第十四話 恋姫物語
歴史家はただ事物の経過を書き留め、評価せねばならないだけであり、みずから事物の決定に参与してはいけない。
~マイネッケ~
天和様には少し眠ってもらいました。
あの目は絶対に引かない、そう言う目でしたからね。
でも、女の子に手をあげてしまいましたね。
うん、死ね。自分。
でも死ぬ前にやるべきことをしましょう。
・・・なんかどこかで見たことがある気がしますがなんだろう?
なんか仲間もろとも死ぬ気がするのは何故?
デジャなんとかってやつですかね。
まぁいいでしょう。
確かフラグは立たせなかったはずです。
・・・立ってないよね?
「一号さん」
「あ、はい!!」
「天和様をお願いします。地和様、人和様も」
そう言って二人を見ます。
その目は納得しきれてはいない目でしたが、それでも私の決心が変わらないのを理解したのか悲しげに目を伏せた。
「波才さんに残って欲しくないと考えてるのは天和姉さんだけじゃないことは解って・・・だから生きて帰って来て欲しい」
「私も!!帰ってこなかったら・・・絶対に、絶対に許さないんだから」
ほんと、自分は馬鹿ですねぇ。
彼女たちにそんな顔をさせるなんて男として失格ですよ。
「ええ、また会う時を楽しみにしてます・・・。それと太平妖術の書を私に渡してはくれませんか?」
あれは存在してはいけない。
太平妖術の影響で此度の乱が起こったとも考えられる。
例え起こるべきだったとしてもあの書は危険すぎる。
「ええ・・・そうね」
「いらないわよ・・・あんな物」
二人もそれが解っているのか渋ることなく渡してくれた。
太平妖術の書・・・元凶ではありますが天和様達と出会わせてくれたとも見方を変えれば考えられるんですよね。それだけは感謝してもいいのかもしれません。
まぁ燃やしますけどね。
売ればどれぐらいになるかは分かりませんがこんな危なっかしい書物を世に出してはいけません。焚書してお空の灰にしましょう。その後、灰は畑に蒔きましょう、きっと美味しい野菜がとれる気がします。
懐に太平妖術の書をしまい、私は地和様と人和様に向き直ります。
心配そうに見ていますが大丈夫ですと私は二人の頭を撫でる。
「・・・それじゃ二人共、お元気で」
ボグッ
「グフッ」
なぜか地和様にお腹にボディーブローぶち込まれました。
やばい、吐きそう。
この拳・・・世界を取れる。
じゃなくて何で殴られたんですか!?
「・・・それじゃ二度と会えないみたいじゃない」
そういって元気に笑う地和様。
一瞬言われた意味を理解出来なくてポカンと馬鹿みたいな顔をしちゃいましたけど、分かったとき思わず私は吹き出してしまいました。
・・・そうですね。
また会うんですからこんな言葉じゃないですよね。
知らないうちに私も弱気になっていたみたいです。ほんとこの人達には最初から最後まで私は救われっぱなしでしたね。恩を返すためにもちゃんと帰って「ただいま」と言わなければなりません。
「また、会いましょう地和様。人和様」
「よろしい!!」
「うん、また会うときまで」
「旦那!!きっと帰ってくるんですぜ!!」
「俺達、ずっと待ってます!!」
「ま、待っているんだな」
私は陣幕を後にします。
後ろは見ませんよ。
ここで後ろを向いたら・・・お二人の顔を見てしまったら迷ってしまいますからね。
一号、二号、三号、私の代わりに三人をよろしくお願いしますね。
あ、三人の真名聞くの忘れてた。
でも今更戻るのもなんだし・・・。
って何も悩む必要はありませんね。
また、会うんですから。私達は。
夜になりました。
今、私はここに押し寄せた皆さんの軍が見える位置にいます。目の前にはたくさんの陣幕。ホントたくさんの人がここに来てますね。
あの人達の全てが張角様の命を狙っているんですか。
・・・私を狙っている人いませんよね?いないよね?
