百十話 桃の木の真実 2
だが、玉蓮の目を釘付けにしたのは、その一番上に置かれていた一通の奇妙な書状だった。
「これは……」
崔瑾の筆跡ではない。荒々しくも流麗な筆致。
【要を壊せ。これは、その証拠だ】
玉蓮の手が震えた。その書状の下には、『元后崔氏・崩御記録』。そして——。
『……王后宮、寝所、焼け跡より『龍の香炉』の破片、発見さる。火元とは異なると見られる。ただし、香炉の形状、紋様の詳細は焼損により判別不能……』
芳梅の証言と、あの龍の香炉の欠片。玉蓮がたどり着いた太后の罪。その、決定的な裏付けとなる証拠が、今、ここにある。
赫燕が、なぜあの進軍路を選んだのか。太后と赫燕の繋がりとは——
思考が繋がり、衝撃で息ができなくなる。喘ぐように空気を吸い込んだ玉蓮の視界に、箱の底に挟まれた、崔瑾自身の筆跡で書かれた短い文が入った。
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玉蓮殿
もし貴女がこれを読んでいるのなら、私は、貴女を守り通すという、夫としての約束を果たせなかったのでしょう。申し訳ありません。
ですが、盤は、まだ終わってはおりません。
赫燕大将軍の死は、終わりではなく、白楊本軍を呂北に導くための、一手です。彼は、自らの死と、玄済の混乱そのものを狼煙とする策を選んだ。
白楊国の将は、赫燕だけではない。赫燕がその影にわざと隠していた劉家が、彼の死を合図に必ず動くはずです。
この箱に、我らが集めた全てを入れています。戦場で赫燕大将軍から託された『宝』と共に。そこにはきっと、私ではわからない真実があるはずです。
どうか、貴女の信じる「道」のために。生きてください。貴女が、いつか心から笑える日が来ることを、信じています
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涙が、ぽたりと落ちた。赫燕が遺した、紫水晶の刻印。崔瑾が遺した、この真実。二人の英雄の、あまりにも重く、あまりにも切実な遺志が、今、確かに、玉蓮の両の手にある。
二人が命を賭して遺した武器。玉蓮は、全ての証拠を、龍の香炉の欠片と共に寝所の箱の奥深くへとしまい込む。そして、涙を拭い、赫燕の匕首を鞘から抜き放った。冷たい刃が、月光を反射して鋭く輝く。
(……この「道」の先へ)
玉蓮は立ち上がった。屋敷の門の向こうから、騒がしい足音と、周礼の傲慢な笑い声が聞こえ始めていた。
「夜」が、来たのだ。




