14-朝の光と街の景色
歓迎ムードのまま、その日は更けた。
夜も遅いということで、簡単な夕食を皆で囲んで摂っていた。
そして――
猫の私にまで、食事が用意されていた。
しかも特別席まで設置済みで。
薄味に仕立てられた肉料理。
柔らかく煮込まれたリゾットのようなもの。
小さく切られた果実。
どれも、食べやすい大きさに整えられている。
……調理された食事。
この世界に来て、初めてだった。
森では、木の実と魚ばかりだったから。
恐る恐る口をつける。
――おいしい。
じんわりと、胸の奥が温かくなる味だった。
ふと気づくと、少し離れた場所で使用人や、厨房にいたであろう料理人たちが、そわそわとこちらを見ている。
……そんなに見なくても。
好き嫌いはないし、毒見もいらないと思う。
ただ、食べ方の作法だけは――猫だから許してほしい。
⸻
食後。
皆がそれぞれの部屋へ戻っていく中、私は客室へ案内された。
「こちらをお使いください」
扉が開く。
……広い。
明らかに、猫が使っていい広さじゃない。
ふかふかのベッド。
大きなソファ。
上等な絨毯。
(いや、無理無理無理……)
さすがに申し訳なさすぎる。
私はそっとソファのクッションを床に下ろし、その上で丸くなった。
これくらいが、落ち着く。
気づけば、すぐに眠っていた。
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翌朝。
やわらかな光で目が覚める。
カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。
風魔法でそっと布を開け、窓枠へ飛び乗る。
そして――息を呑んだ。
人が、動いている。
まだ早朝のはずなのに。
パンを焼く煙。
行き交う人影。
荷車の音。
笑い声。
森にはなかった光景。
生きている音が、そこかしこに満ちている。
胸の奥が、きゅっと締め付けられた。
前の世界を思い出す。
無気力に職場へ向かい、
無機質に働き、
味のしない食事を摂り、
眠るだけの日々。
……違う。
ここは、違う。
同じ「人の世界」なのに。
どうして、こんなにも輝いて見えるんだろう。
目を逸らしかけて、でも、逸らせなかった。
あまりにも――眩しくて。
⸻
コン、コン。
ノックの音。
「おはようございます、恩猫様。ご朝食のご用意ができました」
……恩猫様。
未だに慣れない呼び名だ。
そんな大層な存在じゃないのに。
申し訳なさを覚えながら、床へ飛び降り、案内についていく。
⸻
食堂には、すでに領主とテオドールがいた。
アンネリーゼの姿はまだない。
「おはようございます、恩猫様。昨夜はよく休めましたか?」
テオドールの穏やかな声。
私はこくりと頷く。
「それは良かった。本日は屋敷内をご案内します。明日は領地を。アンネリーゼと団長が屋敷を、領地は私がご一緒します」
……案内?
そこまでしてくれるの?
至れり尽くせりすぎて、逆に落ち着かない。
その時。
「遅くなり申し訳ございません」
アンネリーゼが入ってきた。
完璧な礼。
けれど少しだけ乱れた髪が、急いできたことを物語っている。
なんだか、少しだけ可笑しくて口許が緩む。
「……皆揃ったな。では、食事にしよう」
静かに朝食が始まる。
今日も豪華な料理が並ぶ。
……屋敷案内。
……領地案内。
どんな景色が待っているのだろう。
不安もある。
でも。
胸の奥が、少しだけ、わくわくしていた。
年甲斐もなく。
まるで、遠足前の子供みたいに。




