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八十六話 髑髏台の報せ(どくろだいのしらせ)

◇ 玄済(げんさい)国 斥候兵 ◇


 ——鼻につくのは、血と脂の焦げる匂い。


 斥候(せっこう)は、玄済(げんさい)国の旧王都・盛楽(せいらく)を見下ろせる丘の草むらに腹這いになり、込み上げる吐き気を必死に(こら)えた。まるで、大地を黒く覆い尽くし、草一本残さず喰らい尽くす(いなご)の群れ。ここ数ヶ月、玄済(げんさい)国を震撼させている赫燕(かくえん)軍の進軍は、まさに災厄そのものだ。


 敵国・白楊(はくよう)の筆頭、大将軍となった殺戮(さつりく)の将——赫燕。赫燕軍は、玄済(げんさい)国の首都・呂北(ろほく)の西に広がる十五の都市を、わずか二十日で()とした。春が芽吹き始めるはずの大地は、あまりに生々しい焦土(しょうど)に変貌していた。



 くすぶる黒煙、焼け落ちた村々、炭と化した家屋、崩れた(ほこら)。煙に混じって、乾ききった土の匂いがする。大地そのものが悲鳴を上げているかのようだ。空には蠅が飛び交い、遠くに積み上げられた「(けい)」——首級の山が、白く光る朝日に照らされている。その高さは城壁に届くほどで、死の証が誇示されるかのように天を指している。


 そして、城門前に築かれた、髑髏(どくろ)台。白く磨かれた頭蓋骨だけで組み上げられた異様な塔。どのように作ったのかなど、想像もしたくない。


 だが、何よりも恐ろしかったのは、その静けさ。これほどの破壊と殺戮を行いながら、赫燕軍からは、勝利の(とき)の声一つ、聞こえてこない。ただ、淡々と、まるで農夫が畑を耕すかのように、彼らは命を刈り取り、大地を焼いていく。その、あまりにも無感情な営み。


 人の所業ではない。赫燕軍は、もはや軍ではない。これは、戦術でもなく、占領でもない。呪いの行軍。喰らい尽くすまで止まらぬ、(とが)に満ちた者たちの行進。



 黒煙は、風に押され、王都・呂北(ろほく)の方角へ細く長く流れていく。風のせいだ——そう思い込もうとしても、胸の奥では、都の喉に(すす)がたまっていく幻影が離れなかった。


崔瑾(さいきん)様にッ……報告、しなければ」


 このままでは、都全体が黒い煙に覆い尽くされ、生きるものすべてが窒息してしまうのではないか。そんな悪寒が、背筋を凍らせる。

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