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闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
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百十九話 息吹 2

 劉義(りゅうぎ)と涙を浮かべた温泰(おんたい)、そして茶を持つ翠花(スイファ)がやってくる。温泰(おんたい)の目は、孫の誕生を待ちわびるかのように、喜びで潤んでいた。


「このじいは、もう、思い残すことはございません……! あのような修羅場を乗り越え、このような日が来るとは!」


 温泰(おんたい)は、感極まったように声を震わせ、何度も袖で目頭を押さえた。


「ふふ、温泰(おんたい)様は毎日のようにおっしゃっていますね」


「……まったく、その言葉、何度目だ」


 劉義が呆れたように笑い、翠花が無邪気な笑い声を上げる。


「愚息と愚弟子のせいで、私は朝廷で睨まれているがな。おかげで隠居どころか、連日激務だ」


 劉義がそうぼやけば、劉永と玉蓮の顔が一斉にそちらに向けられる。


「なんと、父上。天才軍師・劉義ともあろうお方が、一国の大臣どもさえ(ぎょ)せないとは」


「そうです、先生。先生に不可能はございません。なんなら、反する者は、わたくしが葬ります」


 玉蓮が穏やかに微笑(ほほえ)みながら口にした冗談に、劉義はぎょっとした後、いつものように深いため息を漏らした。


「さすがです、奥様! 腕が鳴りますね!」


 翠花(スイファ)が得意げに胸を張る。


「玉蓮……全く、お前は母になるというのに相変わらずだな」


 劉義は、苦笑しながら玉蓮の頭をなでつける。その手つきは、かつて教え子に向けたものよりも、ずっと柔らかい。


「まあ、問題ない。玉蓮が持ち帰った証拠によって、大孤(だいこ)玄済(げんさい)、そして元・夏国(かこく)の者……その全てが白楊(はくよう)に礼をとっている。全ての国を貶めていた、腐敗の根幹を除いたのだからな」


「そうですぞ、劉義様! 姫様が嫁いでこられ、さらにはこんなにも大きな幸福が訪れるなど!」


温泰(おんたい)は相変わらずですね」


 涙まじりに玉蓮は笑う。


「姫に何をするって、あんなに怒っていたのにね」


 劉永は朗らかに笑った。その声は、屋敷の縁側に明るく響き渡る。


 玉蓮は、その響を、そして腹の内で動く新しい命の気配を、縁側に差し込む温かい陽光と共に、全身で受け止めていた。後宮の冷たい石の床でも、血と鉄の匂いがする戦場でもない。ただ、愛する人々と穏やかな日差しに包まれて、新しい命を育む場所。


(えい)兄様……」


「ん?」


「わたくし……幸せです」


 繋いだ手を劉永が口元に運んで、慈しむように唇を落とす。そんな日常が眩しくて、玉蓮は劉永の肩に頭をゆったりと預けた。


 庭を吹き抜ける風が、新しい季節の香りを運んでくる。

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