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第1章:いつも通りの朝といつもの三人 ④

電車が目的の駅に到着し、ぼくたちはぞろぞろと降りていく乗客の流れに乗ってホームに降り立った。

改札を抜けると、見慣れた制服姿の生徒たちがあちこちにいる。陽葵と健太は、いつものことのように慣れた足取りで学校へ向かう人の波に紛れていった。


駅前のコンビニの前を通り過ぎたとき、健太が「あ、やべ、飲み物買うの忘れた」と立ち止まる。


「あんた、毎朝そう言ってない? そろそろ学習しなさいよ」


陽葵が呆れたように言う。健太は苦笑いしながら、コンビニの自動ドアの向こうへ消えていった。

陽葵はその背中を見て、小さくため息をつく。


「まったく、健太ってば。ああいうところが、ね」


その声はぼくにしか聞こえないほどの小ささで、呆れながらもどこか放っておけない響きを含んでいた。


「仕方ないよ。健太らしいというか」


ぼくがそう言うと、陽葵はフッと笑った。


「そうね。春斗は優しいんだから」


その一言が、なぜか少しだけ照れくさかった。

健太がペットボトルを片手に戻ってくるのを待ち、ぼくたちは再び歩き出す。


学校までの道は緩やかな坂になっていて、左右には昔ながらの商店や古びたアパートが並ぶ。

その奥には、新しく建ったマンションが朝の光を反射していた。

街は少しずつ姿を変えていく――その変化を、ぼくは見逃さないよう心の中に記録していた。


校門をくぐると、部活動の朝練を終えた生徒たちが談笑しながら行き交っている。

昇降口の前では友人同士が声をかけ合い、どこからか吹奏楽部の音色も聞こえてきた。

ぼくたちは靴を履き替え、それぞれの教室へ向かう。


教室は2階。廊下を歩く間も、陽葵と健太は他愛ない話を続けていた。

陽葵は時々、ぼくにだけわかるように目を合わせ、そっと笑う。

健太はそれに気づいているのかいないのか、時々ぼんやりと遠くを眺めていた。


教室のドアを開けると、すでに半数ほどのクラスメイトが登校していた。

窓際のグループは朝から賑やかに笑い声を上げ、中央では数人が宿題の答え合わせをしている。

男女半々のクラスは、それぞれの小さな世界を作り出していた。


ぼくの席は窓際の後ろから二番目。

健太は斜め後ろ、陽葵は前の列の通路側。

それぞれの席に着き、ぼくは鞄を机の横に置く。


「春斗、また数学の宿題、写させてくれ」


隣の席の男子が遠慮もなく声をかけてくる。

彼とは中学からの付き合いで、毎回のように同じことを言ってくる。


「別にいいけど……自分でやった方がいいんじゃないか?」


「わかってるって! でもマジでわかんねぇんだよ!」


頭をかく彼に苦笑しながら、ぼくはノートを開いて見せた。

こういうやり取りも、もう日課のようなものだ。


陽葵は席に着くやいなや、女子数人に囲まれていた。


「陽葵ちゃん、今日の朝ドラ見た?」「見た見た!ヤバかったよねー!」


ドラマや芸能人の話題で盛り上がるその輪の中心で、陽葵は明るく笑っていた。

ぼくや健太といるときの、少しツンとした表情はそこにはない。

ごく自然に、彼女はクラスの中心にいる。


一方の健太は、自分の席に着くなり机に突っ伏した。どうやら眠気が限界らしい。


ぼくはそんな教室の光景を眺めながら、ふと隣の空席に目を向けた。

いつもならそこに座っているはずのクラスメイトが、今日はまだ来ていない。

体調でも悪いのだろうか――そんな考えが頭をよぎる。


ガラガラ、とドアが開いた。

ざわついていた教室が、一瞬だけ静まり返る。


「はいはーい、みんな、朝のホームルーム始めるわよー」


明るい声とともに入ってきたのは、担任の野崎先生だった。

すらりとした体型に、柔らかな笑顔。二十代後半で、生徒たちからの信頼も厚い先生だ。


「出席取る前に、一つ連絡事項ね。この前話した文化祭の企画、そろそろ本格的に決める時期よ。みんな、何か案は考えてきた?」


先生の声が教室に響く。

文化祭――夏休み明けの大きなイベント。

これからの日々は、その準備で慌ただしくなっていくのだろう。


ぼくはペンケースからシャーペンを取り出し、ノートの端に小さく「文化祭」と書き込んだ。

また、いつもと少し違う日常が始まろうとしていた。

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