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失敗作の年越し

作者: つばさ
掲載日:2025/12/30

 カレンダーの数字が変わるだけなのに、一年が終わるだとか、一年が始まるだとか、今年の抱負だとか、やれ年越しそばだとか、やれおせちだとか、うるさいんだよ。かわんねえ、変わんねえよ。なんも変わらん。くだらん一年が終わって、くだらん一年が始まるだけだ。まあ、9連休は普通に嬉しいけどな。仕事終わり、クソうぜえ忘年会も終わって、よし帰るぞというところでスマホが震える。

『今年は帰ってこないの』

 …….まあ、今年ぐらいはちょっと実家にかえってもいいか。

『じゃあ、帰る』

 母親から、ハートのスタンプが送られてくる。嬉しそうな顔が浮かぶ。今年は、めんどくさい年越しになりそうだ。


 大晦日の夕方に実家に帰る。ギリギリなのは、許して欲しい。

「おかえりなさい、年越しそばもう作ってあるから」

 老けたか? 年越しそばなんぞいつぶりだ。

 そばを啜っていると、父がテレビを見ながら話しかけてくる。

「来年の抱負とかはあるのか」

 ねえよ。そんな人間じゃねえ。息子だってのに、俺のこと全然わかってない奴ら。

「来年はまあ、大きなプロジェクトがあるから、それを成功させることかな」

 ほんとはどうでもいい。クソみたいな時間だけを浪費していらない会議して、そんなプロジェクト。給料のためだけに存在している仕事を、ただこなすだけ。

「そうか、父さんは、来年退職だから、ちょっと寂しいよ」

 老けたな。まあ、興味もないけど。そろそろ紅白の時間か。

 揃いも揃って知らないアーティストたちを横目に、両親は盛り上がってる。いや、無理に盛り上げてんのかもな。やっぱ帰ってこなきゃ良かった。AVみてる時間の方が100倍有意義だ。

 少し見覚えがあるような歌手が歌って、そろそろラスト。紅白も終わって、無言の時間が続く。

「お前は、彼女とか作らないのか」

「あー、まあ、そうだね。今はいないかな」

 母親が無理に笑う。

「いやだ、今の時代にそんなこと聞いちゃダメなんですよ、お父さん。多様性の時代なんだから」

 どんな時代だよ。俺がゲイとでも思ってんのか。

「はは、まあ、今は仕事が忙しいから」

「そうか、年末ぐらいはゆっくりしなさい」

 また無言。やっぱ帰ってこなきゃ良かったな。多分異常なのは俺、俺の方だ。俺がこの家の年越しを台無しにしてるといってもいい。

 

 年越しまで後5分か。なげえ。もう寝ていいかな。テレビから、除夜の鐘が聞こえる。

 後3分、母がさっきの紅白は良かっただの、来年も楽しみだの話を繋ぐ。無理してんな。

 後1分、父が再び俺に話しかける。

「仕事が辛くなったらまた帰ってきなさい」

 後30秒。

「うん、年越しそばも久しぶりに食べたし、また年末は帰ろうかな」

 後10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1。ああ、ようやく年が変わった。

「あけましておめでとう、今年もお前の幸せを願ってるよ」

 あーあ、なんでこんないい人たちの元に、俺という失敗作が生まれてしまったんだろうな。

「ありがとう、あけましておめでとう、ちょっと眠くなってきたからもう寝ようかな」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 とりあえず、年は越せたな。良かった。来年は……、もう帰らないだろうな。



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