25-治癒士の願い
『お願いします。どうか奥様の御病気の為に、その御力を貸しては頂けないでしょうか』
そう言われても、すぐには答えられなかった。
一度、私の部屋で事情を聞くことにした。
「……先走って、あのような場でお願いしてしまいました。申し訳ありません」
ソファに座り、少し反省した様子でカトレアさんが言う。
私は「気にしないで」と言う代わりに、足元へ擦り寄った。
それで少し気持ちが落ち着いたのか、彼女の表情がわずかに和らぐ。
そこでエルリックさんが口を開いた。
「……セラフィーネ様。カトレアの光魔法でも、回復されなかったのか」
「ええ……ダメでした」
暗い声でカトレアさんが答える。
「テオドール様。アンネリーゼ様のお母君であるセラフィーネ様は、数ヶ月前に急に倒れられました」
「医者を呼び、薬やポーションを処方して頂き、私も第1騎士団の勤務から外れ、セラフィーネ様の治療にあたる事になりました」
森にいた第1騎士団の中にいなかった理由がわかった。
そして、奥様…セラフィーネさんの治療を許されているカトレアさんは、能力含め、かなりの信頼を寄せられてる人のようだ。
「それで、光魔法で回復促進を試みましたが……」
そこまで言うと、カトレアさんは言葉を止め、顔を伏せた。
下から覗き込むように見上げると、口元を歪めているのが見える。
それがあまりにも痛々しくて、胸が締めつけられた。
思わず、前足を彼女の足にそっと乗せる。
カトレアさんは、泣きそうな顔で私を見つめた。
「……辺境伯騎士団の中では、一番の光魔法の使い手だと自負していました」
「それなのに今は、セラフィーネ様を救うどころか、苦しめてしまっています」
「どうすれば回復するのかも分からず、色々試しましたが……全て効果がありませんでした」
苦しそうに言葉を紡ぐその姿は、あまりにも弱々しかった。
見ているこちらまで辛くなり、思わず顔が歪む。
「そこで……あなたを見つけたのです。恩猫様」
「訓練場での、あなたの魔法の技術を見て。光魔法も使えると聞いて……」
「もう、あなたしかいないと思ったのです」
懇願するように向けられた言葉は、あまりにも切実だった。
……私が、救う?
確かに今まで助けられた人はいる。
でもそれは、たまたま上手くいったり、知っている魔法だったから出来たことだ。
今回の話は違う。
もし私の勘が正しければ、セラフィーネ様は――
「……やはり、無理なのでしょうか」
考え込んでいた時、カトレアさんの悲しげな声が聞こえた。
顔を上げる。
そこには、諦めと絶望が入り混じった目をしたカトレアさんがいた。
「……セラフィーネ様には、返しきれない恩があるのです」
「憧れて背中を追い続け、共に戦い、旅をして……」
「この領地へ嫁ぐ時も、私を誘ってくださって。私はそれについて来ました」
「なのに私は……その恩も返せないまま、見送ることになるのでしょうか」
涙を堪えるその姿を見た瞬間。
さっきまで考えていた迷いが、全部吹き飛んだ。
……このままだと。
前の世界にいた頃と、何も変わらない。
誰も助けられず、役にも立てない。
そんな自分に、また戻るの?
そう思った瞬間、答えは決まっていた。
ソファへ飛び乗る。
そして、カトレアさんの腕へ前足をちょんちょんと乗せた。
ゆっくり私を見る彼女に、こくりと頷く。
やってみよう。
出来るかどうか悩むんじゃない。
やるしかない。
やってみなければ、助けられる可能性すら見つからないのだから。




