ここで我が宿星を見つけることはない。出来などしない。だがこの広大な天に必ずや輝いているであろう私の宿星を想像するだけで不思議と心が躍る。
確かに黄天は堕ちよう、だが我が宿星は未だにこの天から堕ちていませんよ?
いえ、果たして黄天は堕ちているのですかな?
私は不敵な笑みを浮かべると天に唾吐き歩き出す。
「おお、黄天の堕ちる時よ。なんと心地よい時か」
~孫策 side~
私は張角を探して先行し、単独で探していた。
ほとんどの黄巾兵は逃げ惑い、たまに斬りかかってくる者もいたがそれらを全て私は走り抜ける。
「(張角はどこにいるのかしら・・・)」
私は砦の中心にいる。手に入れた地図ではこの辺りにおそらく張角の陣幕がしかれるはずだ。私達は今、袁術軍にいいように使われているがそのままで終わる気はさらさら無い。独立するためにもここで武功を轟かし、有用な人材を孫呉に取り込まなければならないのだ。
既に戦功第一は私達の火計により得られたけれど、それだけではまだ足りない。首級である張角の首を手に入れなければ。
ふと、立ち止まる。
今、何か聞こえなかったか?
耳を澄ませる。
「Dying to survive(生き延びるためにあがく)」
歌だ。
この戦場に不釣り合いなほどその歌はゆっくりと流れ、私の耳に潤いを与える。だがその歌を聴けば聴くほど不思議なことに切ない気持ちになってくる。聞き慣れない言葉で歌われる歌に私の意識は研ぎ澄まされた。
いったい誰が?
もちろん張角の首は最重要事項。だが私はこの歌を歌う人間がどうしても気になって仕方がないのだ。歌の流れを追うように私はゆっくりと、火に惹き付けられる蛾の如く静かな足取りで砦を進む。
見つけた。
どんな人間かと思えば普通のどこにでもいるような、だが何か分からない不思議な男。そして頭に黄巾を巻いている。つまり、私の敵。
空に何やら手を彷徨わせているが何をしているのだろうか。計りかねて伺いつつ隠れて様子を見る私に男は声をかけてきた。
驚いた。
ここまで気を隠している私を見つけられるなんて。
警戒しつつ私は黄巾の男と話す。だが何故だろう?この男、何かおかしい。まるで雲を掴むかのような錯覚を覚えさせられる。
いけない、取り込まれる。
そう思った私は男との話を強引に切り捨てる。この男はおかしい、話している内にどんどんこの男のことが知りたくなる、もっと話していたくなる。
「頭にそれ巻いてるけれど」
だけど時間は無い。
今はこの男が黄巾党かそうではないか。私は不思議とこの男が黄巾党だと思えなかった。まるで幼い頃から知り合いで、他愛もない話を今もしていると錯覚させられるのだ。
だからこそこの男は異常だ。
話すだけで親しみが、興味が沸いてくる。場違いだと分かっているのにもっと話していたくなる。
私の人間としての感情を殺し、内に潜む獣を引きずり出す。
熱い、熱い、熱い。燃えるような熱さが私を蝕み、意識が研ぎ澄まされていくのを感じる。
もう迷わない。殺せる。
「黄巾党で間違いないわよね?」
「ええ、そうでしたよ」
「そう、なら死になさい」
私は剣を抜き、その首目掛け突き出す。男は動かずにそれを眺めている。
既に剣は人が避けられない位置にまで到達、死に神の鎌は確実にこの男の首に手をかけている。
殺した、そう思い勝利を確信した私の心は次の瞬間打ち砕かれる。
男はまるで柳のように剣をかわした。
かわした?あの距離の剣を?
