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二十九話 柔らかい吐息 2

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇


 嵐が過ぎ去った朝靄(あさもや)の中、玉蓮は天幕から静かに出てきた。雨上がりの湿った土の匂いと、野営地の朝餉(あさげ)の支度を始める煙の匂いが混じり合っている。


 昨夜の感触が、赫燕(かくえん)が残した熱が、まだ身体の芯で(くすぶ)っている。朝の冷たい空気を吸い込むほどに、それらがふたたび蘇り、ふと現実が(かす)む。


 玉蓮が視線をめぐらせた時、天幕の影から、すっと朱飛(しゅひ)が現れた。彼は、まるでずっとそこにいたかのように、自然にそこに立っていた。


「——朱飛(しゅひ)


「……夜通しか。無事だったか」


 感情を削ぎ落とした、静かな響き。玉蓮が言葉に詰まっていると、彼の視線が首元に触れた気がして、玉蓮は反射的に襟を引き合わせる。彼の瞳が、ほんの一瞬、何かを(こら)えるように深く陰った。


「……無理はするな」


「……え?」


「飲め」


 朱飛(しゅひ)はそれだけ言うと、水の入った竹筒を差し出した。


「……熱を冷やせ」


「……っ」


 全てを見透かしたような言葉に、玉蓮は息を呑む。彼が背を向けて去っていく。それを見送りながら、玉蓮は、渡された竹筒のひんやりとした感触に、昨夜から身体にまとわりついていた熱を、ゆっくりと吸い取られていくのを感じていた。その冷たさに(すが)るように、玉蓮は竹筒を強く握りしめた。

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