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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第1章
15/30

13-歓迎

「父上……」


テオドールが、呆然とした声で呟く。


その視線の先。


階段の上に立つ男。


……この人が、領主。


そう理解した瞬間、空気が変わった。


覇気を纏っている、という言葉が似合う。


ただ立っているだけなのに、気圧される。


「何処に、行っていたんだ?」


低く、鋭い声。


叱責ではない。

だが、逃げ場のない重みがあった。


「……『縫目の森』の奥地に、行っておりました」


テオドールの声が、わずかに震える。


領主はゆっくりと階段を降りてくる。


足音がやけに大きく響いた。


「何事もなく無事に帰還した……という訳でも無さそうだな」


視線が騎士たちを一瞥する。


綺麗になったとはいえ、破損した鎧や装備。


それだけで、すべてを察したようだった。


「己の未熟さ、浅慮な行動だったことは理解しているな?

 己の立場と責任の重さも、学んだか」


今度は、静かに諭す声。


「……はい。此度の件、私の独断により、危うく臣下を失うところでした。申し訳ございません」


深く頭を下げるテオドール。


「私も、兄様を止められませんでした。同罪です」


アンネリーゼも頭を下げる。


「理解しているならいい。今後は無いように」


冷たい言葉。


けれど、その奥に僅かな心配が滲んでいた。


赦されたのだと分かり、二人が小さく息を吐く。


……なぜか、私も一緒に安堵していた。


そして。


「時にテオ。お前が連れ帰ってきた、その小さきものはなんだ?」


視線が、私に向く。


びくり、と体が強張る。


「父上。この方は恩猫様でございます」


恩猫様。


またその呼び方。


「森で火の魔物――サラマンダーに襲われた際、我々を助けてくださいました」


「サラマンダーだと?」


空気が張り詰める。


「やつはこの森に出現する魔物ではない。森はどうなった」


「燃え広がる前に鎮火できました。傷も、この方が……すべて治療を」


「鎮火? 治療?

 水魔法と光属性か? だが、それだけで完全治癒は不可能のはずだ」


「それを、その身一つで成されたのです。見たことのない魔法で、雨を降らせ、我々を癒してくださいました」


アンネリーゼが強く言い切る。


領主の深い緑の目が、ゆっくりと私を捉えた。


「……この、猫が?」


一歩。


また一歩。


近づいてくる。


大きい。


壁みたいだ。


目の前で立ち止まる。


手が、伸びてくる。


思わず身をすくませた。


その動きに気づいたのか、手がふっと緩む。


そして――


ぽん、と。


頭を優しく撫でられた。


驚くほど、丁寧な手つきだった。


そのまま、ふわりと体が持ち上がる。


「……見た目は猫。だが、猫ではないな」


間近で、観察される。


「獣にこの理性はない。……不思議な力も感じる」


冷静な分析。


けれど、その瞳は冷たくない。


むしろ、温かい。


「嫌な気配はない。邪な意志も感じん」


そして、子供たちへ視線を向ける。


「この者だけを信用するには足りん。だが――」


「テオ、リーゼ。私はお前達を信用している」


その一言が、重い。


覚悟のある言葉だった。


「ゆえに、この小さきものを客人として迎えよう」


私を腕に抱いたまま、使用人たちへ告げる。


「失礼のなきよう、もてなせ」


……受け入れられた。


拒絶されるかもしれないと、覚悟していた。


それなのに。


家族の信頼が、私をここへ繋いだ。


……眩しい。


胸の奥が、少し痛い。


周囲を見る。


テオドールは安堵し、

アンネリーゼは嬉しそうに笑い、

騎士たちも穏やかな顔をしている。


「歓迎しよう、小さきものよ」


低く、優しい声。


私は目を細めた。


――こうして。


私の、猫としての第二の生活が、始まった。


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