05-平穏からの不穏
森で暮らし始めて、もうすぐ二ヶ月くらいになる。
この世界に季節があるのかは分からない。
だが、空気は涼しく、時折ひやりとした冷気が混じる。
雨も雪も極端ではなく、穏やかな気候だ。
正確な日数は測れない。
それでも感覚的に、時の流れは前の世界とよく似ている気がしていた。
日の出と共に目覚め、木の実を食べる。
朝露の残る森を歩き、鑑定で動植物を調べる。
昼頃には川へ向かい、魚を捕らえるために魔法の練習。
捕まえた魚は収納し、夜に食べる。
日が落ちれば眠る。
実に、森に染まった生活だ。
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拠点にしているのは、小さな洞穴。
最初に魔法で木の実を手に入れたあの日、偶然見つけた。
大きすぎず、小さすぎない。
変身が解けても問題ない広さ。
入口が開けたままだったので、植物を操って簡易の幕を作った。
外からはただの茂みにしか見えない。
我ながら、よく出来ている。
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変身が解ける瞬間も確認した。
川辺で水面を眺めていると、身体を覆う何かが剥がれ落ちるような感覚があった。
次の瞬間。
頭から光がすべり落ちるように、猫の姿がほどけ――
人間の私が現れた。
前の世界より、一回りほど若くなっている。
裸になる、と身構えたが、違った。
首に下げていたネックレスがほどけ、衣服へと戻っていたのだ。
……なんとも都合がいい。
それ以降は、その感覚が来る前に変身をかけ直している。
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魚の捕獲も工夫した。
泳いで捕ることも考えたが、流される危険がある。
だから魔法を使う。
植物で編んだ網を川辺に設置し、
土魔法で流れをわずかに変え、
水魔法で魚を誘導する。
効率的で、安全だ。
随分と楽をしている気もするが――
充実した猫生活だと思う。
このまま、こんな日々が続けばいい。
そう思った瞬間。
胸が、ちくりと痛んだ。
なぜだろう。
失ったものを思い出したわけでもないのに。
小さく首を傾げた、その時。
――キンッ……!
静かな森に、鋭い金属音が響いた。
鳥たちが一斉に飛び立つ気配。
風が、わずかに血の匂いを運ぶ。
遠くない。
何かが起きている。
平穏を裂くその音に、躊躇いながらも――
私は、音のする方角へ走り出した。