「主、本当に良かったので?」
「・・・」
側には美須々と琉生が控えている。
美須々は特に険しい顔をしていますね。
きっとあの陣幕の中での出来事があったからでしょうね。
「私は近くにいたはずなのに気づけなかった。
主の本当の気持ちに。
そんな私が主の近くにいていいのか?
張角様と一緒にいた方が主の為なのでは?
そんな事が顔に書いてありますよ。美須々」
「!?」
「どうして解ったみたいな顔してますけど、貴方とどれぐらい戦場を共にしてきたと思っているんです?それに大切である仲間の貴方の心の内ぐらい解りますよ」
「主・・・ならばなおさらです。本当に良かったので?」
「覚悟は天和様達と出会ったときに既にしてましたよ。それに良かったかって・・・また会うんですから。それとも私はここで死ぬので?」
「!!、そんなことはさせません。この私が主を守り通して見せます!!」
男としては女の子にそんなこと言われると正直複雑ですね。まぁ実力は彼女の方が上ですから任せるとしましょう。・・・やっぱり本当は悔しいですけどね。でも、彼女はそれだけ信用に足る人間です。
本当に成長したなぁ。初めて出会ったときは世紀末武将とレディースをたして南蛮で割ったような人間だったのに。ちょっとしたお母さん気分ですよ。
「ええ、私も貴方達を信じていますよ。生きてこの時代の先を見ましょう」
「主・・・」
美須々が心酔した表情でうっとりと私を見る。
・・・あれです。エロいです。
美須々って結構美人なんですよね。
琉生も美人・・・ていうよりかわいい系ですが、美須々とは違い私をじっと見つめています。
「旦那・・・無事ニ張角達ハ着イタヨウダゼ」
影から明埜が現れたもよう。
明埜には影から天和様達を護衛してもらっていました。
そう言えば彼女の忍び達は彼女に死ぬまで付き従うとのこと。
私の命で従ってはくれないでしょうし、明埜にこの件は任せましょう。
それにしても、どうやら無事に町に着いたようですね。
「うん、準備完了ですね」
改めて数多の軍を見る。
曹操軍に孫策軍に劉備軍に袁紹軍。
え~と・・・武将は関羽に張飛に劉備に孔明に鳳統に曹操に夏侯姉妹に荀彧に許緒に于禁に李典に楽進に孫策に周瑜に黄蓋に孫権に陸遜に甘寧に呂蒙に周泰に袁紹に顔良に文醜。
何このドリームチーム。
有名所集めりゃいいってもんじゃないですよ?
これ三国志ファンが見たら鼻血もんです、それで敵だよって分かったら首つりますよ?
それぐらいやばいメンツですもの。
これに董卓軍いたら流石にもう脱出とか言ってられなかったでしょう。
というかこんな連中がいるのに逃げられるんだろうか。
無双乱舞とかしないだろうか?
もしかしたら出会っていない武将がホンダムみたいなモビルスーツだったりしないだろうか。
それともオーモーイーガーとか言って一撃必殺技使ったりしないだろうか?
某騎士王みたいに黄金の剣で数万の軍勢をなんか出して滅ぼしたりしないだろうか?
どこかの吸血鬼みたいに拘束解放して大量の何かを生み出してMINAGOROSIにしないだろうか?
そんなことないよ~ばかだな~波才くんはって笑い飛ばせないのが恐怖です。
だって呂布が単身で黄巾党三万蹴散らしたそうです。これ絶対に呂布は無双乱舞習得していることでしょう。
果てしなく不安だ。
「・・・死ぬかも」
そう不安をこぼした私は多分悪く無いと思います。
だが、そんな私に2人は笑い、答える。
「主は死なせません。私の命に代えても守ります」
美須々が凛々しく、凜とした表情で笑い、槍を握りしめる。
「旦那、俺達ノ目ガ黒イウチハ嫌ト言ッテモ死ナセネェヨ」
明埜が不吉に笑い、その両手に手裏剣が現れる。
「・・・」
琉生は表情は変わらない。いつもの姿がそこに在るが二つの双剣を胸の前で交差し、目を静かにつぶる。
ああ、私は本当に良い仲間を持った。
結局黄巾党はこの世界でも終わりを迎える。
でも、それで良かったかもしれない。
天和様達は生きていて、きっと今後も歌っていくことだろう。
黄巾党の張角は死ぬともアイドルとしての天和は死なない。
私は守れたのでしょうかね。
ま、結局は自分の自己満足の問題ですね~これは。
「それでは黄巾党の波才、黄天が沈む姿を拝みに行くとしましょう」
そう言って三人に笑いかける。
一人は笑い
一人は嗤い
一人は無表情
うん、この時間が私は大好きです。
火が砦を包む。
それはおそらく何者かがこの砦に入って付けた火でしょうね。
曹操でしょうか?
