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七十五話 仮面の下 3

 (しょう)将軍の手が、引き出しの取っ手に伸ばされたが、そこにかかったまま動かない。眼差しは揺れ、何かを飲み込むように喉が上下した。やがて、指先に微かに力が入ったかと思うと、彼は小さな引き出しから帳簿を取り出した。


「これが、(しょう)()様と関係がある記録の写しです」


 彼は目を伏せ、震える手で帳簿を差し出した。


 玉蓮は写しを受け取り、紙をめくった。指先が走るように書き込みを追う。


 一見すると整然とした記録。だが、そこに記された名前と数値が、脳裏にかすかに残っていた噂と重なった。特定の女官や宦官の異動、不自然な物資の動き。それらが示すものは、決して偶然ではない。


「将軍。(しょう)()様の宮に、事件のわずか三日前、太后宮から十名もの宮女が一度に送り込まれていますね」


 屈強なはずの(しょう)将軍の顔が、見る間に青白くなった。


「……太后様が、(しょう)()様に懐妊の兆しが見られるとおっしゃられたそうです。人が必要だろう、と。漢方も多量に賜ったそうです……」


(しょう)()様は、ご懐妊を?」


「王宮でもごく一部の者しか知り得ぬことでした。慎重な(しょう)()様は、身を守るため、漢方を丁重にお断りになられました。それが……すべて太后様の計算通りだったのです」


 将軍は卓を握りしめ、白くなった拳を震わせる。


「大王には、こう伝わりました。『(しょう)()様が、太后様から賜った漢方を毒だと言って突き返した』と」


「それで(しょう)()様は」


「禁足を命じられました。ですが、ご懐妊の身。お子を守りたい一心で現状を訴えられ……それが決定打でした。大王の目に、『傲慢な言い逃れ』と映ったのです」


 将軍は顔を下げ、絶望に身を震わせている。


「崔夫人、真実が見えたところで、何にもなり得ません。王の命令であるという公印がある以上、これ以上の追及は……」


「……王が怒り狂うよう仕向ける。この国で全てを動かしているのは、背後に潜む闇なのですね」


「私から伝えられることは、ここまでです」


「……ご無理を申し上げ、失礼いたしました」


 玉蓮は、自らの胸元にある紫水晶を強く握りしめた。太后(たいこう)という絶対的な権力が、この国の全てを動かしているのだ。

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