表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
208/214

百十七話 天命の盤 1

「どうせ、この国は沈む。そうだろう、白楊(はくよう)の華よ」


「おっしゃるとおりです、太后(たいこう)様。奇しくも、貴女様が流行らせてくださった白菊の童歌(わらべうた)のように、家も、国も、火に飲み込まれましょう」


 太后(たいこう)は心底おかしいとでも言いたげに、高く笑い声を上げた。その狂ったような響きが、室内に反響する。


「はっ、それにも気づいておったか」


「『白菊の花弁に触れたなら、国は紅に染まる』……そう定めたのは、貴女様です」


「いかにも。早く逃げねば、そなたも焼け死ぬぞ。すでに白い衣が血に(まみ)れて……」


 太后の視線が、玉蓮のはだけた胸元に吸い寄せられた、その瞬間。彼女の能面のような無表情に、ピキリと亀裂が入った。


「——なぜ、それを! なぜ、そなたが持っている!」


 玉蓮は答えず、胸元の(つい)の紫水晶を指先で包み込んだ。


(つい)の紫水晶。夏国(かこく)の王が()いていた国宝。私がその首を()ねた時には、もうその首元にはなかった。貴様、どこで手に入れた」


「これは……私の大切な人が遺したものです」


「……誰だ」


「——白楊(はくよう)国・大将軍、赫燕(かくえん)


 太后は目を見開き、そして、玉蓮が懐から取り出したもう一つのもの——あの匕首に視線を動かした。


(えん)……(えん)か! あやつ……生き延びておったのか。あの燃える城から。蘇月(そげつ)め、よくも私を出し抜き、(えん)を逃したな」


 彼女の喉から、ぜいぜいと焦燥の混じった空気が漏れる。


「なぜ、我が子を殺そうとしたのですか……なぜ国を裏切ったのです!」


 玉蓮の問いに、太后は、初めて完璧な氷の仮面をかなぐり捨てた。


「あの国が、私に何をしてくれた! あの男が、私に何をもたらした!」


 その美貌が、憎悪で醜く歪む。


 ズゥン、と腹に響く低い音が鳴り、壁に亀裂が走った。隙間から漏れ出した黒い煙が、天井の美しい装飾画をどす黒く塗り潰していく。


「私は、(せん)国からあの国に贈られた。牛や馬と同じ、姉の『おまけ』としてな! 理由がわかるか? 私は子を宿すための道具、姉のためのただの『腹』だ!」


 血を吐くような叫びが、高い天井に叩きつけられた。


「男児を産んでも、王后(おうこう)である姉の嫡子(ちゃくし)となる。ゆえに、姉を殺し、その座を奪ってやった。だが、あの男はッ……! いつまでも、私を見ようとはしなかった! あの男の瞳に映るのは、いつだってあの死んだ女の幻影ばかりだ!」


 太后の言葉は鋭い刃となって、熱を帯びた空気を切り裂く。


「私は道具ではないッ!!」


 絶叫と共に、彼女は盤上の石をことごとく()ぎ払った。バラバラと、白黒の石が床に無残に転がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