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九十三話 戦いの火蓋

◇◇◇ 朱飛(しゅひ) ◇◇◇


 赫燕(かくえん)軍の猛攻はさらに激しさを増した。その勢いは、まるで玄済(げんさい)国を食い尽くすかのような貪欲さで、各地にさらなる絶望をもたらしていく。進軍の軌跡は、血と灰で描かれ、そこには敵の屍だけでなく、赫燕軍自身の血もまた、乾いた土に染み込んでいった。


 進軍に、もう言葉は要らない。その瞳は、目前の城ではなく、その遥か先——玄済(げんさい)国都・呂北(ろほく)だけを見据えている。


 疲弊しきった顔に(たた)えているのは、もはや忠誠心ではない。誰もが、飢えた獣のような、ぎらついた強い光を宿している。その先頭で、紫紺(しこん)の衣を纏った赫燕は、王のように堂々と前だけを見据えている。



 数刻前。本陣に戻った斥候(せっこう)から、赫燕と朱飛が報告を受けていた。広げた地図を指し示していく。


祈雨(きう)の儀の行列は?」


「ここからおよそ五十里、呂北(ろほく)西郊(せいこう)駅亭(えきてい)にて、道中の者どもが言っていたそうです。馬車が連なり、西苑(せいえん)に向かっていると。そして、西の市場に『青布・麻縄・太鼓台。今夕、西外水門道へ』と掲示あり。墨はまだ湿っていたため、今まさに動いているときかと」


 斥候は、そこで言葉を切った。


「お頭、もう一つ。西外(にしそと)水門手前の葦原(あしはら)(ふち)で、板道を打つ槌音(つちおと)が途切れません」


「——いつからだ?」


「昨日から、ずっとです」


 日照りが続いているといっても、あの霜牙(そうが)の入り口、葦原(あしはら)の大地は常にぬかるんでいる。そこに板道を打つ、つまりは仕掛けがあるということだ。


 赫燕は、地図上で指先を滑らせて、西へ細く一本、線を引く。


「朱飛。祈雨(きう)の行列は、西苑(せいえん)西外(にしそと)水門を通り、そのまま河伯(かはく)(ほこら)に向かうだろう。崔瑾(さいきん)に、さらに兵を割かせるぞ」


 その声は、白み始めた空に溶けていった。

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