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黄巾無双  作者: 味の素
黄巾の章
18/62

IF END ~我は黄巾党と共に~

死んでみたところでなんの役に立つのだろうか?

まだ死ぬには早すぎる。せっかく自分のために生まれてきたものを全部自分のものにしもせずにあの世に旅立つなんて、果たして僕のすべきことだろうか。


~S・D・コレット~


「あら?いらっしゃい、どうしたの?」



「あら、貴方は納得できないのね。貴方は『波才は黄巾党であるべき』、『波才がこれから紡ぐ物語は興味がない』と思っているのね」



「分かるわ~その気持ち。気に入っていたものが嫌な方向へ向かっていくのを好き好んで見たい、なんて物好きな人なんていないもの」



「実はね、さっき本来とは別の新たな外史が生まれたの」



「貴方が望んだからこそ生まれた外史ね」



「これからの物語に不満があるのなら、貴方の中の『この外史』はここで終わらせたらどうかしら?」



「そうね、それがいいんじゃない?それじゃ、貴方が望んだ外史。ちょっと私にも見せてくれないかしら?私も興味あるのよ」



■□■□■□■□■□■


①※波才が官軍の皇甫嵩を逃した際の慟哭・義憤を誰も発見できず、止められない。


②※最後に地和と人和による説得を受けない。


以上の条件によりIF END ~我は黄巾党と共に~が発生する。


①が発生すると事前に配下に逃げろと指示しないため、波才の軍の数は変動しない。

更に戦い続けるため、誰もが憎み、恨み、妬み、士気は変わらず疑念を持たない。


②が発生するとこのEND時に波才軍は死兵となる。

軍攻撃力大幅上昇。

軍防御力減少。

更に兵達に『死』の特技を付与。


特技『死』

死兵となるため生への執着を持たず、どのような死地にも赴く。

故に殺傷能力が上がるが反対に生存能力が著しく低下する。

城に戻っても復活できない。


■□■□■□■□■□■











IF END ~我は黄巾党と共に~





天和様には少し眠ってもらいました。


あの目は絶対に引かない、そう言う目でしたからね。

でも、女の子に手をあげてしまいましたね。

うん、死ね。自分。


……。



申し訳ありません天和様。

私は所詮、私でしかなかったようです。

例え、主が私を止めようとも、もう、私は止まることが出来ないのですよ。



「一号さん」


「あ、はい!!」


「天和様をお願いします。地和様、人和様も」



そう言って波才は二人を見る。


地和は、人和は波才を止めようとした。

彼女達は解っていたのだ。

波才をこのまま行かせてはもう戻らない。


二度と、二度と帰らない存在になると。


それだけは誰も望まない。

自分も、天和姉さんも、人和も、一号達も。


口を開こうとする、だが。



「すいません、地和様、人和様。私は黄巾党なのですよ」



その言葉の意味を計りきれず、出るべき言葉が咽の奥に閉じ込められる。



「私は変われなかった。前世と同じで、結局は同じだった。獣が人に戻ろうと足掻きましたが、もう解ったんです。私は変われない、人にはなれない。だから……ここで死ぬしかないってね」


「!?そんなことは……」



否定しようとした。

そうではないんだ。

そうじゃないんだと。


だが、彼女達は波才から発せられる毒々しく、黒々しい何かに気が付いた。

それはとても深く、とても重く、とても悲しい。

なんでと、なんで波才はこうなったんだと地和は思った。



「ここで生き残っては、ここで死ななければ、私は納得が出来ない。私は認められないんです」



そう言って波才は笑う。


最後に私達の元から去って行った波才はこんな風に笑わなかった。

こんなとても寂しく、悲しく、哀れな人間じゃなかった。

どこで、私達がいない間にどこでここまで変わってしまったのか。

それとも波才が言うとおり波才はもともとこんな人間だったの?


違う!!


波才が私達と出会ったとき、あの出会いの晩の波才はこんな人間ではなかった。

誇りを持ち、自分という確たるものを持ち、強く、見る者全てに勇気と希望を与えてくれる人間だった。


違う!!


こんな目をする人間じゃない!!

こんなに弱々しい人間じゃない!!

こんな人間じゃない!!





こんな、こんな悲しい人じゃない!!


