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闇を抱く白菊 —天命の盤— 復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。  作者: アリスの鏡
第十四章 蛇の讒言(ざんげん)、蜘蛛の罠
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百八話 蛇の舌 2


 周礼は大王の間を出ると、そのまま後宮の最奥、太后の居室へと向かった。重い扉を開けると、そこには伽羅(きゃら)の香が淀むように満ちている。王の部屋の熱気とは違う、肌を刺すような冷気が漂う。


「印庫と、当時の太医局の者は」


 氷のように冷徹な声で、太后が問う。周礼はうやうやしく背を伸ばした。


「ご安心を。古い者は皆、辺郡(へんぐん)へ飛ばすか、病死いたしました。余計な口は、もう都には一つもおりませぬ。それに、当時の記録などは、全て旧王都の書庫に……」


「ククッ……」


 太后の喉から、押し殺した笑いが漏れた。


「赫燕大将軍が、燃やしてくれたのであったな」


「左様でございます。奴のおかげで、当時の『不審な死』に関する証拠は、全て灰と化しました。いずれにしろ、香炉の意匠部分やあの場の(むくろ)などは、全て無縁墓地へ捨て置きましたゆえ、記録があったところで意味はないのですが」


 これで、誰も過去を掘り返すことはできない。あの若造が何を嗅ぎつけていようとも、証拠などどこにもないのだ。


「王はどうだ」


「太后様の筋書き通りに。崔瑾を反逆者と認定いたしました」


「よろしい。遅らせるでないぞ」


「は。明日のうちに、残りも片づけます」


 太后が卓上の(ろう)を長く伸びた爪で軽く弾くと、薄い蝋片がはらりと落ち、床の闇に消える。取るに足らぬ羽虫でも払うかのような仕草と共に、彼女は能面のような笑みを浮かべて呟いた。


「証拠なき真実は、妄言と同じ。見えぬものは、無いのと同じだ……愚かな英雄よ」


 周礼は音もなく平伏した。床に向けられたその瞳の奥には、闇夜に光る毒蛇のような、爛々(らんらん)とした光が宿っていた。

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