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六十三話 亡国の童歌

◇◇◇


 馬車の(わだち)が刻まれるたびに、(かす)かな砂埃が上がる。硬い座席から伝わる、規則正しい振動。車輪が石を弾く、乾いた音。その全てが、まるで、自分ではない、誰か別の人間が体験している出来事のように、どこか遠く、他人事のように感じられる。


 窓の(とばり)を少し上げて、外の景色に目を向ける。御者が言うには、この辺りは、呂北(ろほく)の西に位置する市場らしい。


 視界に飛び込んできたのは、果物を売る露店の前で、小さな女の子が、父親に何かを強請(ねだ)っている姿だった。父親は困ったように笑いながら、結局一つだけ、と赤い果実を娘の手に握らせる。娘が、満面の笑みを浮かべた。



 雛許(すうきょ)と何も変わらない、ありふれた親子の光景。玉蓮の喉が熱く引きつる。胸の奥にあったはずの敵意が、霧のように輪郭を失っていく。


 布を下し、再び深く座り直すと、先ほどまで外から聞こえていた子供達の無邪気な歌声が、よりはっきりと耳に届くようになった。



「北の王様どこ行った 首なくなって灰になり 紫の石が泣いている

 北の王子はどこ行った 燃えるお城で灰になり 紫の石が泣いている」



 いつだって童歌(わらべうた)には残酷さが残っている。戦乱の世ともなれば、なおさらだ。


 ——紫の石。


 それを耳にした瞬間、手が吸い寄せられるように石を探り、強く握り締める。胸元の水晶が脈打つ。同時に、(ふところ)匕首(ひしゅ)が、生き物のように熱を持った。歌声は、遠くへ消えていくのに、その残響が、耳の奥でいつまでも鳴っている。


 馬車は、ゆっくりと進む。そして、開かれた呂北(ろほく)西門(せいもん)の巨大な門の下を重い音を立てながらくぐっていった。

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