それとも孫策?
いや劉備?
まぁどうでもいいか。
その火は新たな時代への儀式のような神秘を感じました。
この場には私以外誰もいない。
私は逃げなくてはいけないのだがこの燃えさかる火を見ていると考えずにはいられない。
人は誰しも生きているのに理由があると誰かが言っていたけれど、この時代で私がすべき理由とは何なんだろうか。元の世界ではない。私がいた漢ではないこの世界で、黄巾党という組織が無くなった後、私はどう生きればいいのだろうか。
一つの可能性として私があの日本へ戻れるかとも考えたがそれはどうやらないらしい。
つまりこの世界で生きろと言うことだ。
「どうしろっちゅうねん」
思わず関西弁になってしまった。私、九州なんですけどね。もやもやする胸の内を整理しながら頬杖して逃げ惑う黄巾党の人間を見つめる。
物が焼ける臭い。
人が焼ける臭い。
鼻をつくような噎せ返るような臭いが鬱陶しくもあり愛おしい。
本当に私がここへ来た意味って何なんでしょう?この世界が私を呼んで来たなら私は世界に愛されているはずだ。でもふたを開ければどうということもない人間の一人。確かに氣の力を習得したりはしたけれど人の枠を出ておらず、所詮はただの人間の域を出ない。
黄巾の乱は起こり、劉備にも負け、今こうして滅亡を目にしている。
それにしばらくは私は天和様達とは行動が出来ないだろう。顔を天和様達とは違い覚えられているし、漢王朝が生きている(と言っても死に体だが)今は私はのほほんと暮らせない。
それに・・・。
思わずため息が出る。
曹操が私にご執心らしいと言う報告を明埜から聞いた。これでは休まる暇もない。漢王朝が衰え、形だけの物になる日が近いが曹操が堕ちるという日は想像も出来ない。
ようするに曹操が私が死んだと思うまであれだ。
自由に暮らせない。
明埜辺りに頼んで私が死んだという噂を流してもらったとしてもあの用心深い曹操だからしばらくは無理だろうし。張角様が死んだということで満足してくれないのかなぁ。
しないだろうなぁ人材マニアだし。
深いため息が出てきます。
でもよくよく考えてみればこの世界に愛されているのは曹操や劉備なのではないのでしょうか。いくら何でも順調すぎるのです。本来なら居ないはずの将達を引き連れ今が雄飛の時と駆け上がっている。
劉備が代表的な存在ですね。
本来なら例え演技でもまだまだ舞台に上がらないというのに今ではチート軍師二人を引き連れて中国大陸を凱旋中。あの調子ならこの戦いが終われば平原辺りで相にでも任命されるんじゃないか?
だとしたら私って本当に何だろう。
あれか?黄巾党Bって感じか?一号達のこと笑えないぞおい。
またまた深いため息。
だがここで私はここへ近づく存在がいることに気が付く。ん~誰だ?敵か?あ、この気配は多分・・・。
「琉生~こっちに来て座りませんか」
姿を現したのは琉生。
熱風が頬を当てているのにも関わらず、その顔は平静そのものだ。
「・・・」
座らないで私の事をじっと見つめる。
私も見つめるが・・・ああ、よく見ないと解らないですけど急かしてますね。
「急いで脱出しようぜって所ですか」
「・・・」コクリ
「いやぁ~でもちょっと考え中なんですよ」
呼ばれたのに愛されず。
望まれたのに奪われて。
死ぬべきはずが輪廻に囚われて死ねず。
守れたのに守れず。
「琉生?」
思わず私はたずねた。
答えは返って来るはずはないだろうと知りつつもどうしても誰かに問いたくなったのだ。
「私は誰なんでしょう?何がしたいんでしょう」
私は結局どうしたいのでしょうねぇ。
何でこんなに迷うのでしょう?
