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黄巾無双  作者: 味の素
黄巾の章
15/62

第十一話 されど黄天は龍と踊る

結局のところ、最悪の不幸は決して起こらない。

たいていの場合、不幸を予期するから悲惨な目に会うのだ。


~バルザック~




「馬鹿な・・・順調に事が運んでいたではないか。全てが主にの思い通りに」



静寂が美須々の声により破られた。

おそらく誰もがそう思っている。

誰もが勝利を疑わなかった。

誰もがこの策は成功すると思っていた。

それは私自身も例外では・・・あ、それフラグだったか。

さっきまでそれっぽいこと言いまくってた気がします。

逆に立てすぎて何もないとかだったら良かったのになぁ・・・。


うまくいきすぎると碌な事がない。

思わず頭を力任せに掻き毟ります。

ああ、滑稽ですね。

まるでピエロじゃないですか。



美須々が信じられないと明埜のことを見ている。

・・・ですがこれはもはや起こってしまったこと。

今はそれを否定するよりも現実を見て行動すべきです。



「全テハウマク事ガ行ッテイタヨ、旦那ノ読ミ通リ皇甫嵩ガ来タ。ソレニ奇襲ヲカケテ、アノママ行ケバ全テガウマクイッテイタ・・・」


「ならば、ならば何故!?」


美須々が声を荒げる。

おかげで周りの兵にも動揺が広がっていく。

我を見失っていますね。

これは減点1です。


「美須々」


落ち着いた声で、諭すように呼びかけます。


「あ・・・申し訳ありません。」


私の声により正気を取り戻しましたね。


将たる者がその有様では兵にも動揺が伝わります。

さらに混乱に拍車をかけてはなりませんよ。

冷静に物事を今は見極めなければなりません。


それが伝わったのか美須々は歯を噛み締めて激情に耐えているようです。



「続きを」


私が促すと明埜は口を開いた。











「劉備ダ。劉備ノヤツガ参戦シテキヤガッタ」


劉備ぇ・・・。

・・・そうですか。

盲点でしたねぇ。

忍びをこの度の戦のために彼女たちから一時的に外したのが不味かったか。

劉備は拠点を持たない。

だからなおさらのこと注意しなければならないというのに。

・・・失態です。


私達が反乱軍のために起こる問題。

それはこのような突然の乱入者だ。

国として一国と戦うのとは違う。

黄巾党は常に多の者達と戦う。

もちろん情報を集めていて入るのだがどうしてもこのようなことは起こってしまう。

特に劉備のような根無し草には目を常に光らせるというは決戦に向けて動く私達には無理なのだ。

国という形態ならば人材を育成、つまり間諜の数も増やせるのだが・・・。

まぁご存じの通り私達以外はあれなんですよね。

余裕もないですから。


・・・つらいですね。

黄巾党という反乱軍の立場は。














~明埜 過去視点~


旦那の言うとおり無様に撤退中の将軍様がいらっしゃったようだ。

これは手厚いお出迎えとしてびっくりな宴を開いてあげるべきだろうなぁ。

それこそ喜んで思わず滑稽な踊りでも踊ってくれるような、ね。


頬が歪んで含み笑いを漏らす私に怯えてか、周りの黄巾党は一歩彼女から離れる。


さてと、そろそろ行くかねぇ!!


手を高らかに掲げる。


そして


目の前の官軍に向けて振り下ろす。


それを確認した者達がこぞって官軍に突撃した。

銅鑼の音が当たりに響き渡る。


おおう、いい感じに混乱しているな。

そりゃぁここまでくりゃ安心っつう所で敵さんがでてきたらそうなるわな。

中心にいる将はまとめ上げようと必死になっているがこの状況をとっさにまとめ上げるのは神様でもない限り無理だな。


あ?神なんざ信じちゃいねぇよ。

つまりあいつらは終わったっつうこった。


右往左往している軍へ食らいつく獣達。

彼らに陣形などというものはない。

ただ思うがままに貪り喰らうのみ。

普段のあの官軍ならば負けるだろうがここまで仕立て上げられた状況ではただの獣にすら蹂躙されるだろう。


さあて、高みの見物と行くかね。

俺は見渡しがいい場所へと移動すると、腰を下ろした。

あんな危険な乱戦状態の所にはいたら命が足りない。

旦那もこいつらはどうなってもいいがお前達は無事に帰れといってたしな。

自らが認める主の、子供に注意を促すような顔を思い出してた彼女は、苦笑をしながら戦場を見る。


さすがは名将が率いる精強な軍。

がんばって耐えてはいるねぇ。

あくまで耐えているだけだけどな。

そこに穴が開いた船と同じだ。

どんなにあがこうがいずれかは沈む。

沈む瞬間が面白いんだよなぁ。


楽しそうに笑いながら終わる時を彼女は待ち望んでいた。


だが。










風が変わった気がした。



なんだこの感覚は。

体が震え、全身に冷水をぶっかけられたような冷たさと不快感。

汗が額に浮かび、包帯にしみていく。

明埜は辺りを見回す。


少なくとも俺にとってはいい風じゃない。

不愉快だ、不愉快きわまりない透き通るような風。

こんな嫌な風は……畜生、なんだってんだ。

何が起こりやがった?


