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四十五話 血の円舞 1

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇


 白楊(はくよう)国の北東に位置する、臨万(りんまん)(じょう)の城壁の上で、玉蓮は息を呑んだ。地平線の果てまでを埋め尽くす、黒い(うごめ)き。それはもはや、軍勢と呼べるものではない。


 大地そのものが、津波となってこちらへ押し寄せてくるかのように、彼らの足音が大地を揺らし、武器や甲冑(かっちゅう)のぶつかり合う音が、不気味な合唱となって空に響き渡る。


 城壁の(ふち)にかけた玉蓮の指先に、ビリビリと、石が悲鳴を上げるような微細な振動が伝わってくる。


(——あれが、五十万)


 風が、敵の匂いを運んでくる。数えきれない男たちの汗と、馬の糞尿、そして、もうもうと立ち上る土埃(つちぼこり)が混じり合った匂い。玉蓮は、城壁の冷たい石に爪を立て、その不快な感触で己の心を現実に繋ぎ止めた。


  玄済(げんさい)国と大孤(だいこ)国、その二つの大国を同時に睨みつける、この臨万城(りんまんじょう)が抜かれれば、王都・雛許(すうきょ)までは、(さえぎ)るものが一つもない平原が続いている。


「喉元に迫られる、か」


 ここが落ちれば、白楊(はくよう)は全てを失う。その事実が、玉蓮の、そして白楊(はくよう)国の急所に、冷たい刃となって突きつけられている。


 危急(ききゅう)存亡(そんぼう)(とき)。明日、生きているかさえもわからないこの時に、手元に届く文は、劉家からのものだけ。


(一枚の文さえも、届かないとは)


 玉座に座る父の姿を思い出して、玉蓮は笑みを浮かべた。娘が死地にあるというのに、沈黙を守る父。いや——何も関心がないと言うべきか。


 城壁を見渡せば、見たこともない数の旗が、乾いた風に不気味な音を立てて、荒々しく(ひるがえ)っていた。

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