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二十三話 毒の熱 2

「お、お(たわむ)れを! おやめくださいっ」


 震える声で抗議し、唯一自由な左手で彼の胸を押し返そうとする。鋼のように鍛え上げられた体はまるで岩のように微動だにせず、逆に彼女の指先がその強靭(きょうじん)な筋肉に吸い付くようだった。


「ぁ……」


 太い指が玉蓮の顎を掴み、軽く持ち上げる。もがく小動物の抵抗を楽しんでいるかのように、赫燕の口角が釣り上がる。


 近づいてくる瞳に、玉蓮は金縛りにあったように動けない。彼の呼気が彼女の頬を撫でる。濃い酒の匂いと男の匂いに玉蓮がぐらりと揺らいだ。




「——お頭、朱飛(しゅひ)です」




 天幕の外から届けられた、静かで無機質な声。


 目の前の男の動きが、ぴたりと止まる。だが、赫燕は玉蓮を解放するどころか、そのままで、「入れ」と短く返した。幕が上がる音、次に朱飛が中に入ってくる足音が耳に届く。そして——ふう、と。普段よりも、わずかに長く、深い溜め息が落ちた。


「……何を、しているんですか」


「見てわからねえか。(たわむ)れている」


 朱飛の視線が、肌に突き刺さる。いっそ、このまま意識が途絶えてしまえばいい。そう思うのに、赫燕から目を逸らすこともできず、動くこともできない。


「……その遊びは、他でやってもらえませんか」


 朱飛の静かな言葉に、ようやく赫燕の視線が玉蓮から彼へと移った。そして、まるで飽きた玩具を放るように、少し乱暴に玉蓮を膝から下ろす。


「こいつを受け取りに来たのか?」


「……いえ、報告が」


 赫燕と朱飛の会話をよそに、玉蓮はよろよろと立ち上がり、乱れた衣服を整える。一刻も早くこの場から逃れようと出口に向かい、入り口を塞ぐ獣皮(じゅうひ)に指先が触れた、その瞬間——


「おい。まだだ」


 背を撃つような声が落ちた。ゆっくりと振り返れば、そこには不敵な笑みを(たた)えた男。玉蓮は、奥歯で何かを噛み砕くように耐え、再び赫燕の背後へ戻った。


 今度は、体重を乗せて、ぐっと指先に力を込める。やはり鋼のような筋肉は、それでもびくともしない。


「まあ、ないよりはましだな」


 赫燕は、楽しげに喉の奥で笑った。指先から染み込む熱が、じわじわと血管を巡り、おかしな(しび)れとなって心の臓を絡め取る。赫燕の前では、朱飛が感情のない声で、報告を読み上げ始めていた。

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