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闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
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百九話 英雄の背中 1

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇


 宦官(かんがん)に向かって侍女たちが「お待ちください」とすがりつくが、男は聞こえていないかのように進んでいく。冷酷な笑みを浮かべ、有無を言わさぬ圧力で彼女たちをなぎ払う。


「さあ、公主様。輿(こし)へどうぞ」


 再び促す声に、玉蓮は深く息を吐いて唇を噛んだ。この輿に乗れば、二度とここへは戻れない。重い足取りで一歩踏み出し、足をかけた、その時。



 ——ドドドドッ!



 遠くから、けたたましい(ひづめ)の音が鳴り響いた。深緋(こきひ)の衣が風雨を切り、疾風のごとく駆け込んでくる。


「玉蓮殿!」


 聞き慣れた、けれど今まで聞いたこともないほど切羽詰まった声。玉蓮ははっと顔を上げた。泥を撥ね上げて馬から飛び降り、玉蓮目掛けて走ってくるその男は、崔瑾(さいきん)。彼は玉蓮の腕を掴み、その体を自分の方へと強く引き寄せた。


「——旦那様ッ!」


 安堵と共にその胸に飛び込もうとした、刹那。




「——————逆賊、崔瑾を捕らえよ!」




 雄叫びのような号令が、再会の一瞬を引き裂いた。屋敷の四方から王の兵が湧き出し、瞬く間に包囲される。ゆらめく無数の刀剣、威圧的な槍の穂先が、容赦なく二人を取り囲んだ。


「は——」


 玉蓮の唇から息が漏れ落ちる。心の臓が早鐘を打ち、視界が歪んだ。崔瑾は玉蓮を背に庇うように立ち塞がる。


「崔瑾様をお守りしろ!」


 馬斗琉(ばとる)をはじめとする崔瑾の腹心たちが、一斉に抜刀する。だが、崔瑾がそれを鋭く制した。


「やめよ、馬斗琉! 剣を収めよ!」


 主の絶叫に、馬斗琉の動きが止まる。目の前で、崔瑾の表情が一瞬、苦渋に歪み——そして、全てを受け入れたかのように静かに()いだ。


「抵抗すれば、全員が殺される……剣を捨てろ」


 その一瞬の隙を、王の兵は見逃さなかった。彼らは電光石火の速さで側近たちに襲いかかる。馬斗琉は数人の兵に組み伏せられ、その剣が泥水の上に転がった。


「お待ちください! 旦那様は大都督。反逆のはずがありません!」


 玉蓮が叫びながら前に出ようとするが、崔瑾の腕がそれを強く制する。


「こやつは、許可なく軍を動かし、王命を阻止するという暴挙に出た。その罪は万死に値する」


 指揮官が冷酷に告げた。その言葉には一片の躊躇もなく、まるで台本を読み上げるような響きだけがある。


「で、ですが、旦那様は、いつもこの国のために!」


「王命に背くのは、もはや何度目かわからぬ。度重なる不敬に加え、王位簒奪(さんだつ)を狙ったとして、大王より捕縛の命が出ている」


 指揮官はそう言い放ち、抵抗しない崔瑾の腕を荒々しく縛り上げた。


「王位、さん、だつ——?」


 誰よりも国を思っていた男を、簒奪者と呼ぶのか。玉蓮の声が震え、消えていく。胸の奥から込み上げる苦さが、喉を締め付ける。

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