どこだ。



そう思い目を懲らすと、見れば遠くから土煙が見える。

顔を前に突きだし首を出来る限り伸ばす。

軍だ。

おこぼれをもらいに来た同胞か?

いや、ここまでくるのか。

他で手一杯のはずのやつらがわざわざ援軍に来るなんざありえない。


更に目をこらす。

頭に俺達の目印である黄巾の布が付けていない。

となるとやはり敵か。

官軍か?




旗は・・・。


おいおい。



「クソッタレガ・・・最悪ダ」


思わず声に出しちまった。


くそったれた風に靡く旗の文字はさらにくそったれた字だ。

こいつはなんの冗談だ?




『劉』



劉の性でここいらで軍を率いる奴らなんざこの大陸には一人しかいない。

あの旦那が危険性を曹操と同様に扱うほどの将。



劉備



そう解った瞬間、私は高みの見物を止めて戦場のど真ん中に向けて崖を駆け下りる。

土埃が体中をなめ回すがそんなこと気にしてる暇はない!!

あいつらはバケモノだ。

倍以上の敵を策と武によって押し返す。

それも義勇軍だぞ、訓練期間も長くはねぇ農民を実戦投入して勝ち続けるなんざ馬鹿げてやがる。

あいつらの将がこの戦に参戦すれば天秤が官軍の連中に傾く。


そうなる前になんとしても敵将を討ち取らねばならない!!

事情は解らないがこの軍の将達に旦那はいい顔をしていない。

ここまで仕組んでまで旦那はあいつらの首を望んでいる。

ならばそれを持って行ってやりてぇ!!

旦那の配下として、将として!!


戦場を走る。


旦那は怒るだろうなぁ。

いざというときは逃げろっつってたし。

だけどな、せっかくここまで旦那が作り上げたものをぶち壊されてたまるかよ!!


すれ違いざまにこちらに向かってきた兵の首に手裏剣を投げる。

不愉快な音と共に首に手裏剣がそそり立ち兵は絶命。

崩れ落ちる兵を足がかりにして飛翔する明埜。


見れば既に劉備の軍が交戦中。

遠くに『劉』の旗がいらつかせるほど自己主張してやがる。

しかも黄巾党を押し返してきてる。


まだ押し返してきてるぐらいだが、いずれはその壁すらも決壊して官軍の将を討ち取る機会を逃すことになる!!

それだけは・・・



「(ソレダケハ旦那ノタメニモ許スワケニハイカネェンダヨ!!)」



走る。


走る。



そしてついに彼女は見つけた。


馬に乗り黄巾党と自ら戦う気色が違う人間を。


すぐさま袖から手裏剣を出し、投擲その手裏剣は敵の首へと迫る。

死の軌道を描きながら飛翔する死神に将は気が付く、が。

気が付いたみたいだがおせぇ!!

既に手裏剣は官軍の将がいかなる行動でも避けられない位置にあった。

絶望に将の顔が染まる。



「(獲ッタ!!)」










「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


だがその手裏剣は突如現れた黒髪を横に結んだ少女によってはじかれた。


「ッッッッッチィ!!」


再び数本の手裏剣を投擲。

それは黒髪の少女へと迫る。

だがそれを少女は難儀しながらも全てたたき落とした。


だがここで黒髪の少女は気が付く。

自分へと向けられていない二本の手裏剣が彼女の横を通り過ぎたことに。


そう、黒髪の少女へと向けられた数本は囮、真の目的は己の主が望む首のみ!!