波才を止めようと、波才を止めようと声を出そうとする。

だけど出ては来ない。

いろんな言葉が浮かんでくるのに、いろんな思い出が浮かんでくるのに。


涙が、涙が溢れてくる。


波才は涙を流し始めた地和、人和を見ると静かに頭を下げ、臣下の礼をとる。

主が真に求める声に気が付かず、それでもなお臣下の礼をとり、自分の道とする。

それのなんと滑稽なことか。


あの日、出会った日にとった臣下の礼とはあまりにもかけ離れた、見る者全てが哀れむ。

誰も望まない臣下の礼。



「それでは、行って参ります」



止めようとする。

誰もが、その場にいる誰もが間違っていると気づいているのに止められない。

それは波才も同じだ。

内心では地和と人和と一号達が言いたいことを理解している。

だからこそ拒絶する。



もう、戻れないと。




地和は、人和は涙を流す。


どうしてこうなってしまったんだろうと。

止めるべき言葉が見つからない自分が、自分が悔しいと。



波才がその場を去った後、二人の姉妹は声を出して泣いた。

目を真っ赤にして、波才、波才と壊れた人形のようにひたすらその名を叫んだ。


一号達は悲痛な表情で見つめる。

彼女達にどんな言葉をかければいいのだ。

泣くことすら出来ず、自ら引き離す役目を持った俺達がどう慰めればいいのだと。













「主、よろしかったのですか」


兵達のもとへ向かう主、その背中に私は問いかける。

主は歩みを止め、その後ろを歩いていた明埜も同じように足を止める。

私の隣を歩く琉生は何の感情も無い目で私を見る。



いつもと変わらない声で問う美須々だが、内心は穏やかではなかった。


彼女は気が付いていた。


少しずつ主が壊れていくことに。


最初はほんの些細な違和感だった。

官軍との戦いからしばらく経ち、再度別の官軍と戦闘になった際、その違和感は確信へと変わった。


主の策に容赦がないのだ。

その官軍を全て殺し尽くした主は一人残らずその首を木の杭に刺し、官軍への抑止力として砦の周りに埋め込み、晒した。

私はこの時初めて主が変わったことに気が付いたのだ。

主は人を殺した時必ずどこか辛く、暗い表情を浮かべていた。


だがこの時の主は違った。


笑っていた。


心の底から湧き出る『歓喜』の感情を抑えきれなかったのか口を弧に歪ませて楽しそうに笑っていた。


その狂気に私は魅入られた。

どこまでもどこまでも深く、深く。

まるで底が見えないその狂気に私は魅入られた。

あの朱儁との戦いで感じられた主とはまるで違う。

質も濃さもまるで違う狂気。


それを感じた瞬間我らは修羅道に堕ちた。


民を殺した。

女、子供、老人、赤子。

全員殺した。


理由?

食料が足りなかったからだ。

お金が足りなかったからだ。

それ以外に理由はない。


私も殺した。

逃げる老人を後ろから斬りつけて殺した。

母親の名前を泣きながら呼ぶ子供の首をはね飛ばして殺した。

どうかこの子は助けて欲しいと赤子を抱いて懇願する母親を赤子もろとも貫いて殺した。


返り血を浴び、幾多のも地獄を作り出し、駆け抜けた。


私はその時主と同じく笑っていたのを覚えている。

笑いながら殺して、殺して、殺し尽くした。

なんの迷いも無かった。

主が私達に命令したから。

我らが主がそれを命じたから。


嬉しかった。

主の命令でここまで殺せたことが。

主が望む殺戮を出来たことが。

主の期待に応えられたことが。






だが、そんな狂気もあの会話を聞いて吹き飛ばされた。

私は何をしていたんだ?

主は望んではいなかった。

こんな終わり方を望んではいなかったが認めざるを得なかった。

私は……私は主の望む道とは違う道を進んでしまったのでは?

私は間違ったのでは?

例え殺されようとも主を止めるべきだったのでは?


そう思うと後悔しきれない。


天和様、地和様、人和様の悲痛な声。

主の全てを諦めたような声。

聞いているだけで胸が締め付けられた。


聞かずにはいられない。

真の主の心に気が付きもせず、ただ私の道を進み続けた私にそんな資格はないと解ってはいる。

解ってはいるのだが……。




「美須々、聞クモンジャネェヨ」



明埜がさぞ面白くないと言わんばかりに声を荒げる。

顔は見えないためにどんな表情をうかべているのか解らない。



「ソレヲ聞ケバ旦那ガ今マデ積ミ上ゲテキタモンガ意味ガ無クナル。例エソレガ旦那ガ望マナイモノデアッテモダ」



だがその声にいつもの明埜の覇気が無いことに気が付く。

いつもの人を小馬鹿にするような、明埜独特の響きがない。


微かに声が震えている。


明埜は自分にも言い聞かせるように言う。

それは納得できないことを必死に納得しようと足掻いているように私には見えた。



「ソレヲ聞イチマッタラ旦那ガ生キテ積ミ上ゲテキタモンガ無駄ニナル。ダカラ聞クンジャネェヨ」


「ですが、こんな、こんな終わり方は……」


「聞クンジャネェッツッテンダロォ!!」



振り向きざまに明埜は手に手裏剣を持つと私の首に突きつける。

思わず私は手に持つ槍でそれを払おうと手に力を込めた。

だが私は明埜の顔を見てそれ以上何も出来なかった。


明埜の目には……涙。

止めどなく涙は溢れ、顔にぐるぐるに巻き付けた包帯を濡らしていく。


それを見て私は初めて理解した。


明埜も私と同じなのだ。

同じだからこそその問いの意味の無さに絶望し、戸惑い、後悔している。



「止めなさい」



波才の制止する声に明埜は音が聞こえるほど歯を噛み締めるとゆっくりとその手を引き、得物を袖の中に収める。

憎々しげに美須々を明埜は一別する。



「琉生」



主は私達に後ろを向いたまま短くその名前を呼ぶ。

声には抑揚が感じられず、今主がどんな顔をしているのか想像できない。



「貴方は何か私に言うことはあるのですか」



何故、主が私や明埜ではなく琉生に話しかけたのだろうか。

琉生に答えを求めたのだろうか。

軍議はおろか、普段の生活する中で一度でも話した事はなく、話す姿も見たことがない琉生に尋ねたのだろうか。

明埜もこの主の言葉にまだ充血した目を細め、主を見つめた後以前何も話すことなくたたずむ琉生へとその視線を移動する。



「……これが主の望んだ事なら、私は何も言うことはない」



私と明埜は呆気にとられた。

あの琉生が返事を動作ではなく声で返したことに驚きを隠せなかった。

そんな二人をよそに主は更に問う。



「私が、望んだ事?」


「真か嘘か。正義か悪か。それを問い、求めるのは愚かなこと」


「………」


「救済を求めるか、それこそお笑いぐさ。救いなんて無い。あっても振り払うように主は進み、たどり着いた。それがこの結末。今更それを後悔?巫山戯るな。それなら戦うな、殺すな、生きるな」



