七十五話 仮面の下 2
そして、その場は蕭将軍と玉蓮だけとなり、風の音だけが重い空気に似合わずそよぐ。
「……崔夫人、人払いしてまで、お話しされたいこととは?」
「将軍、この度の蕭妃様のこと、お父君も、将軍も心痛いかばかりかと存じます。実は、わたくしの姉も後宮に入って半月後に亡くなっているのです」
玉蓮は胸元を押さえ、息を吸い込んだ。言葉にしようとしたものが、熱と共に喉奥に絡んで出てこない。唇は動いたが、小さな吐息がこぼれるばかりだった。もう一度、小さく息を吐く。
「……大王が太子の頃です。蕭妃様の痛みが、わたくしには、他人事に思えないのです」
「……崔夫人」
「わたくしは、姉の最期に何があったのか、真実を知りたいのです。本日も、何か手がかりがあればと思い、こちらに参りました」
「崔瑾様の夫人といえど、あなたは敵国・白楊国の公主です。私に何を信じろと……」
「将軍。妹君、蕭妃様の一件、王の気まぐれなどではないでしょう……ここ数年の記録を見れば、ある名が浮かびます」
蕭将軍の眉がわずかに跳ねた。
「なぜ、それを」
「……異国から嫁いだばかりのわたくしにさえ、この国の異様さは手に取るようにわかります」
沈黙が二人の間に落ちる。
「蕭妃様は、今回、命拾いをなされました。しかし、次に何かがあったとき、果たして助けられるでしょうか。あるいは、蕭妃様のお食事に、ほんの僅か、見慣れぬ薬草が混ぜられていたとして、誰がそれに気づけましょうか」
「それは!」
「……確実に言えることは、蕭妃様はお命を狙われたということです」
玉蓮の言葉に、蕭将軍は視線を彷徨わせた。右に、左にと忙しなく動く瞳と、額を伝う汗。そして、卓の上で握りしめられた拳が白くなっていく。
「……蕭妃様は、あの気難しい王の寵愛を受けていました。ですが突如……」
ぽつりと、彼の唇から言葉がこぼれる。
「……王の怒りに触れたというのが表向きの理由です……」
声が小さく震えている。王の怒りという名目で片付けられるには、あまりにも裏が深すぎる。父である蕭尚書までも連行されたとなれば、何かが起こっている。