二本の手裏剣が官軍の将へと飛来。

官軍の将はまさか自身に向けてとは解らず剣を振ろうとするが既に時は遅い。

彼の首にそれがそそり立つかと思われた、が。



「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


小さき体の全身をばねにして飛び込む赤き影。


それはその二本の手裏剣を長き槍にてたたき落とした。


着地。


その小さき少女は赤き髪、その身長にあわぬ巨大な蛇矛を持っていた。



明埜はその容姿、武器から彼女たちの正体が解った。

それと同時に彼女は自分の不利に歯を噛み締める。


黒髪の少女は関羽。

赤髪の少女は張飛。


劉備の双璧である誉れ高き武人。



「愛紗!!そこの包帯なのだ!!」


「ああ、行くぞ!!」




「(本当ニクソッタレガ)」


明埜は実力では彼女たちに勝てないと理解している。

琉生、美須々に正面から勝てない自分ではとてもじゃないが関羽と張飛の双璧を抜くことは出来ない。

理解している、しているのだがそれを認めたくはなかった。

ここまで・・・ここまで来てと。


彼女は決断に迫られていた。

だがその答えはそもそも一つしか存在しない。

どんなに悩もうが、どんなに苦しもうが選択はもとより一つしかないのだ。

だからこそ一刻も早く、この場を逃走しなければならない。

その現実に歯が砕けそうなほどに噛み締める。


二人の猛将が明埜に迫る。

だが明埜はそこらにいた官軍の兵を体勢を崩して掴み、迫る関羽と張飛に投げつけた。


「な!!」


飛来する自らの配下。

まさか味方を切るわけにもいかず二人は素早く二手に分かれる。

その間に張飛には手裏剣の応酬を浴びせ、、またも近くにいた官軍を投げつける。


「にゃぁ!?」


手裏剣を避けたために体勢が崩れていた張飛は転倒。

激しい土煙を上げて転がる。


「鈴々!!」


思わず愛する姉妹へ声をかけるべく振り向いた関羽。

だが明埜はその隙を逃さない。

またもや袖から手裏剣を取り出し投擲。



その隙に明埜は逃亡するべく走る。


関羽がその手裏剣を捌き、殺さんと見れば目の先には既に誰もいなかった。



走る明埜の口は血で濡れていた。

敵からの傷ではない。

己の歯で唇の皮を食い破っていた。

目には怒り。



「ックソッタレガァ!!」



異質な声が戦場に響き渡る。


その一刻後。


その場に黄巾の布を巻いた者は誰一人として立ってはいなかった。









~波才 side~


「旦那・・・スマナイ」


跪く明埜の姿は頼りなく、肩は震えている。

明埜は私の部下であり、明埜にとって私は主だ。

だが彼女が私に抱く感情にまた別の感情が含まれていることを私は知っている。


それは必要、求められる存在でいたいという思い。


彼女の声は異質だ。

初めて私と会った時に彼女から発せられる怨嗟の声を聞く限り、彼女は生まれてから常に疎まれ続けて来たのだろう。

そして彼女が私に向ける目の中に親への愛情を求めるようなものを感じる事もあった。


私は馬を下りて明埜へと近づく。

唇を噛み締め、血を流した跡があった。


悔しかったのだろう。

信じられたのにその求めを果たせなかったことが。


怖いのだろう。

果たせなかったことで見捨てられ、また一人として生きていくことが。


光を知ってしまった人間はもう闇には戻れない。

例え闇に落ちても光を求め続ける。


私は明埜の頭に手を置き撫でた。


明埜はとても驚いた表情を浮かべて私を見る。


「よく・・・無事に生きて帰ってきてくれましたね」


「スマナイ・・・」


「貴方はよくやりました。この件はどうしようもなかったのです。それに彼らに多大な損害を与えたのは明埜達のおかげなのですよ?必要以上の戦果を求めるのは欲が深いことです」


私は明埜の頭を撫でる。

彼女は目を伏せて震えていた。

私はその震えが収まるまで彼女をなで続けた。








全てが終わり、私は今陣幕の中にいる。

明埜は休ませている。

誰も彼女を責める者はこの隊にはいないのだが……明埜自身の気持ちの問題なのだろう。

そればかりは例え私が何を言おうがどうしようもない。

明埜が自ら解決するしかないのだ。




劉備は下手に手を出すのは危険と感じたのか私達の所には進軍してこなかった。

いくら敵を討ち果たしたとはいえまだ私の部下達はあの場にはおらず、兵は万全。

そこに感じるものもあったのだろうか。

それにどうやら偶然に居合わせてしまった可能性が高い。

聞けば劉備の行動にここへ来るという情報の類はない。

つまり偶然。

だとしたらただでさえ無かった怒りのやり場をさらに失ってしまう。

明埜は良くやった。

戦果は十分だ。

官軍は多大な被害を受け撤退し、将一人を討ち取った。




それに厄介者を全員殺してくれたと考えれば劉備に感謝すらしてもいいのかもしれないが。



「ハァ・・・」



私はため息をつきます。


戦に勝って勝負に負けた気分ですよ。

おそらく彼を討ち取れば黄巾党もまだまだ戦えた。

私は黄巾党の終わりを見たくは無かったのかもしれない。

最後に負けてしまうという運命に抗いたかったのかもしれない。



天には蒼天が輝くか。

そう思い空を眺める。




「(この世界にも黄天は昇ることはできないのか)」


そう思う私の目から涙がこぼれ落ちた。















「今私は何を思った」



思わず自分の口に手をかぶせる。

今流した涙の意味に気が付いた私は呆然と立ちすくんだ。

誰か……作者にシリアスを、文才を書く力をください。

万年国語がB(中の下)な作者はいっぱいっぱい!!


そして忙しい……すごい忙しい。


ただでさえ小説の皮を被ったこの作品がもはや作品とも呼べぬ異物に変わりつつある頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか?


私は花粉症でノックアウトです。

秋とか道に生えるブタクサ(花粉の素)を見るとモヒカン兵並みに燃やしたくなります。

あれ道に麻薬放置してるのと同様に危険ですって、いや本当に。

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