表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/214

七十七話 炎の内側 1

◇◇◇ 阿扇(あせん) ◇◇◇


 秋の風が市場の香辛料と果物の香りを運ぶ中、阿扇(あせん)は玉蓮と街を歩いていた。朝、崔瑾(さいきん)に呼び出されたかと思えば……


「玉蓮殿の気分転換に、街に連れて行って差し上げてください。阿扇には、護衛を頼みます」


 そう言って、崔瑾が朝議(ちょうぎ)に行ってしまったからだ。


 阿扇は悪戯なほどに、にこやかな主の顔を思い出して、大きく息を吐く。


(この姫に、護衛など必要ではなかろう)


 何かあれば、傍にいる翠花(スイファ)を守りながらも、相手を圧倒してしまうほどの武を持っていることは明らかだ。おおやけに剣を持つことができない点が男よりも不利なだけ。


 視線の先では、(かんざし)の店に入った翠花(スイファ)が、玉蓮に歩揺(ほよう)を差し出して笑っていた。


「奥様、こちらはいかがですか? 旦那様がなんでも買って良いとおっしゃったそうですよ」


「欲しいものは、ないのだけれど……」


 差し出された装飾具たちを視界に映す玉蓮の少し後ろに立ち、阿扇は目の前の煌びやかなそれを手に取った。明らかに上等の石を使った、精巧(せいこう)で華美なもの。


(かんざし)でも、織物でも、お好きなようにされれば良いのでは。こちらの(ぎょく)は珍しいものかと。まあ、王宮とは勝手が違うかもしれませんが」


 玉蓮は、阿扇の手の中の簪を一瞥(いちべつ)し、翠花(スイファ)に視線を戻す。そして、台の上に置かれた別のものを指し示す。


翠花(スイファ)、こちらの(かんざし)を」


「承知いたしました、奥様」


 跳ねるようにして、翠花(スイファ)が店主の元に駆けていく。


「そうね、確かに違うわ。後宮では包子(パオズ)一つ手に入れるのも死に物狂いでしたから。旦那様に感謝しなければ」


「……は?」


 玉蓮の言葉に、阿扇は、勢いよく顔をそちらに向けた。彼の知る公主とは、豪華な衣装を身につけ、山海の珍味を味わい、何不自由なく暮らす存在だったからだ。玉蓮の顔には、柔らかな微笑(ほほえ)みが浮かぶだけ。


(ぎょく)はもちろんのこと、衣も(かんざし)も……全て縁ないもの」


 玉蓮は、淡々とそう付け加えた。その声には何の感情も込められておらず、まるで当然のことのように聞こえた。


 阿扇は、玉蓮の纏う上質な衣や髪に挿された簡素ながらも美しい(かんざし)に目を向けた。それらは、彼女が「縁ないもの」と語るにはあまりにも自然に玉蓮に馴染んでいる。


 玉蓮は、紛れもなく美しい。この広い天下に美女はいるといえど、これほどの容貌はまさに類稀なるものだろう。透き通るような白い肌、夜空の星を閉じ込めたような瞳、そして桃の花びらのような唇。その全てが、絵画から抜け出してきたかのような完璧な形を作っていた。


白楊(はくよう)の華だぞ——?)


 これだけ美しい公主と、装飾具に縁がないという言葉が、阿扇の頭の中でちぐはぐに絡み合う。


「それほど早くから、戦にでられていたのですか?」


 知るつもりなどなかったのに、ふと沸いた疑問をそのまま口にしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