普段の琉生からは想像できないほどの明確な意志と声。

私も、明埜も、主でさえも声を出せず動けない。

それほど琉生の言葉は強く、心に響いた。


それ以降琉生は口を固く閉ざし、待てども再度開くことはなかった。


冷たい風が私の頬を撫でる。

終わりがないと思えるほどの沈黙だったが、それを主が破る。



「そうですね。何を戸惑っているのでしょうね」



振り向いた主は笑っていた。



「地和様や、人和様を見たときに考えてしまったんですよ。彼女達との誓いを裏切り、こんな所で死んでしまう私が正しいのかと」


「正しくはないんでしょうね。正しくはないんですが私はその正しい道を生きられない」


「なのにうじうじとそれを悔いている」


「琉生が言うとおりですよ、もう戻れない、もう戻れないのならば覚悟を決めなくてはいけませんね」



そして私達の方を振り向く。

その目に迷いはない。

だが私は考えてしまう。


これが本当に主のための道だったのか。

この今の迷いの無い主をもっと早く私達が気づかせてあげればこのような後悔をする必要も無かったのではと。


だが、今主が迷いを振り払ったのは私では無い。

琉生だ。

私はただ自分に酔い、流され、そのようなことを気にも止めない。

琉生のように主に気づかせることなど出来なかった。

やはり私にはその資格はないのだろう。

いや、出来ないのだろう。


ならば、ならば私はどうすればいい?

主を主が望む道へ進ませることも出来ず、ただ流され続けた私は何をすればいい?




「みなさん、これより私は死地に向かいます。生き残りたい、後悔している人はどうぞ。天和様方と同様に抜け出してください。咎めはしませんよ?だって私は間違っているのですから。もう後悔はしていませんけどね」



……。

私はただ、流され続けた。

だが、それでも。

それでも



「私は主と共に死にます」



この思いだけは、この道だけは後悔したことなど一度もない!!

ここで抜ける?

主を見捨てる?

私は生き残る?

そうした瞬間私は、美須々という武人は終わりをつげる!!

波才という主であるからこそ私は私なのだ!!


その場に跪き、頭を垂れる。



「旦那~今更ソレハネェッテ」



嗤いながら手に持つ手裏剣をクルクルと回す。

先ほど涙を見せたような弱さはもはや無い。



「俺達波才軍ノ力、地獄ヘノ語リグサニシテヤロウジャナイカ」



いつものいやらしい嗤いをうかべてニタァと微笑む。


そして最後に



「琉生?貴方はどうしま……聞く必要無かったみたいですね」



双剣を抜き放ち、静かに目を瞑り、その問いに答える。

どうやらいつもの琉生に戻ったようだ。

先ほど話したのが嘘のような寡黙ぶりに主は苦笑する。


最後の戦とは思えない。

いつも通り、生きて帰って来るかのような一幕。

だがここにいる誰もがもう戻れないことを解っている。

それでも私達はいつも通り笑い、戦場へと向かう。


それが、波才の軍だ。

















「え~みなさん。多分これ最後の演説です」



波才がずらりと並んだ歴戦の兵達に向かっていつもと変わらない口ぶりで発した言葉。

最後とは思えないような口ぶりで和やかに言う。

だが、誰もがそれを理解している。



「出て行く人は出て行ってもらって全然構いませんよ?行きたいというのはまぁ当たり前ですから」



誰も動かない。

微動だにせず静かにたたずむ兵達を見て




狂気に満ちた笑みで主は嗤い、高らかに声を上げる。



「今まで散々殺してきた!!女子供老人赤子容赦なく殺してきた!!解っているな、私達は被害者じゃねぇんだ!!害だ!!この国に巣くう害虫だ!!」



まるで遠くを見るように手を目の上の位置に動かし、腰を動かして体ごと並んだ兵を見回す動作をする。

だが、それを笑うものなどいない。

兵達は静かな闘志を燃やし、ただ波才を見つめる。



「そしてお前らはそれを理解して行い、私に付いて来たどうしようもない血に飢えた獣達だ!!血に慣れた獣が人に戻れると思うな!!そんな獣はこれらから来るであろう平和な時代にはいらないんだよ!!もしこの場から去っていく馬鹿がいたら背後から明埜に殺してもらっていましたよ!!」



バッと両腕を上げて無邪気な子供のように主ははしゃぐ。

だが、熱が引いたように両腕を静かに下げると、その顔は能面のように凍りつく。

そして先ほどとは打って変わって冷たい声で静かに声を紡ぐ。



「彼らは英雄です。これからの時代を、希望を、夢を、歴史を、全てを紡ぎ出していく英雄達です。私達は彼らの贄、ただ貪られて消えていくどうしようもないろくでなし」


「彼らは間違いなく正しい、対して我らは罪無き民に手を出した愚か者共。我らが憎むものに変わり果てた獣共。死ぬべき、消えるべき存在」


「そう、我らは消えるべきだ。消えて後世の人々からも蔑まれ、憎まれる。だが我らにも血に飢えた獣として、ただのうのうと狩られるなどというつまらない終わり方はとてもじゃないが納得できない!!そうでしょう!!」



