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闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
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百十八話 炎の果てに

 玉蓮が後宮の門をくぐり抜けると、そこにはすでに白楊(はくよう)国の兵たちが雪崩れ込んでいた。燃え盛る建物の熱風が肌を焼き、瓦の崩れる音と鼻を突く異臭が充満している。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。だが、彼女はその混乱の中、一つの旗印だけを必死に探した。


 きっと——いや、必ずある。赫燕(かくえん)が、そして崔瑾が託した希望の色。(あい)地に白く染め抜かれた『(りゅう)』の文字が。


 煙を切り裂くように、その旗は(ひるがえ)っていた。燃え盛る都の中心で、一騎、天を仰いでいる男の姿。劉永。彼はもう戦ってはいなかった。周囲の喧騒から切り離されたように、世界の終わりと始まりを見届けている。その視線が、ふわりと玉蓮を捉えた。


 そこに宿っていたのは驚きではない。信じていたものが、ようやく目の前に現れたときの、深く、熱く、穏やかな光。玉蓮はゆっくりと、彼の元へと歩み寄る。その足取りにもはや、迷いはない。


「……(えい)、兄様」


 彼は何も言わなかった。馬から飛び降りて駆け寄り、泥と血にまみれた玉蓮の体を、その広い腕の中に力強く抱きすくめた。確かな熱を帯びた体温。懐かしい香気。張り詰めていた糸が切れ、玉蓮の体からふっと力が抜ける。


「待っていたよ」


 その言葉に込められた安堵と慈愛に、玉蓮の瞳から涙がこぼれ落ちた。


 ——赫燕(かくえん)崔瑾(さいきん)。そして家族と仲間たち。


 多くの命が、その魂を賭して切り開いてくれた道。それは復讐のためだけではない。玉蓮が「生きる」ための道。この先を、全てを背負って生きてゆくのだ。


「……はい」


 玉蓮は涙を拭い、顔を上げて微笑(ほほえ)んだ。(すす)けた頬を、幾筋もの涙が洗っていく。


「……ただいま、戻りました」


 劉永は優しく頷き、彼女の背を支えた。


「ああ、白楊(はくよう)国に帰ろう」


 炎のうねりの中で、その瞬間だけ、風が止んだ。崩れ落ちる王宮。滅びゆく国。全ての終わりと、全ての始まり。玉蓮は、自分の口元が微かに綻んでいることに気づいていた。

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