私はその一瞬、驚きによって致命的な隙が生まれた。それは隙と呼ぶには余りに短く、あって無いような物だがこの男には十分だろう。
剣の側面を弾かれ、私の剣が宙を舞う。衝撃により剣を持っていた手が宙に躍り、それに流されて体が崩されるのを私は感じた。
腹部に何かが当たったと思った瞬間それは爆発し私を吹き飛ばした。
体が大地を転がる。手をつきなんとか押しとどめたが体が思うように動かない。まるで自分ではない何者かの体に入ったような違和感、体がいうことを聞かないのだ。
息が・・・息が出来ない。必死に何度も息を吸い込む。やっと呼吸が呼吸らしくなってきたとき金属が擦る音が聞こえた。
顔を上げれば目の前にはあの男が剣を抜き、私を見下ろしている。
私は負けた。
この時初めてそれを実感できたような気がした。
「・・・私の負けよ。殺しなさい」
まさかここで死ぬとはね。ごめんなさい冥琳。どうやら先に私は逝くみたい。
蓮華を・・・頼んだわよ。
そう思い覚悟を決めた。
だがいくら待ってもその時が訪れない。
不思議に思い、閉じた目を開こうとした、その時。
「・・・殺しませんよ」
そう黄巾の男は言った。
始めは虚言かと思ったがその声に殺気がないことに私は気付いた。
そうか、この男は私の名前を知っていた。ここで私を捕まえて人質などの利用価値を見いだしたのか?
ならば舌を噛み切ろうかと思い、改めて男の顔を見ると
その顔はとてもこの戦場には場違いなほどに穏やかな顔があった。
「すでに張角様、その弟達も死にました。貴方の首をもらう意味がありません」
この者の主である張角とその弟たちは死んだ?だとしても何故このような穏やかな顔なのか理解できない。私は母さんが殺されたときにはこんな顔をしてはいられなかった。復讐に身も心も委ねようとしていた。
なぜだろう?そう思ったときには私の口は声を発していた。。
「・・・復讐とかは考えないのかしら」
「これは必然だったのかもしれません」
必然?彼の主が死ぬことが?
そう考えていると男は頭に巻いていた黄巾を上に放り投げた。
「時代は変わります、張角様はその為の礎になる天命であった。彼ら自身もそれは解っていたのかもしれません」
解っていた?張角が自分たちが負けることを?
「なんの為に私がここにいるのか、日本にいたのか、全ては解りません。でも一つだけ解ったことがあります。張角様は死ぬ、これはもはやどうしようもないみたいです。ほんとくそったれた天命ですよ。正直ぶっ飛ばしたくなります」
そう言って男は自嘲気味に笑う。
言っていることが解らない。だが嘘を言っているようにはどうしても思えなかった。
ならばこの男が言っていることは・・・全て真のこと?
「それでも、自分が守りたかった者は守れました。私の心残りがおかげさまで無くなりましたよ。張角様の命と引き替えにね。その分は自分のくそったれた天命にも感謝しても良いかもしれませんね」
そう言っている彼の顔はとても楽しそうで今にも笑い出しそうだった。
守りたい者は守れた?
この男は張角こそが守るべき者だったのでは?
それを守れなかったのに感謝する?
張角は生きているのか・・・いや、この男の言葉に嘘はない。
ならばなぜ・・・?
「黄巾党の波才はここで死にました。前と同じでね」
思わず目を見開き、正面の男をまじまじと見つめてしまう。
波才・・・波才!?
この男があの黄巾の将の波才!?
「これからは一人の人間、一人の波才として生きていきましょう」
そう言って波才は笑った。
私はその姿にみとれてしまった。それほど笑う波才の姿は美しかった。全てを無くし、全てを獲たようなその笑う威風堂々とした姿は私が今まで見た何ものよりも美しかった。ただ、この美しさを『美しい』と言う形でしか表せない自分が嫌になる。
その波才が私に言う。
「時代の英雄よ、私達が成し遂げられぬ時代の足音を聞き、進め。これからは貴方のような英雄の時代なのだから」
英雄ね・・・。
波才は自分が時代を作ると言っている。まるでこの大陸の未来を語るように。波才とは何ものだろうか。全てを見通すがごとく語り、高い実力を持ち、勇名をこの大陸に轟かす。
それはまるで天の者みたいな・・・天の者?
まさか波才は!!
