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六十話 無慈悲な勅命(ちょくめい) 3

◇◇◇ 朱飛(しゅひ) ◇◇◇


 玉蓮の後を追おうとして、足を止めた。あの背に手を伸ばせるのは、自分ではない——そう、決して。


「お頭……」


 玉蓮の姿が幕の向こうに消えても、天幕の中は、息が詰まるほどの沈黙に支配されている。朱飛は、天幕の中心に座す主の顔を、(にら)んだ。胸の奥で、灼けつくような何かが、出口を求めて、激しく(うごめ)いている。


 怒りの咆哮(ほうこう)を上げるか、あるいは、その場で使者の首を()ねると思っていた。なのに、なぜ。


「……これで、いいのですか」


 抑えきれずに、声が漏れる。何も答えない(あるじ)に胸の内で何かが暴れ出す。


「それなら……なぜ、あいつを! 一時の(たわむ)れならまだ! あいつが、どれだけ……」


 喉の奥から、絞り出すような声が(ほとばし)る。赫燕が、ゆっくりとこちらに視線を向けた。その深淵の瞳は、まるで感情のひとかけらも宿していないかのように冷たく揺らめく。


 だが、肘掛けに置かれた彼の手が、ぎり、と。硬い木を砕かんばかりに握りしめられているのを、朱飛だけが見ていた。赫燕は、一言だけ、低い声で口にした。



「……黙れ」



 その声は、地を這うように冷たく、絶対的だった。有無を言わさぬ、盤上の王の一言のように。その言葉を最後に、赫燕はもはや朱飛に視線を戻すことなく、その深淵の瞳で、天幕の先の闇を、じっと見つめていた。

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