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六十七話 氷解の音 1

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇


 崔瑾(さいきん)の屋敷は、彼の人柄を映すように、華美ではなく、清潔で気品に満ちていた。そこには、赫燕(かくえん)の天幕に満ちていた血と鉄の匂いはない。代わりに、空間を満たすのは、磨き上げられた木の床の匂いと書斎から漂う、古書の墨と白檀(びゃくだん)の静かな香り。


「お疲れでしょう。何か、必要なものは?」


 向けられた穏やかな声と言葉。それでも、玉蓮は顔を上げなかった。


「——ございません」


 短く、鋭く、感情を乗せない。


 差し出された食事にも、まず銀の(かんざし)を浸した。特定のものを食べ過ぎることのないように、注意を払う。屋敷の中に、玄済(げんさい)国と最前線で戦ってきた玉蓮のことを知っている人間がいてもおかしくはない。中には家族が戦死した人間もいるかもしれないのだ。


(わたくしは、今、敵国にいる)


 毒殺も暗殺も、数えきれないほどに後宮で見てきた。贈られる茶も、菓子も、衣も、装飾具でさえも、唇の端の筋肉を使って謝辞を伝えながらも、全てを侍女に下げ渡すか、蔵にしまうように指示をした。


 自分が何を贈っても身につけない玉蓮を知っているはずなのに、崔瑾は、意に介する様子もなく、穏やかに微笑(ほほえ)んでいる。その打算のない優しさが、かえって玉蓮の胸に棘のように刺さった。

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