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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第1章
16/29

14-朝の光と街の景色

歓迎ムードのまま、その日は更けた。


夜も遅いということで、簡単な夕食を皆で囲んで摂っていた。


そして――


猫の私にまで、食事が用意されていた。

しかも特別席まで設置済みで。


薄味に仕立てられた肉料理。

柔らかく煮込まれたリゾットのようなもの。

小さく切られた果実。


どれも、食べやすい大きさに整えられている。


……調理された食事。


この世界に来て、初めてだった。


森では、木の実と魚ばかりだったから。


恐る恐る口をつける。


――おいしい。


じんわりと、胸の奥が温かくなる味だった。


ふと気づくと、少し離れた場所で使用人や、厨房にいたであろう料理人たちが、そわそわとこちらを見ている。


……そんなに見なくても。


好き嫌いはないし、毒見もいらないと思う。


ただ、食べ方の作法だけは――猫だから許してほしい。



食後。


皆がそれぞれの部屋へ戻っていく中、私は客室へ案内された。


「こちらをお使いください」


扉が開く。


……広い。


明らかに、猫が使っていい広さじゃない。


ふかふかのベッド。

大きなソファ。

上等な絨毯。


(いや、無理無理無理……)


さすがに申し訳なさすぎる。


私はそっとソファのクッションを床に下ろし、その上で丸くなった。


これくらいが、落ち着く。


気づけば、すぐに眠っていた。



翌朝。


やわらかな光で目が覚める。


カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。


風魔法でそっと布を開け、窓枠へ飛び乗る。


そして――息を呑んだ。


人が、動いている。


まだ早朝のはずなのに。


パンを焼く煙。

行き交う人影。

荷車の音。

笑い声。


森にはなかった光景。


生きている音が、そこかしこに満ちている。


胸の奥が、きゅっと締め付けられた。


前の世界を思い出す。


無気力に職場へ向かい、

無機質に働き、

味のしない食事を摂り、

眠るだけの日々。


……違う。


ここは、違う。


同じ「人の世界」なのに。


どうして、こんなにも輝いて見えるんだろう。


目を逸らしかけて、でも、逸らせなかった。


あまりにも――眩しくて。



コン、コン。


ノックの音。


「おはようございます、恩猫様。ご朝食のご用意ができました」


……恩猫様。


未だに慣れない呼び名だ。


そんな大層な存在じゃないのに。


申し訳なさを覚えながら、床へ飛び降り、案内についていく。



食堂には、すでに領主とテオドールがいた。


アンネリーゼの姿はまだない。


「おはようございます、恩猫様。昨夜はよく休めましたか?」


テオドールの穏やかな声。


私はこくりと頷く。


「それは良かった。本日は屋敷内をご案内します。明日は領地を。アンネリーゼと団長が屋敷を、領地は私がご一緒します」


……案内?


そこまでしてくれるの?


至れり尽くせりすぎて、逆に落ち着かない。


その時。


「遅くなり申し訳ございません」


アンネリーゼが入ってきた。


完璧な礼。


けれど少しだけ乱れた髪が、急いできたことを物語っている。


なんだか、少しだけ可笑しくて口許が緩む。


「……皆揃ったな。では、食事にしよう」


静かに朝食が始まる。


今日も豪華な料理が並ぶ。


……屋敷案内。


……領地案内。


どんな景色が待っているのだろう。


不安もある。


でも。


胸の奥が、少しだけ、わくわくしていた。


年甲斐もなく。


まるで、遠足前の子供みたいに。

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