一話 一振りの刃 4
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「——ここで死んだように暮らしていた方が、よほどましだったのではないかしら」
姉妹の声が、玉蓮の意識を現実に引き戻した。ふと気づけば、姉の温もりを探すように、己の腕を強く握りしめていた。爪の跡が、うっすらと赤く残る。
その手を懐に伸ばし、取り出した小さな守り鳥。硬質な木肌が、姉の手の温もりを微かに伝えてくれる。
「姉上……」
「取り柄の顔のおかげで生きてきて、その顔のせいで死んだのね」
「玄済の王太子は、美しいものを嬲り壊す趣味がおありだそうよ。養母の王后様でさえ、それに目を瞑っていらっしゃるとか」
「あの女はね、真っ白な手足を、一本ずつ切り落とされたんですって」
姉妹のひとりが、玉蓮の腕をなぞる。まるで品定めするように、指先が手首の骨を愛おしげに這った。
「……最後に残ったのは、美しい顔と胴体だけの、血塗れの塊」
「やめて、かわいそうよ。美しい皮だって、生きたまま剥がされたというのに」
——みしり。
乾いた鈍い音が、手のひらの中で響いた。小さな鳥の小さな羽。その片翼に、ひびが入った。木片のかけらが、構わず握りしめる指に鋭く食い込む。とぷり、と熱い液体が溢れ出し、指の隙間から床へと滴り落ちる。
姉妹たちの声も、嘲笑う唇の紅も、絢爛たる衣の彩りも、すべてが灰色に沈んでいく。瞼に焼きついているのは、姉の頬を伝った透明な涙の輝きと、婚礼衣装の目に痛いほどの赤。
ギリギリと歯がぶつかり、思わず噛み切った唇の端から、その赤と同じ血の雫がこぼれ落ちた。涙は一滴も流れない。鼓動がまるで火打ち石のように、胸の奥で火花を散らし、腹の奥底から、赤黒い何かが音を立てて燃え上がった。
目を閉じれば闇。姉の笑顔が浮かんだかと思えば、次の瞬間には血に塗れてバラバラに引き裂かれていき、その無惨な残像の奥から、せせら笑うかのように、血に濡れた王太子の幻影が滲んだ。
玄済国、王都・呂北の輪郭が、地獄の炎の如く脳裏に焼き付いて離れない。
——姉上。
玉蓮は真っ直ぐ顔を上げた。玄済の王太子、その喉笛を裂く日を見つめて。




