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七十話 蜘蛛の謀略 1


 玉蓮と盤を挟んでいた崔瑾(さいきん)の元に、阿扇(あせん)が訪れた。


「崔瑾様」


 阿扇(あせん)は、音もなく頭を下げる。


「阿扇、あなたも打ちますか? 玉蓮殿の手はとても面白いのですよ」


 玉蓮は、扇で口元を隠しつつも、柔和に微笑(ほほえ)んでいる。


「崔瑾殿は、先ほどからわたくしの手を(かわ)してばかり。わたくしでは、勝つのは難しそうです。阿扇、あなたが代わりに——」


「結構です」


 玉蓮の言葉を遮るように、阿扇はきっぱりと言い放った。崔瑾が玉蓮に視線を向けるが、そこにはふわりと微笑(ほほえ)む美しい顔があるだけ。


「ご報告がございます」


 彼の緑がかった瞳は、崔瑾一人に注がれている。崔瑾は、軽く頷き、盤に視線を落とした。


「では、書斎に場所を移しましょう。玉蓮殿、しばし失礼いたします」


 そう言って立ち上がると、阿扇は一歩下がって後に続いた。


 書斎に向かう回廊(かいろう)の途中、周囲に人影がないことを確認して崔瑾は口をひらく。


「阿扇、玉蓮殿は嫁いできたばかりです。もう少し柔らかく接することはできませんか」


「……あの姫は白楊(はくよう)国の者。何を考えているかわかりません。私は、崔瑾様を守らねばなりませんから」


 その返答は、いつにも増して硬い。(かたく)なな側近の言葉に、わざとらしくため息をついて見せた。


「それは、困りましたね。阿扇には玉蓮殿を守って欲しかったのですが」


「……あの姫の歩く音からは、凄まじい武の匂いがいたします。私など不要でしょう」


 低く、拗ねた子供のような響きに、崔瑾はとうとう笑い声をあげる。


(武の匂い、か)


 あの姫が、ただの可憐な花ではないことを、阿扇は見抜いているのだろう。だからこそ、これほどまでに頑なになる。


「……もし、私に何かあれば、北の門を抜けるように。あなたに託します」


「『託す』は撤回願います。私は、最後まで崔瑾様をお守りいたします」


 阿扇は即座に反論したが、崔瑾は答えることなく微笑(ほほえ)んだ。

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