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闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
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百二十話 赫然たる闇を抱いて 1

 満月が夜空に煌々(こうこう)と輝き、その蒼白い光が地上に降り注ぐ、ある静かな夜のことだった。庭の草木さえもが、その光を浴びて淡く浮かび上がっている。月光に照らされた庭の奥、優雅な(てい)の中に、玉蓮は夜風に吹かれながら一人、身を置いていた。


 つい先ほど、深い眠りについている劉永(りゅうえい)の寝顔をそっと見てきたばかりだ。彼の安らかな寝息は、心に深い平穏をもたらしてくれる。そこに、音もなく静かな影がもう一つ現れた。


「玉蓮様……」


 低い声が、物思いに沈む玉蓮の耳に届く。見上げれば、片目に古傷を残した優しい瞳が、玉蓮を映し出していた。


「夜は冷えますので、お体に障ります」


 そっと差し出された厚手の衣が、夜の冷気から玉蓮を守るように、その肩にかけられる。その温かさに、玉蓮は息を吐いた。


「……阿扇(あせん)


「……劉永様がご心配されますので、お早めにお戻りを。私は少し離れて控えております」


 阿扇はそれ以上は何も言わず、主の安寧を乱さぬよう、数歩下がって闇に溶けようとする。あの崩壊する屋敷で、命を賭して玉蓮を守り抜き、奇跡的に生還した忠義の士。その背中を、玉蓮は呼び止めた。


「……阿扇、待って」


 呼び止められた阿扇は、振り返る。


「わたくしの傍にいてくれて、生きていてくれて……本当に、ありがとう」


 阿扇は一瞬、驚いたように目を見開き、やがて深く、柔らかく微笑(ほほえ)んだ。


「礼には及びません。私は、貴女様をお守りしたいのです……それが、崔瑾様が遺してくださった、私の天命ですから」


 阿扇の言葉が、夜風に乗って優しく響く。彼はもう一度深く頭を下げ、主君の妻を守る影として、闇へと下がっていった。

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