返事を返すものはいないが誰もがその答えを肯定している。

彼らは獣だ。

駆除される獣でしかないのだ。

歴史を、物語を紡ぐことなど断じてない。


だが獣にも意志がある。


獣には獣なりの誇りと意地が存在するのだ。

ただ狩られるだけの獣など波才の軍には一人たりともいない。



「殺せ!!歴史の英雄達を殺せ!!これから生きていく者達を殺せ!!最後まで、最後まで獣で在り続けろ!!奴らに我らこそが真の血に飢えた救いようがない獣達なのだと教えてやれ!!命乞いなどするんじゃねぇ!!例え腕を切られようと足を切られようと首を切られようと命乞いはするな!!逃げるな!!生きたいと思うな!!それだけのことを私達はしてきたのだ!!」



誰もが予期した。

唯一彼らをつなぎ止めていた楔が今外されることを。



「貴様らに問う!!ただ狩られるだけの獣か!?」


「「「「「否!!否!!否!!」」」」」


「貴様らに問う!!醜く生に執着してまで生きたいか!?」


「「「「「否!!否!!否!!」」」」」


「貴様らに問う!!我らは生きていていいのか!?」


「「「「「否!!否!!否!!」」」」」



その怒号に波才の軍以外の黄巾兵は何事かと飛び起き、天幕から武器を持ち飛び出す。

そしてこの光景を見て驚き、引き込まれ、獣としての明確な意志を持ち決意を胸に秘める。

いつしかその怒号はこの砦全ての者達を引き込み、覚悟を決めさせる。


誰もが声を上げ、その士気は天を切り裂き、大地を揺らす。


それを見て美須々は悔し涙を流した。


これほどの人を惹き付け、導ける英雄がここで終わるのかと。

この英雄がただ他の英雄達に英雄とも思われず、明日消え逝くのかと。



それを見て美須々は歓喜の涙を流した。


この英雄と共に死に逝くことが出来るのかと。



その涙を美須々は拭い、振り切るように兵達と同様に声を上げる。

何万、何十万の声が一つのものを求めた。





「お前達!!さぁ殺し合おうじゃないか!!」



「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」














燃える黄巾党の砦。


「策殿!!お怪我は!?」


「大丈夫よ!!それよりもこいつら……」


苦言を漏らす孫策。

黄巾党の砦に火計を成功させ、既に勝利は目前と考えていた。

だが、この黄巾兵達は……。


「まさか賊が死兵になるなんて……」


驚きを隠せない。

こいつらは一人一人が信念も何もない。

脅せば逃げる、勝てないと解れば逃げる、己の命がかわいいどうしようもない連中。

だからこの火計さえ成功させれば逃げ惑い、混乱し、後は攻め込んで張角の首を打つだけだと考えていた。

それが何故


「策殿!!」


黄蓋の声に意識が戻った私は剣を振り上げた黄巾兵の腕をはね飛ばした。

だが黄巾兵は何も持たないもう片方の腕で殴りかかってくる。


「っちぃ!!」


落ち着いてその兵の首を切り落とす。


死兵だ。

生に執着を無くし、ただ敵を殺す。

おかしい。

賊同様のこいつらに何故そこまでの覚悟を決めさせられる?

これが黄巾党の言う宗教か?


先手を打って砦に攻め込んだ私達の損害は大きい。

死兵相手では兵も疲弊し、徐々にだが数の多い黄巾兵達に押されてきている。

他の劉備や曹操などの者達も続々と攻め込むがこの死兵に戸惑っているようだ。


「速く、速く張角を見つけないと」


ここで兵を失ってはますます独立した勢力として自立出来ない。

いつまでも袁術のいいなりのままだ。

その為には一刻も早く張角の首を打ち、この砦から引く必要がある。


だがこの逃げない死兵達の波をどうくぐり抜けていけばいいのだ!?