「巫山戯るな」
え?
思わず声をした方を見る。琉生しか居ない。
目を見開く。
「もしや、貴方が?」
だが私の問いには琉生は答えず、紡ぐ。
「何になりたい?何の信念を持ち、何を掲げ、何に生きる?」
静かで、落ち着いていて、風に乗り、消えてしまう。
そんな声で彼女は私に問う。
「解らない、否、目を逸らすのならば主が今見ているもの全てがまやかしであり主の望むものだけの世界。張角様にすがり、己の全てから目を逸らした結果」
動かない能面のような表情が今や憎々しく歪んでいる。
堰を切った水の激流の如く口からあふれ出る言葉に私は動けない。
目を逸らせない。
「自分で自分を喰らい、飲み込まれ。迷い、迷いて泣いて子供のように無垢にそれを問う。毒、毒以外の何者でもない」
琉生が私の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
息がかかるほど近くに琉生の顔がある。
私はされるがままに引き寄せられ、頭が真っ白になって何も言えない。
ただ、彼女の言葉が心に打ち込まれ、抉っていく。
「主が目指したものは正義か?皆に望まれ皆に愛され、誰もが貴方を敬い敬意を表す正義か?」
正義?違う。私が目指したのは天和様の平穏。
そんなものかけらも・・・なかったのだろうか?
いや、私はそうなりたかったのかもしれない。皆に認められ、皆に欲せられる特別な存在。勝ちたかった、特別でありたかった。
それでも、それでも私はみっともなくそれを否定しようと、否定しようと口を開くが・・・その言葉が出てこなかった。
決して琉生に怯えたわけではない、声が出ないわけではない、何故か、何故か出なかった。
「問う、主はもう逃げられない。天和様のためにと言う言葉を言えば主の首を折る」
その目は嘘をついていない。混じりっけのない殺気。どこまでも深い憎悪。
「何をしようと私は従う。例え親を親友を老人を赤子を殺せと言われてもそれに従う。だが迷うことは許さない、否、我らは許されない。主は主であり天和様でも曹操でも劉備でもない。答えを、主だけの答えを示して」
私だけの答え?
考える。ひたすら考える。そもそも私だけの答えとは何だ?私はそれを求めて足掻いて足掻いてみっともなく迷っているが見つかることはない。
どれだけ求めようとも見つかる事は無かった・・・。
はずだった。
見つけた。
見つけましたよ答えが。
天和様では気が付かなかった。地和様では気が付かなかった。人和様では気が付かなかった。美須々では気が付かなかった。明埜では気が付かなかった。曹操でも、この大陸の英雄達を見ても気が付かなかっただろう。
それは何故か。
彼女達は強いからだ。どこまでもまっすぐで、どこまでも迷わない。自分の道を信じ、自分らしく生きているから。縋ったりしない。誰かに求めたりしない。
だが彼女は違う。
私に縋っている、求めている、答えがあると信じている。そんな彼女だから、琉生だからこそ見つけた答えを見つけられたのかもしれない。
「知りませんよ」
凍った。
今この場の全ての動きが止まったように感じた。
戦の喧騒も、熱気も、何もかもが止まった。
「それが答えです。知らないんですよ」
「・・・」
琉生は否定しない。
ただ私を見ている。
「私は考えない。私の生き方は考える事に意味がない。もう無いのですよ」
ああ、清々しい。考える事はないのだ。もう考える必要も無いのだ。そもそも答えなんて無い。探すだけ無駄だったんです。
私は答えがあると思っていたんですよ、琉生と同じで。全ての事象に全て答えが用意されていると、森羅万象物事全てに答えがあると?だから私の悩みにも答えがあると。何にでも答えがあると思っている。求めれば得られると思っている。まるで子供のように。
特別で在る必要があるのですか?正義である必要があるのですか?求められる必要があるのですか?私に価値がある必要があるのですか?私はこの世界で活躍する必要があるのですか?
