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三十一話 華の策略 3

「次は、左手指、それが終われば足の指。少しずつ、少しずつ切り落とす! そなたの息子を切り刻むぞ!」


 誰かの喉からゴクリと音がする。玉蓮は、表情一つとして変えなかった。


「最後だ! 開門せよ! 降伏せねば、城内に血の雨を降らす!」


 息を吸い込む。


「城内の、にんげ——」


 一瞬、言葉が途切れた。


『——無辜(むこ)の民を蹂躙(じゅうりん)する道具であってはならぬ』


 師の言葉が蘇る。ゴクリと唾を飲み込んで、玉蓮は再び城壁上の望楼(ぼうろう)を見た。


(——先生)



「——兵、一人ひとりを同じ目にあわせる!」


 玉蓮が再び剣を振り上げると、城壁から絶叫が響いた。


「ま、待ってくれ! 開ける……開門する! 降伏する!」


「城主!」


「黙れ! 民を切り刻ませる気か! 降伏だッ! 開門せよ!」


 ——ギギギギ……。


 重苦しい地響きと共に、堅く閉ざされていた城門が、ゆっくりと開き始めた。玉蓮は、息を漏らすことなく、冷たい表情のまま、剣を鞘に納めた。







 制圧した城の中、玉蓮は、牢の前にいた。城主の父と子をそこに入れたのだ。


「おい……」


 口輪を外された男が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、震える声で玉蓮を呼んだ。


「なぜだ……」


 男は、自分の右手を見ていた。そこには、血こそ付いているものの、五本の指がしっかりと残っている。


「なぜ……俺の指がある……?」


 玉蓮は、懐から布を取り出し、自身の手についた血を丁寧に拭った。


「本当に切り落とす必要はありません。必要だったのは、あなたの指輪がはまった指だけ」


 戦場には、名もなき死体などいくらでも転がっている。形と大きさが似た指を探し出し、事前に奪っておいた指輪をはめることなど、造作もない。それに血を塗りたくれば良いだけだ。


「ハッタリは、戦の常套手段です」


「なっ……」


 男は呆然と口を開け、腰を抜かした。


 玉蓮は、冷ややかな瞳で見下ろして、口の端を吊り上げる。背を向けて、牢を後にする。


 廊下の暗がりに差し掛かった瞬間、玉蓮は、剣の(つか)を握りしめた。震える手を止めるために。あるのは、手のひらに残る死体の指の冷たい感触と、任務を遂行したという事実だけ。玉蓮は闇を見据え、迷いのない足取りでその場を去った。

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