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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第1章
22/30

20-冒険者ギルド、救いの光

少し長めです。

中に入ると、一人の男性が少年を腕に抱え、焦りを露わに大声で助けを求めていた。


「……どうされたのでしょうか」


テオドールが副団長に小声で尋ね、様子を窺う。


「助けてくれ! 子供が死んじまう!」


騒ぎを聞きつけ、ギルドの受付嬢と思わしき女性が駆け寄った。


「どうされましたか?」


「子供達が……子供達が『縫い目の森』の浅瀬に、自分達だけで行っちまって……毒蜂に刺されちまった!」


男は息を荒げながら必死に説明する。


「持たせてた毒消しポーションと光の魔法石で、ほとんどは助かったんだ!

でも、あと一人ってところで……途中で魔法石の効果が切れちまったみたいなんだ!」


男の腕の中で、少年はぐったりと力なく揺れていた。


「あと一人、うちの子だけなんだ……!

頼む、光魔法を使えるやつか、魔法石を貸してくれ!」


狼狽えながらも必死に訴える男。


受付嬢は、苦しそうに表情を歪めた。


「……申し訳ございません。

最近、魔物の出現が増えておりまして……光魔法の魔法石は在庫を切らせてしまっています。

光魔法の使い手も、現在は皆出払っています」


その言葉に、男は絶望したように膝をついた。


「嘘だろ……なぁ、頼むよ……!

魔法石一つだけでも無理なのか……?」


男の声は震えていた。


「うちの子が……今、必死に生きる為に戦ってるんだよぉ……!」


頼む、頼むよぉ……。


弱々しく訴える男に、ギルドにいる人々は皆、視線を逸らしていた。


「……何故、皆顔を背けるのですか」


テオドールが静かに言う。


「冒険者なら、光の魔法石の一つくらい持っているはずです」


副団長は小さく首を振った。


「……光の魔法石は、冒険者や私達騎士にとって命綱です。

易々と手放すことは出来ません」


テオドールは唇を噛み、歯痒そうにその場を見つめていた。


——光魔法。


それなら、私が使える。


けれど、人にうまく使えるかは分からない。

以前、緊張して力加減を誤ったこともある。


それでも——。


使わずに救えないよりは、いい。


そう思い、私はそっとテオドールの足に前足を添えた。


気づいたテオドールと視線が合う。


私の意思を察したのか、彼は苦しそうに顔を歪めて問いかけた。


「……いいのですか。お力を、お借りしても」


私は小さく頷く。


「……わかりました」


テオドールは目を伏せると、副団長とアイコンタクトを交わした。


そして男のもとへ歩み寄る。


「その少年の命——

一度、この方に預けてみませんか?」


男が顔を上げる。


テオドールの示す先。


そこにいたのは——私だった。


「……猫?」


男は困惑した顔で私を見る。


私は構わず少年に近づき、様子を確かめる。


目を強く閉じ、苦しみに耐えている。

顔色は白を通り越し、土のような色をしていた。


呼吸も浅い。


——すぐに助けないと、危ない。


私は男を真っ直ぐ見つめた。


触れる許可を。

この子を助ける許可を。


しばらくして、男は力を抜いた。


そして、少年を差し出す。


「猫でも何でも構わん……。

俺の子を、助けてくれ!」


私は小さく頷いた。


そして——光魔法を使う。


治癒は使えない。

あれは傷を治す力で、毒を消す力ではない。


毒を消すには——浄化。


だが、この状態で浄化だけをかけるのは危険だ。


毒で苦しんでいる体に、魔法の負荷がかかる。


暴れれば、魔法操作も乱れる。


まずは——闇魔法。


鎮静。


そして、その上から浄化を重ねる。


黒と白の光が絡み合う。


不思議な光景が広がった。


「……なんだ、これ……」


誰かが呟く。


父親も、周囲の人間も、ただ呆然と見つめていた。


少年は暴れることなく、穏やかに魔法を受け入れている。


やがて、顔色が変わっていく。


土色だった肌が、白に戻る。


毒が消えた。


次に、光魔法で活性化をかける。


血色が戻り、肌に赤みが差していく。


「……奇跡だ……」


誰かがそう言った。


やがて、少年がゆっくりと目を開く。


「……父さん?」


「……あぁ……」


父親の声が震える。


「奇跡だ……奇跡が起きた……」


父親は涙を浮かべながら、少年を強く抱きしめた。


「よかった……よかったよ……」


——助けられた。


私はほっと息をつく。


今回は、ちゃんと魔法を操作できた。


「ありがとうよ……」


男が私を見る。


「うちの子を助けてくれて……ありがとうよ」


「……?」


少年が私を見る。


そして、ゆっくりと手を伸ばした。


「猫さんが助けてくれたの?」


そして、無邪気な笑顔で私を撫でる。


「助けてくれてありがとう!」


——よかった。


助けて、本当によかった。


その笑顔と、その言葉が、胸に深く響く。


私のしたことは——間違いじゃなかった。


ーーー


「……先程の黒の魔法は、まさか……」


副団長が静かに呟いた。


闇魔法。


光魔法と相対し、反発する力。


本来、この二つの適性を同時に持つ者はいない。


ましてや同じ対象に同時に魔法をかけるなど——

調整を誤れば、どちらかの魔法が打ち消される。


だが、あの猫は。


それを成してみせた。


もはや神の御業と言ってもいい。


副団長は、静かに呟く。


「あの猫は……一体何者なんだ……?」

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