番外編 とある過去~声~㊤
これからさらにゆっくりになる気がします。
どうかお慈悲を。
今回は前書いたとおりにオリキャラである彼女の過去話的な物を書いてみました。
作者のシリアスの書けなさを改めて自覚。
私は何の変哲もない普通の農家に生まれた。
両親は私が生まれてたいそう喜んだが、その喜びはすぐに驚愕と恐怖へと変わった。
「オギャァァァァオギャァァァァァ」
その産声は普通では無かった。
異質であり異形。
まるで化け物が上げるが如き甲高く、不愉快な声。
その場にいた全員が怯えた表情をし、私を産んだ母さえ余りの驚きに気を失った。
母は私に乳を与えることを嫌がった。
「いやよ!!なんでこんな化け物に!!」
「この子は私達の子供だぞ!?なんてことを言う!?」
「私達の子供?巫山戯ないで!!こんな化け物が私の子なわけないじゃない!!きっと魔物に取り憑かれているのよ!!」
「・・・例えそうであろうと私達の子に違いない。愛情を注げば」
「貴方だってこの子を産んだことを後悔しているじゃないの!!知ってるのよ、貴方がこの子の存在を下手に周りに広げないようにしているのをね」
「それはこの子のために・・・」
「嘘よ!!」
そう言って妻は机を叩く。
「貴方がこの子を見るときの目は哀れみじゃない、恐怖よ!!この子が将来どうなるか怯えているのは貴方じゃないの!?」
私を巡っての言い争いが絶えなかった。
だが乳を与えないと私は泣いた。
その声が知られるのを嫌がった母は渋々私に乳を与えた。
8才。
普通なら外で遊ぶ年頃だが、あいにく私は普通では無かった。
母と父は私を外へ出すのを嫌がった。
私は窓から同年代の子供が楽しそうに走り回るのを見ておもわず母に問いかけた。
「ネェ、オカアサン」
「な、なに?」
無理に笑いを作る母。
「ドウシテワタシハミンナミタイニソトデアソベナイノ?」
「そ、それは貴方の為なのよ。しょうがないことなの」
私は子供心に納得した。
おかあさんは私を守ってくれているんだと。
実際は自分たちを守るためだったが、子供の頃の私は父と母が私を愛してくれていると思っていた。
疑うことを知らなかった。
だが
「もう嫌よ!!あの子の相手をするのは!!」
「耐えてくれ・・・あの子が出て行くまでの辛抱だ」
「あの子がいるせいでいつ村の人たちにあの声を知られたらと気が気でならないのよ!!おかげで満足に外に出られもしない!!」
「仕方がないだろう!!あんな子でも私達の子供なんだ!!私達が育てるしかないんだ・・・」
見てしまった。
深夜に私のことで言い争う両親を。
私は呆然とした。
何も考えられなくて頭が真っ白になってふらふらと自分の寝床に着いた。
寝床に入っていてもさっきの両親の会話が頭から離れなかった。
一つの考えが私の胸の中で渦巻く。
それを否定したかった。
だけど・・・。
お父さんとお母さんは私を愛してくれていないの?
