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九十八話 河伯の祠 2

「……わたくしが……お手伝い、いたします」


 その声は、枯れ葉が擦れるように乾き、掠れている。だが、その抑揚の端々に、かつて高貴な場にいた者特有の静かな響きが残っている。老婆の指先は枯れ木のように硬く節くれ立ち、玉蓮はその手に戸惑いながらも身を任せた。


「類稀なる、お美しさ……どちらの、ご夫人でいらっしゃいますか?」


「わたくしは、崔家夫人、玉蓮です」


 ヒュッ、と老婆の喉が鳴った。次の瞬間、彼女は糸が切れたようにその場に崩れ落ち、額を岩肌に擦り付けて平伏していた。


「……ぁ……あ……!」


 嗚咽(おえつ)のような、獣の唸り声のような音が、震える背中から漏れる。岩に落ちた雫が、黒い染みを作っていく。


(ほう)、何をしているのです。立ちなさい」


「いいえ! いいえ……!」


 巫女の声にも首を激しく横に振り、その瞳から涙を流し続ける。玉蓮が戸惑いながらも手を差し伸べると、彼女は怯えたように身を縮め、さらに激しく涙を流した。その姿があまりに痛ましく、玉蓮はその痩せ細った背中をさすった。骨と皮ばかりの感触が、手のひらに伝わる。



「……これは……一体」


「……崔夫人。この者は、二十年ほど前、この(ほこら)の前で倒れていたのを、先代の巫女が助けたのです。火傷がひどく、当初は言葉も……。時折、何かを思い出すのかこのように取り乱すのです。どうかお許しを……」


 頭を下げる巫女に、玉蓮は無言で頷いた。そして、(ほう)の、布で覆われた顔をじっと見つめる。


 この怯え方は、尋常ではない。


「巫女様。少しの間、(ほう)と二人にしていただけませぬか。少しだけ話がしたいのです」


「……御意」


 巫女の足音が遠ざかり、枯れた泉に静寂が戻る。玉蓮は膝をつき、できるだけ穏やかに(ほう)に語りかけた。


「崔家と縁があるのですか?」


 平伏していた(ほう)が、ゆっくりと頭を上げる。焼け残った目蓋(まぶた)が微かに震えながら開かれると、そこには、どこか悲しげな色に濡れている瞳があった。彼女は玉蓮をじっと見つめ、喉奥で音を鳴らし、やがて何かを決意したように大きく息を吐き出した。

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