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六十二話 別れの匕首 1

◇◇◇


 輿入れの日。玉蓮は、送り届けられた豪華(ごうか)絢爛(けんらん)な衣を身に(まと)っていた。幾重(いくえ)にも重ねられた、血のように赤い絹の衣が、ずしりと重い。肌に触れるその感触は、柔らかいはずなのに、なぜか、冷たい鎖のよう。


 鏡に映る自分の姿は、死地へと送られる人形だった。



 玄済(げんさい)国へ出発する、その直前。彼女の前で、一室の扉が、師である劉義(りゅうぎ)の言葉とともに静かに開かれた。


「——最後に、古巣の者たちと挨拶を交わすことぐらい、許されるだろう」


 視線の先、部屋の中には、大連合軍を退けた戦功に対する褒賞(ほうしょう)のために、雛許(すうきょ)に呼び出されていた、赫燕(かくえん)とその幹部たちがいた。彼らは、これから玉蓮が向かう国の兵士たちを、誰よりも多く(ほふ)った男たち。


 その男たちが今、彼女の最後の別れの相手として、そこにいた。


 劉義が部屋の奥にいる男に視線を投げ、呼びかける。


「赫燕……」


 だが、相手は答えない。


「最後の(とき)だ」


 劉義を見上げれば、微笑(ほほえ)みと頷きが返される。玉蓮はその部屋の中に進んだ。


 膝を曲げ、礼をする。(かんざし)の飾りがぶつかって高い微かな音がこぼれた。


「皆様方には、これまで過分(かぶん)なるご厚情を(たまわ)りましたこと、(あつ)く御礼申し上げます。わたくし、玉蓮は、これより玄済(げんさい)国へ、嫁ぎ参ります」


 牙門(がもん)が勢いよく歩み寄ってくると、ぶっきらぼうに、干し肉の詰まった袋を押し付ける。


「腹が減ったら、戦はできねえからな」


 その無骨な優しさに、玉蓮は、こくりと頷く。(せつ)は、玉蓮の肩を強く掴み、「みっともなく死ぬんじゃねえぞ」と大きな目を潤ませながら言った。子睿(しえい)は、静かに「ご武運を」と頭を下げ、(じん)は、やれやれと首を振りながら、


「達者でな。お前がいなくなると、お頭の機嫌をとるのがまた面倒になる」


 そう悪態をつく。それに思わず笑っていると、朱飛が一人、彼女の前に進み出た。彼は、何も言わない。ただ、その夜風のように静かな瞳で、じっと見つめている。その眼差しに、玉蓮は思わず視線を逸らしそうになった。


 玉蓮に触れようとした手が、触れることなく止まる。それに応えるように笑えば、朱飛の顔がさらに痛ましく歪められた。

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