「ネェ、オカアサン」
母が疲れた顔で椅子に座り、私を見る。
「なに?」
声が不機嫌で、お前は私に話しかけるなと言っているような気がしてあの考えが頭をよぎる。
それでも私は聞いた。
止めれば良かったのに。
そうなることが解っていたのに。
「オカアサンハ、ワタシガ・・・キライナノ?」
その瞬間母の顔が鬼のように変わった。
椅子から立ち上がると私に近づきその両手を私の首にかけた。
「グウゥ!!」
「あんたが・・・あんたが悪いのよ!!」
「オ・・・カアサン・・・ヤメ・・・テ・・・」
「あんたが私をお母さんなんて呼ぶなぁ!!!」
更に私の首を母が絞める。
「あんたさえいなければ・・・あんたさえいなければ!!」
既に私の顔は青く呼吸が出来ない。
それでも母は私の首を絞め続ける。
もう死ぬんだ。
そう思った時、
「何をやっているんだ!?」
父が私と母の間に割って入って母を押さえる。
「あなた!!離して!!この子を殺すの・・・殺すのよ!!」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ!?」
母は殺意のある目で私を見続ける。
私はなんで母がそうなったのか解らなかった。
ただ、謝らないとと思い、謝ろうと声を出す。
それが更に母の気持ちを逆なでするとは知らずに。
「ゴメンナサイ、ゴメンナ」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
母の叫びに声を引っ込める。
「お前の声を聞くだけに不愉快になる!!なんで?なんで普通の子に生まれてこなかったのよ!?そうなれば今頃は私達がこんな苦労することはなかった!!こんな辛い思いをすることはなかったのに!!」
一つ一つの声が心に突き刺さる。
もう私の心は既に壊れそうだった。
「お前なんか・・・お前なんか」
「おい、やめろ!?」
父が何か嫌な予感を感じたのか母を制止する。
だが母は思いをぶちまけた。
「生まれてこなければ良かったのよ!!」
そう言って母はその場に泣き崩れた。
世界が止まった気がした。
涙を堪えきれなかった。
私は泣いた。
誰かに慰めて欲しかった。
誰かに助けて欲しかった。
その時、父が動いた。
もしかして私を慰めてくれるの?助けてくれるの?
そう甘い考えが私をよぎった。
だがそれは私に対してではなかった。
母に父は近寄ると抱きしめ、一言。
「すまない・・・」
そう母に言った。
私は呆然と、立ちすくんだ。
涙は止まった。
涙の残りが頬を伝いこぼれ落ちていく。
真っ白になった頭で私は理解した。
私は愛されてなんかいなかった。
私は
私はいてはいけない、いらない子だった。
それから私はいろいろがんばった。
がんばれば、すごいことをすればきっと褒めてくれる、愛してくれるに違いないと。
声は出すことを止めた。
出せばますます嫌われるから。
そのためか外に出られるようになった。
それから私は家の手伝い、狩り、魚釣り。
いろんな事をした。
だが母と父が向けてくる視線は常にいらないものを見るような目だった。
12才になったある日、いつも通り狩りをしようと森の中に入った。
そしたら何やら見られてるような気がした。
振り向くとそこには黄色い体躯、鋭い牙、獰猛な目と声。
大きい虎がいた。
だがその時の私はこう思っていた。
今までの狩りをしたのはウサギやら魚やら小さいからダメだったんだと。
こいつを仕留めればお母さんとお父さんはきっと褒めてくれると。
「「・・・」」
彼女の両親は何も言葉を発することが出来なかった。
何故なら、自分達が見てることが信じられなかったからだ。
目の前には体長2メートル程の大虎が目や体中から血を流して息絶えている。
そしてその隣には自分たちが忌み嫌う子が土まみれで立っていた。
「・・・お、お前がこれをやったのか?」
コクッ
私は頷く。
褒めて欲しかった。
すごい、よくやったと。
怒って欲しかった。
何でこんな馬鹿な事をしたんだと。
心配して欲しかった。
怪我はなかったか、大丈夫かと。
「ば、化け物!!」
だが彼女望んだどれでもなかった。
母は顔を引きつらせ一歩、また一歩と下がる。
父ももはや顔に恐怖の表情を浮かべて立っていた。
虎を引きずる姿が村人に見られたことで彼女は村人にも忌み嫌われるようになった。
声が異質であり、化け物のようだ。
虎を殺したのに傷一つ無かった。
彼女は村を歩くたびに避けられ、嫌われた。
両親も彼女を避けるようになった。
近づくと軽い悲鳴を上げ、恐れた。
彼女は孤独だった。
恨んだ。
己の声を。
これさえなければ私は愛された。
これさえなければ私は幸せだった。
これさえなければ私は。
私は。
その年彼女に妹が出来た。
それは自分のようにおぞましい声を発さず、普通の子であったためたいそう母は喜んだ。
父も顔を綻ばせ自分の子に笑いかけた。
私も妹を見たくて近寄ったが、母親が私を見た瞬間妹を手でかばい、私から離れた。
父もそんな母と私の間に入り、私を恐怖の目を浮かべつつも睨み付けてこういった。
「妹に近づくんじゃない」
両親は妹までが私と一緒にいたら私みたいになってしまうと思っていた。
もう、私の居場所はこの村のどこにも無かった。
一度誰もいないときに寝ている妹に近づき、頭をなでたいと思ったが母に見つかった。
母は包丁を握りしめて言った。
「あの子に近寄るんじゃない!!」
私はその場を静かに離れた。
後ろでは母が妹を愛しそうに眺め、頭をなでて
「貴方は私達の唯一の娘。きっと守ってみせる」
そう言っていた。
うらやましかった。
妹は自分がどんなに努力しても、望んでも手に入れられないモノを何の苦もなく手に入れていた。
両親の愛情というもの。
私には手に入らないモノを。
18才になった。
私が狩りから帰ると村は燃え、真っ赤に染まっていた。
自分の家へ走った。
途中何人もの村人が倒れて息絶えていた。
だがそんなのはどうでもいい。
母さんと父さんは、妹はどうなった?
