22-恩猫、正式な客人となる
領地案内をしてもらった翌朝。
私は領主の執務室にいた。
そこには、テオドール、アンネリーゼ、第1騎士団の団長と副団長もいる。
……やはり昨日、一昨日の行動は問題だったのだろうか。
騒ぎになりかけた件もある。
叱責を受けるのだろうか。
…もしくは追い出される…?
悪い予想が脳内を巡る。
迷惑をかけてしまったのだと思い、思わず身を縮こませる。
「小さきものよ。一昨日は我が騎士の魔法向上指導に加え、昨日は我が領のために貴重な資源を提供してくれた。感謝する」
項垂れていた私に、領主は丁寧に礼を述べた。
……怒られる方じゃ、ないの?
思わず顔を上げる。
不思議そうに見つめる私に、領主は苦笑を浮かべた。
「……感謝することはあれど、怒るなど出来るわけがないだろう」
そして、少し表情を引き締める。
「むしろ、謝るべきはこちらだ」
……?
謝られるようなことがあっただろうか。
小首を傾げる私に、領主は説明を続けた。
「『歓迎する』と言いながら、我々はあなたを試した。ブラムが先走って伝えてしまったようだから、もう知っているだろう」
訓練場での出来事を思い出す。
「結果として、あなたの力も行動も、魔物でも間者でもないと証明された」
領主は静かに続けた。
「だが、それでも。あなたの信用を裏切る行為だったことに変わりはない」
そして、深く頭を下げた。
「大変申し訳なかった」
確かに、少しだけショックは受けた。
けれど、仕方のないことだとも思った。
危機の場に突然現れた、正体不明の猫。
何の確認もせず信用する方が無理がある。
貴族であれば、相手を推し量る為に、狡猾さも必要だ。
だから、笑顔で迎え入れつつ、この二日間。
案内役も二人に限定し、私がどう動くのかを見ていたのだろう。
それでも、皆優しく接してくれた。
ブラムがああして先に伝えてくれたのも、きっと私の心の傷を少なくする為だったのだと思う。
信用したい気持ち。
だが、信用してよいのか分からない葛藤。
皆、その間で悩んでいたのだろう。
それでも優しくしてくれた。
それだけで、十分だった。
私は領主と目を合わせる。
そして頷き、ゆっくりと首を振った。
――気持ちは受け取るけれど、謝罪はいらない。
私の信用を得るために必要なことだったのだから。
すべては伝わらなくてもいい。
少しでも伝われば、それでいい。
領主はしばらく私を見つめていたが、やがて静かに頷いた。
「……あなたの寛大な心に感謝する」
口元をわずかに緩める。
それを見て、私も少し肩の力を抜いた。
どうやら、伝わったらしい。
「では、改めて宣言させてもらおう」
領主は背筋を正した。
「私、レオンハルト・オルデンヴァルトは――」
「恩猫様を、オルデンヴァルト家の大切な客人として、領地へ迎え入れることを正式に認める」
正式に。
私はこの領地に留まることを認められた。
……ここに、いていいんだ。
信用に足る存在だと、認めてもらえた。
思わず視界が滲む。
だが、その感情は次の言葉で吹き飛んだ。
「それに伴い、以下の者を客人の生活補佐および護衛として任命する」
「テオドール・オルデンヴァルト」
「アンネリーゼ・オルデンヴァルト」
「第1騎士団団長、ローガン・アイゼンヴァルト」
「同じく副団長、カイ・ルーベルト」
「そして第1騎士団団員四名」
「私が信頼を置く者達だ。実力も申し分ない」
領主は穏やかに言う。
「安心してこの領地で過ごしてほしい」
「皆、よろしく頼む」
「「「「承りました」」」」
一斉に頭が下げられる。
……思わぬ展開だった。
まさかここまで大事になるとは思っていない。
先ほどまでの感動はどこへやら。
内心では完全に慌てていた。
どうやらそれが顔に出ていたらしい。
テオドールがくすりと笑った。
「これから、よろしくお願いいたします。恩猫様」
テオドールの言葉に続き、
アンネリーゼ、ローガン団長、カイ副団長も私へ礼をする。
彼らの背後の窓から、朝の日差しが差し込んでいた。
外には、少し雲はあるものの――
澄み渡った青空が広がっていた。




