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闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
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百十六話 龍の叫び 3

 王の目から、だらだらと透明な液体が溢れていく。全身が小刻みに震え出して、手を置いた床と擦れて奇妙な音を奏でていた。


「そなたは、知に乏しく、程度の低い傀儡(くぐつ)にすぎぬ。(ぎょ)しやすい子供は、育てやすいことこの上ない。皮肉なことに、私の実子、()の王子とは比べものにもならぬ。あれは天賦(てんぷ)の才という類の者だったからな」


 あまりにも冷酷な声。王は信じられないものを見たかのように、ぐにゃりと力を失って床に沈んでいく。その実、王はあまりにも太后に忠実だった。母と崇め、間違った孝を積み、常にその女が示す道を「正」として歩んできたのだから。


「あ、あ……」


 太后から存在そのものを否定された王。その瞳は、救いを求めるように部屋の中を彷徨う。焦点の定まらない視線が、やがて一点に釘付けになった。あの香炉の欠片。


 王は、溺れる者が(わら)を掴む執念で地を這い、欠片へと肉薄した。そして、その欠片を震える両手で、乱暴に掴み取った。


「嘘だ……お前は、王たる私に偽りを申している! は、母上が私を、私の母を殺めるはずがない……母上は、私を愛している!」


 彼は、充血し焦点の合わない瞳で玉蓮を睨みつけた。


「私が証明してやる……これが、ただの香炉であることを!」


「大王……」


「母上、見てください……私が……私が母上の無実を……」


 王は一度も太后や玉蓮のいる方へと振り返ることなく、まるで何かに突き動かされるように、勢いよく扉を開け放つ。廊下は既に、炎の渦と化していた。猛烈な熱波と、炎が食らいつく木材の焦げる臭いが室内に流れ込む。


 龍袍(りゅうほう)を纏った男は、香炉の欠片を胸に抱え込んだまま、その炎の渦の中へと迷いなく身を投げた。自らの身を焼き尽くし、それが毒煙とならないことを証明するために。


「……ふ、まったく。優秀な崔家(さいけ)の血筋とは思えぬな。猛火に巻かれれば、香炉などただ砕け散るのみ。煙の毒性など確かめる術もないというのに。愚か者め」


 遊び終わった玩具を見るかの如く、王が消えた炎の中へ一瞬だけ冷たい視線を向け、太后はつまらなさそうにため息をついた。


 玉蓮は、無意識のうちに拳を握り閉めている自分に気づく。

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