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闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
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百十二話 蜘蛛の過去 2

 玉蓮の思考が、一瞬凍り付いた。周礼は、その表情を恐怖だと受け取ったのか、さらに二杯目を口にして、舌を滑らかにする。


太后(たいこう)様は、元は玄済(げんさい)国の北にあった国の王后(おうこう)だったのです。かの国は、(つい)の紫水晶が国宝とされる、美しい国でした。その国の王は、飢饉(ききん)に見舞われた我が国と大孤(だいこ)を救った心優しき王。ですが、翌年は自国が飢饉に見舞われた。そこで助けを求められたのは、我が国と大孤(だいこ)……」


 くふ、と喉から不快な音を漏らす。


「無論、我々は、大いに侵略しました。しかし、その手引きをしたのは誰あろう当時の王后(おうこう)。今の太后(たいこう)様、ご自身ですよ。気高き騎馬民族の王は、自らのきさきに裏切られ、その首を落とされた。傑作ですな」


 周礼は、その杯を高々と掲げた。まるで、死んだ王を嘲笑(ちょうしょう)するかのように。


「そして、若君……母に似て見目の良い、美しい王子であったとか。しかし、太后(たいこう)様にとっては邪魔な駒。燃やしてしまわれたのです。城ごと、国ごと、過去の全てを灰にするために」


 男はそこで一度言葉を切り、玉蓮の顔を覗き込むように下卑た笑みを浮かべた。三杯目の酒を、玉蓮の足元にまるで供物でも捧げるかのように、無作法にこぼしてみせる。


「火の勢いが余りに凄まじく。その若君の亡骸(なきがら)も、国宝の紫水晶も、ついに見つからなかった……哀れなことよ、実の母に焼かれるとは」


 その下劣な笑い声は、玉蓮の耳にはもはや届いていなかった。ぐらり、と。部屋が歪む。耳の奥で、何かが千切れる音がした。


 ——赫燕(かくえん)の心の闇。


 ——光を失った、(くら)い瞳。


 ——対の紫水晶。


 ——燃え落ちる城の記憶。


 ——『父上』という叫び。


 全ての点が、一本の灼熱の鉄線となって脳を貫いた。玉蓮は、懐にしまわれたその石に触れるかのように胸を押さえた。指先が微かに震える。胸があまりにも熱い。怒りとは違う(くら)い炎が燃え移っていく。



(あなたは——)



「安心なされよ。崔瑾と違い、私は貴女様を、生涯大切に愛でて差し上げますゆえ」


 何も気づいていない周礼が、勝利を確信した手つきで、玉蓮の肩へと手を伸ばした。

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