27-薬の正体
部屋の前までたどり着いた。
カトレアさんが扉を開けると、外にも漂っていた薬草とアルコールの匂いが、さらに濃くなる。
カーテンの閉められた暗い部屋の奥。
ぼんやりとした照明に照らされたベッドが見えた。
近づき、傍らに置かれた椅子へ飛び乗る。
そして覗き込むと――
そこには、窶れ、憔悴しきった女性が横たわっていた。
「……その方が、セラフィーネ様です」
カトレアさんが静かに告げる。
「半年ほど前までは、訓練所の騎士たちに魔法の指導をなさったり、魔物討伐にも参加されるほど、お強くお元気でいらっしゃいました」
「ですが、時折不調を訴えるようになり……三ヶ月前、突然倒れられたのです」
「それからは、起き上がることも難しくなり……今では、このような状態に」
「……御美しかったお姿も、こんなにもか細くなられて……」
説明する声が、かすかに震える。
後ろに立つ二人を振り返ると、どちらも沈んだ表情をしていた。
……それはそうだ。
カトレアさんにとっては、憧れ、背中を追い続けてきた人。
テオドールにとっては、母親。
その人のこんな姿を、平然と見ていられるはずがない。
私はセラフィーネ様へと向き直り、改めて様子を観察する。
見た限り、窶れている以外に外見上の異常はない。
……けれど。
部屋に入った瞬間から、より強く感じる。
この感覚は――間違いない。
確信を得るために、「鑑定」を行う。
人に使うのは初めてだったが、問題なく発動した。
そして表示された情報は――
⸻
セラフィーネ・オルデンヴァルト
状態:衰弱、穢れ(毒)
何らかの経緯で穢れを体内に取り込んでいる。
全身を巡っているため、通常のポーションおよび光魔法での完治は不可。
⸻
――「穢れ」。
それは、魔物の素となるもの。
通常、穢れの強い場所にいれば、動きが鈍くなったり、不調をきたす。
耐性の低い者なら、なおさら影響は大きい。
だからこそ、それを浄化するために光魔法が必要になる。
だが――
この人は、それを体内に直接取り込んでいる。
体内を巡り、蝕み続ける穢れ。
もし無理に浄化すれば、内側で暴れ、激痛を引き起こすだろう。
そう考えた瞬間、背筋が冷えた。
……一体、どうしてこんなことに。
疑問が浮かんだその時。
コンコン、と扉が叩かれた。
「失礼いたします。奥様のお薬をお持ちしました」
入ってきた使用人の手には、トレー。
その上には、小さな小瓶が載っている。
「……ああ、ちょうど薬の時間ね」
カトレアさんが振り返り、手を差し出した。
「ありがとう。こちらへ――」
使用人が近づき、薬を手渡そうとする。
……本当に、薬?
いや、違う。
むしろ――これは。
咄嗟に、その小瓶へ「鑑定」をかける。
そして――
結果を見た瞬間。
気付けば、私はその薬を奪い取っていた。
ーーそれは、"治療薬"ではなかった。




