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三十九話 駒の価値 2

「こいつは白楊(はくよう)の公主だ。こいつの価値は、兵士何人分だ? 崔瑾殿、あんたはどう見る?」


「公主の価値を私ごときが測るなど、(おそ)れ多いことです。加えて、人の価値を命の数で測ること自体、理解に苦しみます」


 明確な拒絶を込めたが、赫燕は口元に不敵な笑みを浮かべたままだ。


「ほう。だが、考えてみるといい。この女が、どれほどの兵力を生み出すか。あるいは、失わせるか、をな」


 その下劣な挑発に、声を荒らげたのは劉永(りゅうえい)だった。


「赫燕将軍! 公主に対し、無礼であろう!」


 怒声とともに拳が机を打ちそうなほど震え、顔は怒りで真っ赤に染まっている。


(劉家の若獅子が、牙を()いたか。あの赫燕を前に、一歩も引かぬとは)


「劉家の坊っちゃんは、随分とこの女にご執心らしいな」


 赫燕は、劉永を視界にすら入れず、その愉悦に満ちた視線をこちらに向けている。



 崔瑾は、赫燕と劉永のやり取りを観察しながらも、最終的には玉蓮を注視した。間者(かんじゃ)からの報告通り、瞳の奥には憎悪の炎が昏く燃えている。


 ——だが、それだけではない。


 決して焼き尽くされることのない、痛ましいほどの純粋な光。汚泥の中にありながら、(けが)れを知らずに咲き誇る白菊のようだ。


 矛盾をその身に宿している。憎悪と純粋さ、復讐と清らかさ。この姫の真実は——?


「——貴女(あなた)は、なぜこのような場にいらっしゃるのですか」


 崔瑾が問いを口にした、その瞬間。赫燕の口元が、ほんの微かに、しかし確かに、愉悦の形に歪んだ。


「……わたくしは」


 一瞬だけ赫燕に向けられた意識が、玉蓮の声に再び引き戻される。そして、彼女が小さく息を吸い込む音が、やけに大きく響いた。


「わたくしは、一つの道のためにここにおります」


 相手を圧倒するでも、(おび)える様子でもない、凛とした声が天幕に響く。


「道、ですか……」


 その一言が、頭の中でいくつもの意味に枝分かれしていく。


 目の前を見つめれば、燃えるような眼差しが返ってくる。闇に染まりながらも、決して失われない孤高の光。


(——なるほど)


 崔瑾は静かに頷き、その瞳を細めた。

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