失敗作の年越し
カレンダーの数字が変わるだけなのに、一年が終わるだとか、一年が始まるだとか、今年の抱負だとか、やれ年越しそばだとか、やれおせちだとか、うるさいんだよ。かわんねえ、変わんねえよ。なんも変わらん。くだらん一年が終わって、くだらん一年が始まるだけだ。まあ、9連休は普通に嬉しいけどな。仕事終わり、クソうぜえ忘年会も終わって、よし帰るぞというところでスマホが震える。
『今年は帰ってこないの』
…….まあ、今年ぐらいはちょっと実家にかえってもいいか。
『じゃあ、帰る』
母親から、ハートのスタンプが送られてくる。嬉しそうな顔が浮かぶ。今年は、めんどくさい年越しになりそうだ。
大晦日の夕方に実家に帰る。ギリギリなのは、許して欲しい。
「おかえりなさい、年越しそばもう作ってあるから」
老けたか? 年越しそばなんぞいつぶりだ。
そばを啜っていると、父がテレビを見ながら話しかけてくる。
「来年の抱負とかはあるのか」
ねえよ。そんな人間じゃねえ。息子だってのに、俺のこと全然わかってない奴ら。
「来年はまあ、大きなプロジェクトがあるから、それを成功させることかな」
ほんとはどうでもいい。クソみたいな時間だけを浪費していらない会議して、そんなプロジェクト。給料のためだけに存在している仕事を、ただこなすだけ。
「そうか、父さんは、来年退職だから、ちょっと寂しいよ」
老けたな。まあ、興味もないけど。そろそろ紅白の時間か。
揃いも揃って知らないアーティストたちを横目に、両親は盛り上がってる。いや、無理に盛り上げてんのかもな。やっぱ帰ってこなきゃ良かった。AVみてる時間の方が100倍有意義だ。
少し見覚えがあるような歌手が歌って、そろそろラスト。紅白も終わって、無言の時間が続く。
「お前は、彼女とか作らないのか」
「あー、まあ、そうだね。今はいないかな」
母親が無理に笑う。
「いやだ、今の時代にそんなこと聞いちゃダメなんですよ、お父さん。多様性の時代なんだから」
どんな時代だよ。俺がゲイとでも思ってんのか。
「はは、まあ、今は仕事が忙しいから」
「そうか、年末ぐらいはゆっくりしなさい」
また無言。やっぱ帰ってこなきゃ良かったな。多分異常なのは俺、俺の方だ。俺がこの家の年越しを台無しにしてるといってもいい。
年越しまで後5分か。なげえ。もう寝ていいかな。テレビから、除夜の鐘が聞こえる。
後3分、母がさっきの紅白は良かっただの、来年も楽しみだの話を繋ぐ。無理してんな。
後1分、父が再び俺に話しかける。
「仕事が辛くなったらまた帰ってきなさい」
後30秒。
「うん、年越しそばも久しぶりに食べたし、また年末は帰ろうかな」
後10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1。ああ、ようやく年が変わった。
「あけましておめでとう、今年もお前の幸せを願ってるよ」
あーあ、なんでこんないい人たちの元に、俺という失敗作が生まれてしまったんだろうな。
「ありがとう、あけましておめでとう、ちょっと眠くなってきたからもう寝ようかな」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
とりあえず、年は越せたな。良かった。来年は……、もう帰らないだろうな。




