表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/214

四十話 侵攻と傷跡 1

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇


「私、崔瑾(さいきん)も道のためにここに来ております。もちろん玄済(げんさい)国のために」


 ふう、と男から一つ短く息が吐き出された。


「……せっかくの会談です。我が王に手土産を持ち帰らねばなりません。伺ってもよろしいか」


 彼の口元には穏やかな笑みが浮かんでいるはずなのに、その声は鋭い。玉蓮はくっと小さく息を呑む。


白楊(はくよう)国は、この度の戦、どこまでやるおつもりか」


 天幕の中の空気が、一気に凍りついたように張り詰めていく。焚かれた香の煙さえも、固まるような錯覚を覚えるほどの静寂。白楊(はくよう)国が近年見せている急速な軍事拡大。隣国への圧力と侵攻は、近隣諸国が脅威として危惧していると劉義(りゅうぎ)も言っていた。


 崔瑾の瞳が、劉永(りゅうえい)に向けられる。


「劉永殿、お父君の劉義殿は、我が玄済(げんさい)国を、よもや滅ぼそうとするつもりではあるまいな」


「どうでしょうか。我が父の考えは、私でさえも読み解けることはないでしょう」


「劉義殿を(しの)ぐと言われる才を持つあなたにも、お父君は明かさないと?」


「私など若輩の身。大都督(だいととく)が描く国の未来など、教えていただけるはずもございませぬ」


 玉蓮が劉永を見上げるも、そこにあるのは、ただひたすらに完璧な笑顔だけ。幼い頃から見慣れたはずのその笑顔が、今は精巧に作られた仮面のように見えて、玉蓮の背筋を冷たいものが滑り落ちた。



 一瞬の静寂の後、赫燕(かくえん)の唇から、はっ、とため息のような、あるいは(さげす)みのような笑いが溢れた。


「お前たちこそ、隣国を食い尽くしてきただろう。白楊(はくよう)か、それ以上にな」


「戦乱の世です。史実として隣国を滅ぼしたことも我が国にはありましょう。ですが、私は異なる道を探れると——」


「ここまで絡んだ糸を切れるとでも?」


「和平を結ぶ道もある」


「婚姻で結んだ和平さえ、すぐに朽ち果てる。それが乱世(らんせい)だ」


 崔瑾と赫燕の視線が、ぶつかっている。天幕の空気は、糸がどこまでも引っ張られて今にも千切れそうなほどに張り詰めている。言葉を発していない玉蓮の額に汗が滲んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