無いでしょう?そんな必要は無いんですよ。
無理して無理して英雄達と比べるからいけないんですよ。あの人達は英雄ですよ?凡夫たる私と比べてどうするんですか?
愉快だ、どうしようもないくらい愉快だ。
なりたくないものになっていた?
違う、なりたくないものになりたかったからなったんだ。
そんな答えなんて無いって。
だって最初から私には用意なんてされてないんですから。このなのにこの世界の英雄はそれがある。答えを持っている。物事全てに答えがあるんですよ彼らには。解りやすいようなね。
英雄の知りたいことを求めてどうすると。英雄の答えを求めてどうしろと?この世界に来てから舞い上がっていたのかもしれませんね。自分は特別かもしれないと。
特別じゃ無いじゃないですか。
私は普通に殺されたし、神様にも会ってはいない。特別な力も持っていないし、あるのは所詮人が築き上げた知識。私は何一つ特別な物はは持ってはいない。才能も能力もね。
私は一般人だ。
戦場で舞う将なのではない、戦場で泥まみれに戦う兵なのだ。
それに気が付かなかった。
いや、気が付いていたのだろう。だが目を背けていた。特別だと、私は普通の人間とは違うのだと。
だからこそ琉生は、私は苦しみ、無理に答えを導き出そうと足掻くんですよ。
「馬鹿げている、ああ、馬鹿げているこの世界は」
許されないんだ。こんな答えは本来認められず、許されない。狂っている、最高に狂っている。こんな馬鹿げた世界が在って良いんだろうか。いいんだろうなぁ。だからこそ私はここにいるんだから。
琉生の手を振り解き立ち上がる。
不思議と私を掴んでいた手はあっさりと放された。
「まるで私の想いをそのまま著したような世界ですよここは。優しくて、優しくて、それでいて残酷」
ああ、正義なんて無かった。
ああ、悪なんて無かった。
ここはそんなものが在る世界ではないんだ。
全てが許されて全てが肯定されて全てが否定される。
何だろう?
ここほど私を迎えてくれる世界は無いのでは?
「許されない、許されない事がここでは許される!!なんて馬鹿げて」
恐怖だ。
「素敵な世界だ」
私は招かれたのではない。私以外の誰かがここへ来られたわけではない。私だからこそここへ来られたのだ。何が世界意志だ。世界意志なんて無いではないか。私は結局私だからこそ天和様と会い、黄巾党になり、戦ったのだから。
私が私の終わりを迎えない限りここでの私は私なのだろう。
「私はね、私なんですよ。ここに生まれた私が私なんですよ。私はそれまでの私でいようとしたから私は壊れた。認められなかった。だから今ここで飄々と生きるこの私こそがここに相応しく、個々で在りつづけ、此処に見えるのです」
だからね、琉生。貴方の答えなんて無いんですよ。そんな答えないんですよ。
あったら可笑しいんですから。
笑っちゃいますよ?