一塊となった兵達が私のもとに殺到する。

いくら数が多い、死兵とはいえ所詮は雑兵。

私を討つにはいたらな


殺気を感じた私は体をとっさに捻る。


だが、剣を振る私は兵達の合間を縫って迫る刃に気が付かなかった。


刃物の凍るような冷たい感覚が腕を蹂躙する。

見ると手裏剣が右手の二等上腕筋に突き刺さっていた。


「はぁ!!」


黄蓋、祭の弓が私に殺到する兵達を射貫いていく。


「策殿!?その腕は」


大丈夫、そう言おうと手裏剣を抜いた私だが、一際大きい心音と共に押し寄せた焼け付く激流に思わず手を胸に押しつける。

熱い、燃えるように体が熱い。


自らの主君の異常に気が付いた黄蓋だが、近づこうとしても死兵となった黄巾兵達に阻まれる。

息が荒く、何度も酸素を取り入れるがこの熱さは和らぐどころか増していく。

それでも押し寄せる黄巾兵。


一人、二人ともう片方の手で殺していくがそれでもこの波は和らぐどころか更に激しくなっていく。



「オイオイ、マダ戦エンノ?オ前本当ニ人間カ?」



更に激痛が肩から体中へと浸透する。

また手裏剣……。

それを抜いて声の主を、その手裏剣を投げたのであろう人間を睨み付ける。



「オ前ナンデ剣奮ッテンノ?普通ハ最初ノアレデ動ケナクハナルモンダガ」



顔には包帯を巻き、袖が長い呂蒙の露出を無くしたような服を着ている。



「貴方がさっきからこれを……」



声を上げようとして私は片膝を着く。

おかしいと思った。

たかが手裏剣二つ、しかも致命傷ではなく血もそれ程流していないのにこの苦痛の激流。

体を食い荒らす熱湯のような熱さ。



「貴方……まさか」


「オ?ヤット気ガ付イタ?」



楽しそうに嗤い、言った。



「ソノ手裏剣ニ毒ヌッテンノヨ。オ前ヨク生キテルナ」


「卑怯な真似を……」


「卑怯?フザケンジャネェヨ。コレハ殺シ合イ。オ前ラガ誇リゴッコヲイクラヤルノモ勝手ダガソレヲ押シツケルンジャネェ!!」



さらに手裏剣を投擲。

的確にそれは私の命を狙う急所を狙っている。

振り払おうとするが手が上がらない。

熱い、体が焼ける。


これまでかと歯を噛み締めた私の耳に聞こえたのは


チリン


鈴の音。



「孫策様!!」


迫る手裏剣を全て弾いたのは甘寧。

さらに


「はぁ!!」


「ックソ!!劉備ノ時ト言イ俺ニハ変ナ呪イデモカカッテイルノカネェ!!」


周泰が包帯に斬りかかる。

明埜はかわすと周泰を蹴り上げ、下がる。


「孫策様!?大丈夫ですか!?」


「そのお怪我は!?」


二人は私をかばうように前に出る。

大丈夫、言いたいけれどこの状態は不味いかな。

心配する二人をよそにケラケラと笑いながら明埜は二人に告げる。


「オオウ、助ケテナンダガソイツ死ヌゾ~」


「戯れ言を!!」


「本当本当、ダッテ毒クラッテルシ。ソレデ動キマクッタカラ体中ニ回ッタダロウシ、モウ死ヌンジャネ?」


その言葉に遠くで最後の黄巾兵を射貫いた黄蓋が顔を青くし駆け寄る。


「策殿、早く陣営に戻り手当を!!」


だが私はそれを手で制す。

自分の体のことは自分でよく解っている。

私は……もう、間に合わない。


それを理解した三人は一瞬悲痛な表情になり、そして怒りに顔を歪め明埜を睨み付ける。

甘寧が堰を切ったように怒号を上げる。


「貴様ぁ!!」


斬りかかる甘寧。

だが明埜は自ら前に進み出て


ッザシュ!!


その刃を体に受けた。



「「「「っな!?」」」」


四人が驚きに声上げる。

確かに致命傷からはぎりぎり外れているがそれでも剣は深く切り込まれ深手の傷。

現に決して少なくはない血が飛び散り甘寧に返り血として降りかかる。

かわせない一撃ではない、先ほど周泰をかわしたことがそれを証明している。


だがその一瞬、その一瞬甘寧に隙が生じた。


明埜は素早く手を袖の中に戻し、再び現れる手には二本の手裏剣。

それに気が付いた甘寧、だが既にとき既に遅し。


明埜はそれを甘寧の脇腹と腕に突き刺した。



黄蓋が弓を穿ちそれが明埜の肩に命中。

更に追撃で放たれた矢も腹部に命中し明埜の体が揺れる。

甘寧は明埜を蹴り飛ばす。

周泰が明埜に迫り背中に収めた刀を一閃、斜めに明埜の体に深く切り込まれる。



くるくる自らの血をまき散らしながら明埜は吹き飛ばされ、大地に倒れ伏した。


だが蹴り飛ばした後甘寧はその場に蹲る。


「思春!!」


「早く孫策様同様に手当を……」







明埜は解っていた。

正面からでは絶対に勝てないと。

だからこそ毒を用いた。


そして援軍として三人の将が来たとき明埜は気が付いた。

俺では勝てないと。

既に周りの黄巾兵は掃討されている。

弓がいるのだから退くことは出来ない。

前のように逃げることなど出来ない

それ以前に逃げるなど許されない。


その時、波才の言葉が頭に浮かんだ。


「英雄を殺せ」


すでに敵の一軍と思わしき主は死に体だ。

いずれ死ぬ。

そして自分ではあいつらには普通では勝てない。

だから、一人でも多くの時代を築き上げる者達を殺そうと、自らの体を利用した。


一人、一人でもいい道連れにしてやる。


敵将に体を切り込まれ、死が意識を覆い被そうとする。

だが俺は嗤った。

目の前の敵将が唖然としていて隙だらけになっているのだ。


両手の手裏剣を突き刺す。


だがその次の瞬間衝撃が体に飛来した。

見れば敵の将が射たのであろう矢が肩に刺さっている。

さらに弓矢は俺の腹をも突き破る。


意識が飛びそうになる。


だが、俺は未だ手に持つ手裏剣を更に敵将に深くねじり込む。

一人でも、一人でも多く旦那のために道連れにしてやる。


さらに猫のように眼を細めた黒髪の女が俺に迫ってくるのが見えた。


あ、そういえば旦那って黒髪の女が好みだったな。

あいつが髪結んだら旦那喜んだんじゃ……でも俺が毒使った女も髪結んでたよなぁ。


何故だか解らないが俺はそんなどうでもいいことを考えた。

これから来る死を避けられるだけの力は既に無い。

自分が死ぬことは解っている。

あいつが斬りつけてそれでお終い。




そういえば、俺は死んだらどこに行くんだろ?