そう思い声をかけようとするがするがその姿は既にはるか遠くにあった。
「おお、黄天の堕ちる時よ。なんと心地よい時か」
動けない私の目に遠ざかる波才の背が煙の中へ徐々に消えていき、やがて見えなくなる。
私のかんが告げている。
この男は天に通じていると。
だからだろうか、波才は魅力に溢れている。
人を惹き付けてやまない狂気のような魅力。
「へぇ~面白いじゃない」
私は笑った。
あのような男がこの乱世にいるのだ。
また会う日もあるだろう。
それにしても彼を孫呉に招いたらどうだろうか。
あの頭の固い妹にあのような飄々とした男をあてがったらさぞや面白いことになるかもしれない。
天の人間であろうと無かろうとあそこまでの不思議な魅力を放つ男だ。少なくとも招いて損は無い。実力も十分、武勇も十分。漢王朝も死に体だし、張角が死んでいるなら問題は無い。幸い悪名もたっておらず武名だけが聞こえている。
それになにより、これが一番重要だが。
私は波才を気に入った。
「ふふ、決~めた!!」
決めた!!波才を貰っちゃお♪
これにて長かった黄巾党編は終了です。
初めてのことばかりで大変でした。みなさんにこんな駄文にお付き合いいただき光栄の極みです。
というか本当は黄巾党編はあっさり終わるはずだったんです。官軍との戦いもなかったし、明埜の話も琉生との話も無かったし、それでは流石に読んでくれてる人に失礼だなぁと思って慌てて付け足したのを覚えています。
付け足したのも駄文だったわけですがorz
そしてさっそくですがまたパソコン修理です……全く修理を要求した所直ってませんorz
小説書く以前にこのままでは私生活にも問題あります。
なのでだいぶ時間は空くかもしれませんが地震の時みたいに必ず戻ってくるのでどうぞよろしくお願いします。
さて今回の武将紹介は作者も大好きなあの人です。
リクエストで来たときはマジ天命とか思って喜びました(おい
□□□□□□□□□
「それで、劉備に馬を盗まれた訳ね」
「……」(コクリ)
頷いた少女は赤き髪、服はカジュアルであり露出が大きく物静かな空気を纏っている。彼女の名は呂布。天下無双の武人なり。
「で、私に劉備にお仕置きしてこいってわけね?」
「……大丈夫?」
対する先ほどからその呂布に物怖じせずに女性。呂布とは対照的にまさに武人と言える姿をしている。銀色の輝きを放つ白銀の鎧を身に纏い、短めに切られた茶色のカールストレートは戦いやすさを追求した彼女なりの戦闘スタイルだ。
武具には一切の装飾はなく華はないが、かえってそれが上品に感じる面持ちであった。
彼女は心配する呂布に笑いかける。
「貴方は私の君主様、自信を持って言えばいい。ただ一言ね」
彼女の名は高順、字は語られてはいない。
愚直なまでに武追求し、彼女の隊は落とせぬ陣はない。故に彼女と彼女の部隊は『陥陣営』と呼ばれ、恐れられていた。
呂布はそんな彼女の覚悟を感じ取り、彼女がただ望むままに命令する。
「劉備……邪魔」
「了解、我が主君にあの愚か者の首を捧げましょう」
「っく!!慌てるな!!落ち着くのだ!!」
戦場で兵を鼓舞する関羽。だが、兵達は混乱し、ただ敵に討たれていく。まるで劉備軍が戦を知らぬ子供であるかのように『高』の旗が戦場に踊り、劉備軍を蹂躙していく。
「愛紗!!もうだめなのだ!!直ぐそこまで敵が押し寄せて来るのだ!!」
「っく!!」
関羽は歯を砕けんばかりに噛み締める。その時。
「愛紗!!」
妹の声と背後からの殺気を感じ取り関羽はとっさにしゃがむ、すると関羽の首があった位置を一振りの剣が通り過ぎた。反撃を試みようとする関羽を高順が蹴り飛ばし、蛇矛を振るおうと近ずく張飛へと剣を突きつけ言い放つ。
その声は余りにも冷たく、地獄から湧き出てきたような激しい怒り。
関羽と張飛は本能的に身を震わせる。
「我が主の馬を盗んだのだ、さっさと死ね」
