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七十八話 魅惑の才気 3

 玉蓮は、その様子を見下ろしていたが、やがて、わずかに柔らかくなった声で「立ちなさい」と告げる。


 まるで舞を踊るかのように、玉蓮は優雅に手を動かし、美しい弧を描くと、令嬢たちの細い腕を取り、その場に立たせた。彼女たちは、恐る恐る身を起こすも、玉蓮と視線を合わせぬように、()し目のまま。


「お、恐れ入ります、崔夫人」


 か細い声で呟く令嬢たちに、玉蓮は、ふっと薄い笑みを浮かべる。


「高官のご令嬢方が挨拶もできぬなど、あってはならぬことですからね。気をつけるように」


 令嬢たちは、「はい……」と力なく答えることしかできなかったが、彼女たちの顔には、悔しさよりも安堵の色が浮かんでいる。これでようやく、この恐ろしい時間が終わるのだとでも言いたげに。



 玉蓮はゆっくりと寸分の乱れもなく身を(ひるがえ)した。そして、彼女は令嬢たちに背を向けたまま、顔だけを少し横に向け、立ち止まる。


「皆様のように声高(こわだか)に訴えずとも、地位も礼も、然るべきところに収まるものですわ」


 声はあくまで軽やかに、立ち居振る舞いは優雅を極め、その纏う態度は微塵も崩れぬ威厳を保つ。


「では」


 短い別れの一言とともに、玉蓮は、崔家(さいけ)正室としての自らの格と、その地位に求められる品位を完璧に体現しながら、その場を去っていく。その、威風堂々たる背中を、阿扇は一歩も遅れず、そして一言も発さずに追いかけた。



 しばらく歩いたところで、玉蓮と翠花(スイファ)がどちらからともなく笑いだした。翠花(スイファ)は目を輝かせ、玉蓮を見上げる。


「奥様、本当に格好良かったです!」


「私は、やりすぎだと思います。あのような下賎(げせん)な会話など、捨ておけば良いものを」


 阿扇が呆れを隠さずにそう伝えると、玉蓮が首だけで振り返り、悪戯に笑う。薄紫の衣がきらりと光を放つように(ひるがえ)る。


「旦那様が側室を娶らぬ意味もわからぬというのに。あの程度のことで怯えるような令嬢たちが、崔家に嫁ごうなどと笑止千万」


 人差し指を立てて、どこか得意げに言い放つ玉蓮の堂々とした態度に、阿扇は思わず頭を抱える。


「大人げないですよ。もっと穏便に済ませるべきでした」


「あら。きっと、わたくしと年齢はそう変わらないはずだわ」


「だからと言って、あそこまで挑発に乗る必要はなかったかと。奥様の品位を疑う者も出てくるかもしれません」


 阿扇は、なおも諭そうとするが、玉蓮は首を横に振る。


「言わせておけばいいなどと思わない。ああいった中傷は、真っ向からねじ伏せるの。大いなる皮肉でね。そうでなければ、こちらの立場が(ないがし)ろにされるだけ。わたくしは妻として、崔家の名誉を守る義務があるもの」

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