12-辺境伯家
敷地内の庭は、客人をもてなすための樹や花が丁寧に手入れされている。
過度ではない。だが隙がない。
玄関へ近づくと、ギィ……と重厚な扉が開いた。
「恩猫様。我が辺境伯領、領主宅――『オルデンヴァルト家』へ、ようこそ。」
その言葉に、緊張が走る。
辺境伯家……。
薄々感じてはいた。
テオ、リーゼと呼ばれる少年少女の所作、言葉遣い。
育ちの良さは隠しようがなかった。
だが、そこまでの高位貴族とは。
思考が追いつく前に、屋敷の内へ足を踏み入れる。
圧倒された。
質の良い調度品。
洗練された装飾。
華美ではない。だが厳かで、揺るぎない品格がある。
使用人たちは、私という異質な存在に怪訝な顔ひとつ見せず、静かに礼をとる。
無駄がない。
どこを見ても、整えられた美しさ。
――前の世界の実家とは、まるで違う。
財を持つ者が違えば、屋敷の在り方もこうも違うのか。
私は無能とはいえ、一応は財閥の令嬢だった。
実家では、父が買い集めた装飾品が増え続け、広いはずの屋敷が次第に窮屈になっていった。
使用人も、ある程度仕事ができていれば咎められなかった。
だからこそ、徐々に粗が目立っていた。
比べるのは烏滸がましい。
それでも、比べずにはいられない。
思っていた以上に高貴な屋敷だ。
こんな私――猫の身で、敷居をまたいでよいのだろうか。
皆がそれぞれ屋敷の奥へ進む中、私は玄関でわずかに立ち尽くしていた。
リーゼが心配そうにこちらを見る。
手を差し伸べようとした、その時。
「遅い帰りだったようだな。テオドール、アンネリーゼ。私に無断で第1騎士団まで連れて。何処へ出ていた?」
低く、威厳のある声が屋敷に響く。
空気が変わった。
視線を上げる。
階段の上から、森のように深い緑の鋭い目が、こちらを見下ろしていた。