少なくともまともな所じゃないだろうなぁ。

いろいろやり過ぎたし。

きっと地獄とか逝くんじゃないか?




そうだ、最後だけ願いとかしてみるかね。



怒りの形相で刀が抜かれ、斬りかかる将を見ながら嗤った。




死んだら、俺と同じ所に旦那が来ないで欲しいね。



明埜は刀の一閃により肺、心臓、肝臓、重要気管を切り裂かれ絶命した。

体が舞い、吹き飛ばされて大地に横たわる。

死に際、彼女はとても悲しそうに笑ったことに誰も気が付かなかった。















「はぁ!!」


斬りかかるは曹操の将夏侯惇。

その一撃を美須々はいなし反撃。

既に激しい攻防が続いているのか彼女達の額には汗が浮かんでいる。


「ふぅ……強いですねぇ」


「お前こそ!!」


楽しそうに戦う夏侯惇とは逆に、美須々の表情は硬い。

時間が無いのだ。

死兵となった軍は確かに、確かに強い。

だが長続きはしない。

所詮農民あがり賊あがり、正規の訓練を受けた兵には勝てない。


なればこそ将を討ち取り、流れを呼び込む必要がある。

だが目の前のデコ女は強い。

一つ一つの剣が重く、まともに相手をしていては時間だけが過ぎていく。











……一手。

一手さえ打てればいい。

ただ一手。


勝てなくとも構わない。

私達は負けている、戦う前から負けているからこそ死兵になって戦っている。


あの方は、主は「英雄を殺せ」と言った。

私にはこの目の前で大剣を振るっているデコ助が英雄なのかは解らない。

だが曹操を支える猛者であることは解った。


私はここで死ぬ運命。

主と共にこの地に骸をさらし、弔われずただ朽ちていく。

だがこの女はこれからも時代を紡ぐのだろう。

武人として生きていくのであろう。


なら、この命捨ててでもこいつを殺す。

どうせ無いような命だ。

武人としての生命を殺してやる。










私は覚悟を決めた。


大剣が髪を撫で、大地を抉る。


私は隙を見せた。

それは致命的な隙。

ここを突かれれば武人としての私の生命は終わりを告げる。

今まで築き上げてきた武人としての美須々はこれから先生きられない。


だがそれがどうした?。

黄巾党の美須々は、血に飢えた美須々は死んでいないわよ?


その隙を見つけたのか夏侯惇は笑う。

愚かね。

作られた穴に喜んで飛び込んでくるなんて。


素早く大剣を引き戻した夏侯惇はその大剣を振り下ろした。



鈍い音。


骨が抉られ肉が切り裂かれ血の濁流が溢れる。


私の右腕は夏侯惇によって切り落とされる。


デコ娘は勝利に喜んでいるわね。

そうよね~だって腕を切り落としたんだもの。

もうこの腕は戻らない。

もう両手で主の手を取ることは出来ない。


だからって奪ってもいない命の皮算用するんじゃねぇ!!


吹き飛ばされた腕の持つ槍を空中で掴む。

私の腕だった腕から血の飛沫が頬にかかる。

それを見て夏侯惇は動揺する。

そりゃそうでしょうね。

普通は武器の持つ手を切り飛ばしたら終わりだもの。


波才の兵は普通じゃないのよ!!