「だからこそこの答え。様々な物をモノを者を見る為に、私で在るための答え。でもそれは私の答えであり琉生の答えではないのでしょう」
振り返り琉生を見つめる。
「見つけなさい。琉生の答えを。琉生を道を。信念を。それをこの世界は受け入れる。受け入れられないと今の琉生のように感じているのは琉生自身がそう思い込んでいるから」
多分私は琉生と同じだ。だからこそこれ以上の言葉はいらない。私でさえ気がつけたのだ。琉生がこれを解らないはずがない。
「その道が何なのか、その信念はどんな結果を生むのか。それは誰にも解らず、己しか知らない。その道を選んだことは後悔しないでほしい。他の誰でも無い、貴方が生きて逝った貴方だけの物語」
私は後悔などしない。もう決めた。全てを認める。全てを認めて全てを見てやる。私は見てみたい、これから時代を築き上げる者達を、その勇姿を、その歴史を。
呆然とする琉生の頭を撫でる。
「その物語を見る、楽しむ、それこそが私の道。傍観者では無い、なのに傍観者でもある道」
さぁて新生波才の物語もここからだ。
やっと、やっと始まる。
特別でも何でもない、ただ一人の波才の物語を。
それはただ散歩で終わるかもしれない、つまらないかもしれない、何もないのかもしれない。
それでもそれは自分が築き、作り上げた物語だ。
「私はその道を見ても知ることは出来ない。知っているのは己だけ。私はその道を知っても理解することは出来ない。理解しているのは己だけ。私はその道の在り方を否定しない、否、出来ない。だから見たい、彼らだけの物語を、彼らの物語を」
琉生は静かに目を閉じた。
そしてゆっくりと目を開く。
その目には私のような、先ほどまで琉生が持っていた物とは違う別のものが宿っている。
「主は・・・もう、主ではないのですね?」
「ええ、私は波才であって波才ではない」
そう言うと彼女は笑みを浮かべ立ち上がった。
初めて見た琉生の笑顔。
それはとても輝いていて、人としての持てる幸福全てを得たようなそんな笑み。
「なれば僕は主の物語を見たい。美須々、明埜は主の道を歩くけれど僕は物語が見たい。それが僕の答え」
ああ、ほんと。
私の部下が、この場にいたのが彼女でよかった。
「ええ、それが答えなら私は見せなければならないでしょうね。琉生の物語を紡ぐために」
「主!!そろそろ時間が……」
その言葉に振り向くとそこには肩で息をしている美須々の姿があった。
走ってきたのだろうか?ずいぶんと苦しそうで額には汗が浮かんでいる。
時間ねぇ・・・。
黄巾党の陣営を見ると火が点きまくって敵が侵入。
みんなでマイムマイムを踊っている。
あ、なんか楽しそう。
「そうですね、それではちょっと散歩してきますよ」
「はぃぃぃぃぃ!?」
目を見開いて大口を開けて歯茎まで見せている美須々をよそに私は歩き出す。
「ちょっと主!!今、孫策軍が進入して危ないですからすぐに」
私を止めようと走り寄る美須々。
だが琉生に腕を捕まれて逆に止められる。
「琉生、放すのだ!ここで主を行かせては」
「それが主の望みなら止めることはない」
え?と言わんばかりに目を点になる美須々。
余りの驚きに口は金魚のようにぱくぱくと意味もなく開いては閉じている。
「る、琉生!?貴方しゃべれって痛い!!」
むんずと髪を捕まれた美須々は引っ張られていく。
私はそれを笑顔で手を振りつつ見送る。
「琉生!?とりあえず放してください、痛い!!痛いです!!」
「・・・」
琉生は放す必要も話す必要も無いと言わんばかりにいつも通りの無表情と無言で美須々を引っ張っていく。
多分彼女はこれからも今までと同じで話す事はなく、何があってもあの鉄面皮のような無表情を止めることはないだろう。
いつも通り、いつも通りだ。
ただ少し私が変わっただけ。
そんな彼女達を見送り、「さぁて」と言って腰に手を当て胸を張る。
どうせこれで黄巾党は終わり。
だったらもう少しこの良い気分のまま散歩するのも乙なものかも知れない。
相も変わらず人が絶命する叫びがそこらかしこから聞こえてくるが、それも風流だ。
そう感じる私は少し壊れてしまったかもしれないが、これが楽で自然体なのだ。
わざわざ自分を偽る必要も無いだろう。
琉生が認めてくれたのだ。
美須々や明埜は大丈夫だろうが天和様達はどうなのだろう?
嫌われるだろうか?