家は燃えていた。
家の前には、妹をかばいながら死んでいた母さんと父さん。
あの妬ましいとさえ思えた妹も弓矢で死んでいた。
結局私はこの人達に愛されることはなかった。
妹は死ぬまで心配され、死んでいった。
もし私だったら?
決まっている。
私を置いて逃げていくだろう。
私はいらない子なのだから。
涙が頬を伝った。
「な、なんだてめぇは!?」
目の前には私の村を襲った賊がいた。
私は復讐の思いなど無かった。
ただ、奪われた気がした。
自分が手に入れたいと思ったものを手に入れる機会を。
それは例え両親が生きていてももらえなかっただろう。
あれ?
・・・何故そう解るのに私はこんな事をしているの?
ああ、そうだ。
解っていた。
ならば・・・何故?
これは復讐ではない。
では、何故だろう。
・・・ああそうか。
私は呪っていた。
この世界を。
恨んでいた。
両親を。
妹を。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
ああ、笑える、
なんて馬鹿な話だ。
なんだ。
そうだったんだ。
愛されたくなんてなかったんだあんな屑共に。
ああ馬鹿らしい。
なんて愚か者だ自分は。
いらないものを今まで追い求めていたのか。
なんて。
なんて。
なんて滑稽で愚かなんだ。
知らず知らずの内に私はまた泣いていた。
だけど悲しいとは思わない。
この涙はなんなんだ?
まぁいい。
こいつは私の恩人だ。
そのことに気づかせてくれる機会を私に与えた。
それ相応のお礼ってやつをくれてやる。
賊の頭は怯えている。
彼の仲間は何十人かいたが全て殺した。
自分は異質な声で笑っている。
まるで自分の誕生を祝うかのごとく。
「アリガトナ」
「な、なんだと!?」
「オ前ノオカゲデ私ハ…俺ハ」
そう言うと私は賊から奪い取った剣で賊の胸を貫く。
血が自分の剣を伝い手に当たるのが感じる。
なんて心地よく、温かいのだろう。
崩れ落ちる男を後目に私は歩き出す。
彼女は嗤っていた。
空が曇り、雨が降る。
虫の鳴き声が徐々に消えていく。
彼女は歩く。
雨に濡れ、服はびしょ濡れ。
髪も、顔をびしょ濡れ。
彼女は歩く。
「クソッタレ・・・」
去り際に彼女は言った。
それは雨に向かって言ったのか、それとも。
その言葉の意味は誰も知らない。
あるいは彼女自身も知らないのかも知れない。
だがその言葉を聞くものは誰もいなかった。
雨が降り続ける。
次回で彼女の話は終了です。
作者の技量ではこれが精一杯。
うまく感情移入が出来るキャラになったらいいのですが。
最近眠いですね。
春が近いですね。
でも不眠症なのか眠れません。
安眠枕とか買ってみようかなぁ。