その手に持つ槍を袈裟切りに一閃。

舌からすくい上げるような槍に流石と言うべきか武人としての本能か。

夏侯惇はとっさに身を退く。

だがこのチャンスを美須々は逃さない。

踏み込んで強引に槍の範囲内へと引きずり込んだ。


槍は夏侯惇の左目をえぐり取るように切り裂く。

苦痛に声を上げる夏侯惇だがもう片方の目は次こそ己を殺さんと迫る槍を明確に捕らえた。

剣ではその槍を薙ぎ払おうとするが美須々は槍を捻り大剣を大地へとたたき落とす。

スライドするように夏侯惇の左側へ回り込む。


今ままでなら親しんできた視界。

それが突然奪われた夏侯惇は自らの死角へと移動した美須々を捕らえきれない。


美須々は自分の姿を探す夏侯惇の首へ槍を突き出した。








「姉者!!」



だがそれは飛来した矢によって阻まれる。

唯一残った腕にその矢は命中。

これにより槍は虚しく夏侯惇の髪をかするだけとなった。


夏侯惇はその槍に呼応するかのように大剣を振る。

それによって美須々の武器である槍は中間辺りから切り飛ばされ、衝撃により美須々地震も吹き飛ばされれ、着地するも膝をつく。



「姉者その怪我は!?」


「春蘭様!?」



妹であろう女とその部下であろう鉄球を持った少女が夏侯惇に駆け寄る。


私は今の状況を分析する。

腕の出血は激しい。

既に血の何割かを激しい運動により失われたため今にも倒れそうになる。

激痛で上手く体を動かせない。



「春蘭!!」


「華琳様……」



あの夏侯惇が弱々しく様付けで呼ぶ……つまり主である曹操。

顔を上げるとそこには険しい顔をした曹操が私を睨んでいる。

これで四人、うち三人はそれほど疲弊しておらず、夏侯惇のような怪我もないと。

対して私は満身創痍。

今にも気を失う寸前。







……詰みか。



「貴方は確か波才の将だったわね。答えなさい、波才は今どこにいるの?」



私はその問いに笑って立ち上がる。

先ほど弓を放った青い髪の女と鉄球を持つ少女が警戒して構える。



「それを言う者が居ると?」


「そうね、なら貴方を捕らえて聞き出すわ」



私……ね。

この状態で聞けないことは曹操も理解しているだろう。

つまり助けるから主を売れとこいつは言っている。


私は声を出して笑った。


主を売るなどありえない。

あの方は死んでいた私に生を吹き込み、美須々という武人にしてくれた。

誰かに仕え、役目を果たす喜びを教えてくれた。


だが悔しいがこの状態では勝てない。

既に意識が遠くなりつつある。

これでは捕らえられる。

生きながらえてしまう。



私はその場に両膝をつき、槍を杖のようにすがる形になる。




その意味を理解した曹操が止めに入るように配下に指示を出すが……遅い。




先端が槍のようにとがった木に私は自分の首を突き刺した。




遠く、兵達の喧騒と物が燃える臭いが遠くに感じる。

黒く塗りつぶされていく意識の中、私は主と出会い、仲間と出会い、共に戦った日々が走馬燈のように頭をよぎる。




主、私は……幸せでした。

もし来世というものがあるのなら、私はまた貴方に仕えたく思います。




















「………」


「ええ、解ります。美須々と明埜は逝ったのですね」



空を見上げていた波才は静かに琉生へと呟いた。


二人の将星が先ほど流れ星となって堕ちるのを見たからだ。

だが同時に明埜の将星は一つの巨星と輝く将星を堕とし、美須々は巨星に寄り添う大きな将星の輝きに陰りを加えていた。


正しくはないのだろう。

間違っているのだろう。


それでも、それでも私はこれこそが正しいと信じている。


それが、例え誰も望まないものであったとしても。



「琉生、私はこれより張角様の偽装した遺体と共に逝きます。……解りますね?」



その問いに琉生はこくりと頷く。


波才の後ろにある陣幕の中には多くの木と何かが入った箱が見える。



波才は砦を見回す。

まだここまでは来てはいないが煙が多く空に立ち上っている。


そしてその中をかき分けて迫る一軍を見て笑った。


彼の周りを囲むようにかれに従い続けた修羅の兵達は無人の野にいるかの如くそれらを平然と見つめる。

綺麗に隊列し、動かない彼らはまるで彫像のようであった

琉生が彼らの前に躍り出ると手を高らかに天に上げる。

前線の者達は槍衾を行い、背後の兵は弓を構える。



そこに現れたのは劉備軍。

旗は関羽、張飛、趙雲。

ただの賊とは思えない陣容にその進撃は止まる。



「なんだこれは……」


「ただの賊……ではないようだな」


「すごいのだ……」



彼らの前に並ぶのは一つの陣を構成した軍と呼べる存在。

ひしひしとその軍から殺気が放たれる。

思わず彼女達は感嘆の声を漏らす。


そしてこれから起こりえるであろう戦いの予感に身を震わす。



だが、その軍は突然二つに分かれる。

そして歩み出てきたのは二人の人物。


一人は腕に布でぐるぐる巻きにした何かを持つ男、一人は両手に剣を持つ女。



「どうも、こんな夜更けにどうしたのでって趙雲さんじゃないですか」



突然自分が知っている名前をその男が呼んだことに驚いたのか関羽と張飛は男から視線を趙雲へ動かす。

その趙雲は苦虫を噛み締めたような顔で男を見ていた。



「やはり波才は……貴方だったのか。波才殿」


「どの波才か解りませんが黄巾党の波才は私ですよ」


そう言って波才は楽しそうに笑うが反対に趙雲の表情は以前厳しい。


波才!?