・・・どうやら私は変わったとしても三姉妹LOVEなのは変わりないようです。
思わずそんな自分自身に苦笑する。
「人は魅力に溢れている、琉生や美須々、明埜のように。そんなおもしろい世界だからこそ私は主たるあの人達をここまで慕っているのかもしれません。どれ、私も彼女のように負けてはいられませんね」
なんせこれからは新しい道を考えなくてはいけないし、物語も探さなければならない。
やることはたくさんあるのだ。
だからせめて今だけ、今だけは。
のんびりと散歩がしたい。
そう思って私は喧騒渦巻く戦場へ歩き出した。
~美須々 side~
「琉生!!お願いですから放してください!!主はもう止めませんから!!」
そう言うとやっと琉生は放してくれた。
いくら髪を短くしたとはいえ、これ以上短くと言うか髪を抜かれるのは一人の女としてきついものがある。
「まったく・・・もう少しやりようはあったのでは?」
「・・・」
先ほど喋ったのが嘘のようにいつも通りの琉生へと戻っている。
要するに喋らない。
「それにしても貴方声が出せたんですね、真名を交換する際にも筆でやりとりしたのですが」
「・・・」
「突然声が出せるようになったのですか?」
「・・・」
表情から読み取ろうにも無表情のため読み取れない。
思わずため息をつく。
主は読み取れるようだが自分にはまるで解らない。
かといって心を許していないというわけではないというのも解っているのだが・・・いかんせん辛いものがある。
たま~にこうかな~と思うこともあるのだが。
美須々は諦めて今頃のんびりと鼻歌でも歌いつつ歩いているであろう自らの主を思い浮かべる。
「主はたいそう機嫌がよかったようですが・・・どうしたのでしょうね」
「・・・」
いつもの主と違うと美須々は気が付いていた。
前のように禍々しくなくより一層人を惹き付けるものに変わっていた。
おそらく琉生があの場にいたということは琉生が何かしら関係しているのだろう。
聞きたいがそれを答えることはないと解っているので美須々は聞きはしない。
だが羨ましく感じるのだ。
私では主を今まで通りの主に戻すことしかできなかった。
だがどうだろう。
今の主は輝いている。
見ているだけで惹き付けてやまない英雄のそれとなっているのだ。
だが、そこにかつて感じた曹操のような何かを求めてやまないような気迫はないのだ。
主は何かを求めている。
だがそれは・・・何というか。
違うのだ。
主はまるで英雄であり、英雄ではないのだ。
そこにより一層の魅力を私は感じ、同様にそれを磨き上げたのであろう琉生には嫉妬している。
何故私ではないのだろう。
何故私ではなく琉生がそれを・・・。
「・・・知りません、そんなもの」
考えても解らないものを考えてどうするんです。
考えるだけ無駄。
べつに琉生だろうが明埜だろうがいいじゃないですか。
主はより一層素晴らしくなった。
我らをより惹き付けるようになった。
格好良くなった。
それで良いじゃないで・・・。
そう思った私の耳にくすくすと楽しくて仕方ないというような忍び笑いが聞こえた。
えっと思って忍び笑いの犯人を捜すと琉生が楽しそうに微笑んでいるのを見つけた。
多分私はさぞや滑稽な顔をしていたであろう。
今日は琉生で驚くことが多すぎる。
おかげで今の私の頭の中では何故か主が阿波踊りを踊っている。
そんな私を見て琉生はぽつりと。
聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「主と・・・同じ答え」
その言葉に意識が戻った私は思わず声を出して笑った。
そうですか、主と同じですか。
それはそうでしょう。
だって
微笑む琉生と悠々と戦場を散歩しているであろう主に聞こえるような大声で言った。
「当然です、私は主の配下!!程遠志ですからね!!」
その言葉についに琉生は声を出して笑いはじめた。
楽しそうに、楽しそうに。
自分の後書きはぶっちゃけいらないことに気が付いた。
なんか悔しくなったので、史実武将を簡単に後書きで恋姫オリキャラっぽく紹介することをこれからやることにしました。
