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11-人の世界
テオが馬車の窓に掛かっていたカーテンを押し上げる。
外を見えた。
灯りが、ある。
一定の間隔で並ぶ街灯。
窓辺に揺れる橙の火。
遠くから笑い声が聞こえる。
隙間から漂う酒精の匂い。
焼いた肉の香り。
人の声が重なり、波のように揺れている。
森にはなかった音だ。
だが、それは喧騒ではない。
抑えられた賑わい。
夜を乱さぬ程度の、静かな活気。
――人が、こんなにも密集して生きている。
リーゼの腕の中で、私はわずかに身を固くした。
馬車は賑わいの通りを抜け、やがて音が変わる。
笑い声は遠のき、代わりに扉の閉まる音や控えめな話し声が聞こえてくる。
住宅街だろうか。
灯りはあるが、動きは少ない。
そしてさらに奥へ。
空気が変わる。
広い敷地を囲む石壁。
規則正しく灯された篝火。
門前に立つ兵の気配。
馬車が止まる。
ここが――彼ら、貴族の住む屋敷。
ゆっくりと顔を上げる。
森とは違う、整えられた世界。
逃げ場のない、人の世界。
それでも。
――私は、自分でここへ来た。
扉が開き、夜の空気が流れ込む。
冷たい。
森の湿り気とは違う、乾いた匂い。
小さく身震いし、私はリーゼの腕から自ら地面へ降り立った。
導かれるまま、屋敷へ足を運ぶ。