その悪名高き名前に驚き思わずその名前を呼んだ趙雲を関羽と張飛は見るが、彼女は未だ厳しい視線を波才へと向けている。

声高らかに笑う波才に怒りをあらわにした趙雲は咆える。



「何故だ!?何故貴方ほどの武人が賊の如き狼藉を働く!?」


「貴方はどうやた私という者を計り違えたようですね。私はこんな人間だった。武人ではなく血に飢えた獣だった。ただそれだけの話です」


「……ならばあの時、殺すべきであったか」


「おやおや……殺せたのでしょうかね?」


「……もう、逃がしはしない。張角もろともお主を討つ」



決意を新たにした趙雲。

静かに槍を構える。



「後から教えてもらうぞ、星」


「隠し事はいけないのだ」



先ほどから二人の会話について行けずに眺めていた関羽、張飛は不満そうであった。

二人の将も各々の得物を構える。

そんな彼女達が発する歴戦の武人の殺気を飄々と受け流す。

そして口を開き、波才が喋った言葉は彼女達の動きを止めた。



「張角様は病故に先ほど逝かれました」



その言葉に三人は電流が走ったかのように固まる。

波才は布に巻かれた何かを見た後女達を見る。



「この方がそうですよ」


そう言って目で促したのは波才が抱える布の塊。

それを関羽、張飛、趙雲も同じく目で追う。

関羽は挑発的に笑う。



「そうか、お前が持つその布の塊か……ならばそれとお前の首をもらう」


「おやおや、物騒なこと言いなさる」



関羽の言葉に笑う波才。

それに激昂し口を開きかけた関羽だったが……。

唐突にその笑いが不自然なものであることに気が付く。

関羽をあざ笑うものではなく何かの覚悟を決めた笑い。

そう解っても関羽はその意志を計りかね、口を閉ざし踏みとどまる。



「ならばどちらも渡しません」



どこまでも平坦な声。

まるで「おはよう」「さよなら」というような抑揚が無い声。

だがそれは何故か彼らの耳に残り、体中を駆け巡る。

波才は振り返ると背後の陣幕の中に入っていく。

それを追いかけようと関羽が号令をかけようとした瞬間。



激しい音が大気を伝わり砦中に伝わる。

見れば先ほど波才が入っていった陣幕が激しく燃えている。



「「「っな!?」」」」



それを理解した瞬間三人は再度固まった。

おそらくは中に予め燃えやすい物を入れていたのであろう。

そして先ほどの爆発は火薬も積んでいたことになる。


波才が入ってすぐに爆発したため逃げる時間など無い。

おそらく生きてはいないだろう。




呆然とする関羽、張飛、趙雲。





「主に……続け」



静かな、されど力強い声。

はっとして三人が見ればそこには敵意を持ち、劉備軍を睨み付ける軍勢と先ほど波才と現れた女の武人の姿が在った。



「どうやら……終わりではないようだな」


「ああ、この軍氣。やはりこやつらはただの黄巾兵ではない」


「さっきのはさいの軍なのかもしれないのだ」



その言葉に関羽と趙雲は先の男の姿を思い浮かべる。

底が知れない男だった。

どこまでも不思議な目をした男だった。



「官軍に無敗、さらには曹操軍と引き分ける存在か……」














琉生は手を上げる。

その目には涙。

涙が頬を伝い地に落ちる。

それは兵達も同様であった。

皆目から涙を流し、殺意を武器に込める。


その光景に敵軍は驚いているようだ。




背後には墓標がある。


名は刻まれてはいない。


なんの供物も供えられることはない。


だが、それ以上に琉生に、波才の軍に力を与える物はなかった。



琉生は思い出す。

主と出会った日のことを。

主と歩いた物語を。


そして静かに眼を細め、劉備軍を見る。


波才の残した獣達は待っている。

その役目を最後に渡されたのは自分だ。


仲間を脳裏に思い浮かべる。


美須々は馬鹿だったがまっすぐだった。

どこまでもまっすぐで最後まで自分で在り続けたのであろう。


明埜はきっと恨まれながらも主の言葉を守り、その命を遂げたのであろう。

最後まで最後まで戦い続けたのだろう。








天に向かって上げていた手を今劉備軍へと振り下ろす。


堰を切ったように駆け出す波才の軍。


「大丈夫、直ぐに僕も逝くから」


そう呟き琉生は自ら先頭となって劉備軍に切り込んだ。























少女は草原立っていた。


どこまでも、どこまでも広がる緑の草原。


唄うことを忘れた少女は立っていた。


少女は後悔していた。


出会わなければ良かった。


出会わなければあの人は死ななかった。


でも出会わなければ私はあの人を愛せなかった。


出会わなければあの人と過ごした日々を感じることはなかった。


沈みかけた夕日。


日の匂いを感じる。


それは消えていった者達が残した言葉のように少女は思えた。





「波才さん……」



その呟きは誰にも聞かれることも、聞こえることもなく夕日へと消えた。






■□■□■□■□■□■








「へ~これはまた面白いわね」



「それで納得した?満足した?」



「そう……まぁいいんだけどね。でもこれは貴方が作った外史じゃないのよ?『波才が作った』物語なのよ?」



「あらもう帰るの?じゃ、暇になったらまた来てみたら。その時は他のオススメの外史を教えて上げるから」


























「ん?何?また来たの……って貴方も来たの?今日はよく人が来る日ね」



「え?貴方もこの外史を見たいの?」



「面白くないかもよ?貴方の望む外史ではないかも知れないわよ?だってこの外史は『出来かけ』なんですもの。未完成なんだから」



「それでも見るの?」



「ふふ……そう。貴方は物好きなのね。いいわ、貴方が『構わん、やれ』って言うんなら一緒にこの外史を見ましょう。どうなるのかしらね」



「ちょっと私にも見せてくれないかしら?私も興味あるのよ」

本編書けないので番外編的な感じです。


前回後書きで再来週と書きましたが思ったより携帯って書けるんですね。

でも二度と携帯では書きたくないです。

目が……目が痛い。

そして携帯で書いたものなのでいつも以上に文章がおかしいかも……。


いつも文章はおかしいのですけどね(泣)

本当に上手く書けるようになりたいなぁ。


取り合えず波才がBADエンドしか思い付かない、これ波才死ぬんじゃない?

波才が他の軍で働くなんざマジあり得ないという人向けに作りました。


作者はBADエンドでは無くこれも一つの終わり方と見ていますがどうなんでしょう?


作者はこれからいろいろとぶっ飛び、波才もいろいろとぶっ飛びますがそれでも『構わん、やれ』って言ってくれる心が広い方々はこれ以降もお付き合いしてくださると嬉しいです。





そしてパソコンが帰ってきました。

ですが相も変わらず恋姫などのソフトを起動するとブルースクリーンに……またPC修理に出すことにしました。


いや、本編書きたいんですがorz

本編は恋姫とか資料とか見たりしないと会話に違和感が……あれ?

普通の文章も違和感バリバリのあれだから関係ないかと気が付いた作者は所詮、あれな作者ですorz

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