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六十四話 正義の一手 2

大都督(だいととく)、崔瑾殿。これは一体……白楊(はくよう)国の使節団と大王様へ嫁がれる姫君をお引き止めになるとは、どのようなお考えか」


 周礼(しゅうれい)の声は、まるで蜜のように甘く、しかし、その言葉の端々には、崔瑾の真意を探るような、ねっとりとした響きが混じっている。


「聞けば、公主は、大都督(だいととく)劉義(りゅうぎ)殿の学び舎にその身を置き、武芸にも通じていると。赫燕(かくえん)軍にて敵を撫で切りにしたその実力は疑うことなきもの。危険を(はら)む姫君を不用意に後宮へ入れることは、公主ご自身の身の安全、そして何より、王の安寧を脅かすことにも繋がりかねませぬ」


 崔瑾は、そこで一度言葉を切った。


 周礼(しゅうれい)は相変わらず扇で口元を隠しているが、その瞳が鋭く細められた。崔瑾はそちらを一瞥(いちべつ)し、再び前を見据えた。


「よって、まずは、いかなる危険からもお守りできるよう、我が屋敷にて、その身柄を保護いたします。これは、公主の安全を最優先に考えた上での、最善の策。そして、大王へのご報告は、しかるべき時に、この崔瑾が責任をもって執り行いましょう」


 周礼(しゅうれい)の持つ扇がわずかに震える。


「しかし、後宮にお入りになれば、王も姫君の美しさを存分に愛でられましょう。大王の楽しみを横から()(さら)うような真似は、忠臣として、あってはならぬことですぞ」


 周礼(しゅうれい)は、(あざけ)りの色を滲ませながら挑発的な言葉を繰り出す。だが、崔瑾は、その言葉を浴びながら、自らの呼吸一つ、乱さなかった。粘つくような視線を受けても、瞬きの回数は変わらない。


 手に持つ組紐(くみひも)は、風も意志も受けぬように静止している。崔瑾は、何事も起こっていないかのようにして、そこに立つ。


「忠臣として、王を危険に晒すような真似はできぬ、と申し上げているのです」


 周礼(しゅうれい)の顔から、微かな笑みが完全に消え失せる。崔瑾は、その視線から一切逃げることなく、真っ直ぐに彼を見つめ返した。

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