逃がしたか、追い詰めたもののあと少しの所で関羽と張飛に逃げられた。高順は追撃するべく兵に指示を飛ばそうとした。だがここで一人の兵が駆け寄り報告する。
「こちらに向かう軍を発見!!旗の字は『夏』、おそらく曹操より劉備への援軍かと」
「そう、ならば迎え撃つわよ」
さも当然とばかりに言う高順。だが兵達はその言葉に誰一人同様はせず、反論などしない。彼らにとって「たかが」曹操軍だ。その程度に勝てずして『陥陣営』など名乗れない。否、名乗ることを許されない。
「盲侯惇如きが我らを止めれると?」
「貴様!!」
自らの容姿を馬鹿にされ、怒り剣を振るう夏侯惇を冷めた目で見つめる。愚かだ、一騎打ちに興じて軍全体を見てはいない。徐々に夏侯惇軍は囲まれていく。その事に夏侯惇は頭に血が上っているために気が付かない。
「!?」
あ、気が付いたの?不適に笑う高順を夏侯惇は憎々しげに見つめる。馬を翻し夏侯惇軍はやっとの事で彼女の軍を突破し退却。それを追撃しようとする配下達を制止させる。
「あんなお馬鹿さんのことは放っておきなさい」
高順は劉備が立てこもる沛城の方角を見ると不敵に笑い、三度目の戦いのために軍を走らせる。
この数時間後、沛城は落ち劉備は逃げ出す。さらに劉備家族を捕らえた高順だったが一人、つまらなそうにため息をつく。その姿を見て配下の兵は「何故これだけの戦果を上げながらそのような顔をなさるのです?」と聞くと彼女はもう一度ため息をつき、ぽつりと悲しそうに言った。
「だって劉備の首とれなかったじゃない」
<高順、字は不明>
最初はおそらく呂布と同じで丁原に仕えていたのであろう。
高順の人となりは清廉で威厳があり、酒を嗜まず、贈り物も受け取らなかった。七百人余りの兵を率いて千人だと号し、武器装甲の類はみな高性能でよく管理されており、攻撃をかければ打ち破れないことはなく、「陥陣営」と称されていた
高順は決して忠義は認められながらも呂布に重用されることはなかった。
呂布は平時には高順に兵を与えず、縁戚にあたる魏続に高順の兵を没収し与え、戦が起きた際には高順に魏続の兵を率いさせ戦わせていた。しかし高順は呂布のこの行いに死ぬまで恨みを持たなかったと言われている。
198年、劉備に馬を奪われた事に怒った呂布は、高順・張遼に命じて劉備を攻撃させた。当時、劉備と同盟関係にあった曹操が夏侯惇を劉備の救援に向かわせたが、高順がこれを撃破し、沛城を陥落させ劉備を敗走させた。沛城には劉備の妻子が残っていたため、高順はこれを捕え呂布へ送ったとされる。
高順は呂布軍の軍師である陳宮と仲がたいそう悪かった。だが私情を戦いに持ち込む事は終生無かった。
あるとき呂布は出陣して曹操の糧道を断とうとしたが呂布の妻である厳氏が「陳宮と高順は普段より仲が悪く、あなたが城にいなくなってしまえばきっと軍は分裂してしまうでしょう。」と呂布に進言、これにより呂布は陳宮と高順を信用しきれず出陣しなかった。これが呂布の運命を決めたとされる。
彼が曹操に呂布と共に捕まり、引きずり出された際に一言も弁明しなかったため呂布・陳宮と共もに曹操に斬首された。
( ゜∀゜)o彡°陥陣営!!
( ゜∀゜)o彡°陥陣営!!
( ゜∀゜)o彡°陥陣営!!
忠義があり厳粛な武将で作者も大好き高順さん!!
最後も男らしく散るという……私、高順さんになら尻差しだしてもいいや(おい
恋姫化するならやっぱり厳粛な武人で、私生活でも華のないような人物に作者は書きます。
でもお酒を飲まない理由はもの凄く弱いからってオチをつけますね。酔ったら夏侯惇みたいになるとかマジ私得です。
ちなみに高順は他にも三国志の人物が女体化している「DRAGON SISTER! -三國志 百花繚乱」の作品にて女体化に成功。他にも李儒や徐栄も女体化しているという……これなんて俺得?