後書きで駄文使いの作者に「この史実武将書いて欲しいなぁ」という方は感想覧に感想と一緒に武将名でも書き込んでくれると作者は悪ノリしてやるかもしれません。
だって味の素だもの。ノリで生きているもの。
だから出来もあれになるから注意です。
今回は呉編の史実武将でもし作者が恋姫化したら。
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「だから!!冥琳!!なんでこれ許可してくんないの!?」
「いくら何でも金がかかりすぎだ……」
「それがいいんじゃない!!」
何やら騒がしく廊下を歩いていた波才はとある執務室を覗き込む。
そこには冥琳と……あ、目があった。
すると中にいた女の武将はやった!!とばかりに波才を執務室の中に引きずりこんだ。
「ちょっと波才聞いてよ!!」
「一体なんですか賀斉さん」
この賀斉と波才が呼んだ武将、髪は琥珀色で目はパッチリ、スタイルもいい美人なのだが、かなり自分の身を着飾っている。
ずいぶんとこった服を着ており装飾は繊細で豪華。
髪を一つに結んでいるのだが、その髪に飾られている金のアクセサリーもかなりの名工が手掛けた物だ。
両腕にある腕輪も龍と鳳凰がそれぞれ掘られていて真ん中には玉が。
首飾りには珊瑚が飾られており、妙にけばけばしいのだが美人のためにむしろ彼女がそれらを身につけるのは当然だと感じてくるのが不思議である。
「何ってこれを見てよ!!私の隊の船隊作るために必要なのに冥琳がお金出してくれないの!!」
「船隊はこれからも必須なので別にいいのでは……って何でしょう?私の目がおかしいのかな?零の数が四つほど多くありません?」
思わず波才は自分の目を疑った。
きちんと詳細な内容が書かれており一つ一つの材料の予算などが綺麗にまとめられている。賀斉がきっちりとした性格なのがわかるのだが……問題はその内容だ。
これ、国家予算じゃないんですよね?船団に使う費用ですよね?
顔だけ動かし冥琳を見るといように疲れた顔をしてため息をついている。
「あの、賀斉?この帆に金を織り込む意味は?」
「だって豪華でいいじゃない!!」
「あの、賀斉?この最高材質の木は何のために?」
「何で私が普通の木で出来た船に乗るなんて絶対いやよ!!」
「……冥琳。私帰ってもいいですかね?」
「……波才、私だけでは役不足だ」
既に冥琳の眉は八の字になり、苦労がにじみ出ている。
そんな冥琳を無視して賀斉は自信満々と胸を張って言い放つ。
「豪華な船隊を作れば負け無しよ!!それぐらいの値段当然!!」
「あの……その自信はどこから出てくるので?」
波才が思わず尋ねると、彼女は元気に笑いながら、ぐっと親指を突き出し自信満々に言い放つ。
「だって安物の船に豪華な船が負けるわけないじゃない!!」
冥琳と波才は互いに深いため息をついた。
<賀斉、字は公苗>
山越などの異民族の討伐・平定に活躍した人物で、武勇に優れたばかりでなく地方統治にも手腕を発揮した有能な人物。
異民族の先頭のエキスパートである。一万数千の兵で山越の抑えを受け持ち、合肥の戦いでも鬼神、張遼率いる部隊から牙門旗を奪い返す活躍を見せるなど戦闘においても武勇を見せつけた。
非常に派手好きな事でも有名であり、常に上質で豪華な武具を着飾って戦に赴いた。
自身だけではなく配下の軍装も豪奢に飾りつけ、遠目に見るだけで彼の軍と分かるほどであったという。
洞口の戦いにおいても、賀斉の軍は武器甲冑や軍用機具はとびきり精巧で上等のものを揃え、船には彫刻・彩色を施し透かし彫りで飾り付け、青い蓋を立て赤い幔幕を垂らし、大小の楯や矛には花文様を彩り鮮やかに画き、弓や矢はすべて最高の材質のものを用い、蒙衝や戦艦の類いは遠くから見ると恰も山のようであったという。
曹休はその威容に畏れをなし、そのまま軍をまとめて引き返した。
作者が書くと元気&おてんばの浪費家。
赤壁で劉備達が唖然としながら彼女の船団を眺める姿が想像できますね。
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